過酷な日程、酷暑下の気象条件…。”四大火炉”での東アジアカップに挑む、ハリル・ジャパンへの着眼点
今回選出されたメンバーから浮かび上がる大会の焦点を、大ベテラン・後藤健生が斬る。
▼酷暑下での連戦
現在は主力メンバーの大半を”欧州組”が占める日本代表。東アジアカップでは、その”欧州組”の招集が不可能であるため、名目的にはフルの「日本代表」ではあっても、今回のチームは実質的には”Bチーム”ということになる。
これに対して中国や北朝鮮には海外組が少ないため、名実ともにフル代表での参加となる。勝負ということを考えれば、当然、日本にとっては不利に働く。
もっとも、2年前の韓国大会ではやはり海外組不在のままで戦った日本が優勝し、柿谷曜一朗(バーゼル)らがブレイクしている。戦う以上、優勝を狙ってほしいのは当然だ。だが、結果についてのノルマを課したり、試合内容に対しての過剰な期待をしたりするのは難しいことは間違いない。
メンバー的にフルメンバーを招集できないこと以外にも、厳しい条件がそろっている。
例えば、遠征の日程。日本代表は7月29日にJ1リーグセカンドステージ第5節を戦った翌日の30日の木曜日に移動し、8月2日に北朝鮮との初戦を迎える。初戦までにたった2日の調整期間しかないのだ。新メンバーも多く、初めてともにプレーする選手もいる中で、コンビネーションなどは試合を重ねながら高めていくしかないのだろう。
しかも、猛暑の中での連戦となる。29日にJ1リーグを戦った選手たちは、東アジアカップで3試合を戦って8月10日に帰国。12日にはもうJ1の試合が待っているのだ。そして、東アジアカップの会場の武漢は中国の”四大火炉”と呼ばれる酷暑で有名な都市であり、週間予報を見ても、連日気温36℃で湿度も60%以上といった気象条件が続くようである。
▼柴崎岳は中心となれるのか?
さて、発表された23名のメンバーのうちで注目したいのは、U-22代表から抜擢された遠藤航と浅野拓磨。それに、すでにフル代表に定着している選手たち、すなわち森重真人、柴崎岳、宇佐美貴史あたりだろう。
例えば、柴崎。すでにハビエル・アギーレ監督時代から代表に抜擢され、1月のアジアカップでも日本がPK負けを喫した準々決勝・UAE戦で同点ゴールを決めるなど、素晴らしいプレーを見せていた。パスの受け手の右足に付けるか、左足に付けるか、そしてどんな球質のボールを送るべきかまで考えてパスを出せる天才的なMFである。
ただ、代表でプレーする場合、中盤にはこれまで本田圭佑(ミラン)や香川真司(ドルトムント)、遠藤保仁、長谷部誠(フランクフルト)などの国際経験の豊かな先輩たちに囲まれてのプレーだった。所属の鹿島には大ベテランの小笠原満男がいる。だが、今回の東アジアカップでは、柴崎は能力的にも、経験価的にもリーダー的な存在とならざるを得ない。そういうリーダーとしての立場でどんなプレーを見せてくれるのかを楽しみに見たいのである。
同様のことがディフェンスラインの中心となる森重や攻撃陣のリーダーとなる宇佐美にも言えよう。
▼遠藤航、浅野拓磨ら、五輪世代への期待値
一方、U22代表から抜擢された2人の”新人”にも期待したい。
浅野は、ハリルホジッチ監督が自ら視察に訪れた浦和戦で素晴らしいプレーをして2ゴールに絡み、逆転劇に貢献した。そのスピードや積極的なシュートへの意識などが素晴らしい。
また、遠藤は昇格初年度の湘南の守備および中盤で中心的な役割を果たしている。周囲のベテラン選手の中に入って、若さや勢いで戦っている選手とは違うのだ。早いタイミングでの前線へのミドルレンジでのパスによる攻撃の組み立て。そして、湘南ではCBとしてプレーする守備能力。将来の日本代表の中盤を背負って立つ存在になってもおかしくない選手である。
浅野も、遠藤も、今回の東アジアカップで活躍できれば、フル代表に定着する第一歩となるだろう。
また、U-22代表のためにも、彼らが国際経験を積めるのは大きな意味がある。来年1月にはリオ五輪最終予選を控えるU-22代表だが、残念ながらチームとして活動する場がほとんどないのが実態だ。U-22代表の中心選手となる遠藤や浅野にとって、今回の東アジアカップは国際経験を積むための実に貴重な機会でもある。
▼厳しい戦いだからこそ見極められるモノ
さて、今回の大会は日程面でも、気象条件面でも厳しい条件であることは最初に指摘した。それに加えて、試合会場の武漢体育中心体育場のピッチ・コンディションも決して良好なものではないと聞く。そして、対戦する3チームとも激しいボディーコンタクトをしかけてくるはずだ。
日本チームにとっては、実に厳しい戦いではある。しかし、だからこそ、厳しい国際試合の場で戦い抜くことができる選手を見極めるのにもってこいの大会でもあるのだ。試合結果や技術的・戦術的な試合内容については、多くを期待することは難しいと思う。だからこそ、そんな厳しい環境の中でも戦い抜ける選手を見てみたいと僕は思うのである。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続けており、74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授。