J論 by タグマ!

Jリーグ中継を通じて日本サッカーの進化につながるような試みにトライしてきました【ありがとう、スカパー!】

2007シーズンから10年間、スカパー!はJリーグオフィシャルブロードキャスティングパートナーとして、J1・J2全試合生中継を行うなど、長らくJリーグファンのテレビ観戦環境の普及に寄与してきた。10年という区切りを迎え、オフィシャルブロードキャスティングパートナーとしての契約は終了したが、Jリーグファンはこの10年間を恩義に感じている。『ありがとう、スカパー!」』と題した今回の特集では、この10年間のJリーグとスカパー!の関係性を振り返り、今後新たな関係を築くことになる近未来に関して、スカパー!関係者にお話をうかがった。前・後編の2回シリーズでお届けする。

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(写真・左)
スポーツコンテンツ事業部サッカー事業チーム
渡辺 俊晴さん

(写真・右)
スポーツコンテンツ事業部サッカー事業チーム
アシスタントマネージャー
植田 恭輔さん

▼視聴者から届いた温かい言葉の数々

—-まずは植田さんと渡辺さんの現在の部署と簡単な仕事内容を教えていただけますか。

植田:以前のJリーグ推進部が発展する形で組織変更された結果、今はスポーツコンテンツ事業部サッカー事業チームに所属しています。この部署では国内外のサッカーコンテンツの調達と編成、そして各種プロモーション、サッカーセットの販売促進といった業務を行います。まだ今年1月にできたばかりの部署です。

渡辺:私も植田と同じくスポーツコンテンツ事業部サッカー事業チームに所属しており、2012年の4月から前身のJリーグ推進部に所属していました。Jリーグ推進部ではWebやSNS上でのプロモーションと担当クラブの、スタジアム来場者とスカパー!加入者を増やすために、クラブや中継局の方々と一緒に考えていく仕事に従事してきました。2016シーズンの担当クラブは浦和レッズさん、名古屋グランパスさん、ヴィッセル神戸さん、モンテディオ山形さん。そして九州の全Jクラブを担当していました。

—-2016シーズンをもって、オフィシャルブロードキャスティングパートナー契約は終了となり、一つの区切りを迎えたのかなと思います。現在のお二人の心境を聞かせてください。

植田:一つの新しい節目を迎えて、2017年からは新たなチャレンジの年になると思っております。振り返れば、昨年の12月15日に、「来シーズンのスカパー!でのJリーグ中継はありません。Jリーグ系セットは2017年1月末で終了します」という『スカパー!からの大切なお知らせ』をリリースしましたが、そのあと視聴者の方々から頂戴した言葉はどれも温かいものが多く、この10年間、われわれがやってきたことは間違っていなかったのだと確信いたしました。そして、これから新しいチャレンジが始まります。その中でどのようにサッカー界と関わっていけるか、今まさに模索している段階です。

渡辺:スカパー!でJリーグ中継を始めてから10年が経過し、来シーズンのリーグ戦の中継がなくなったことが決まった折、まず浮かんだことはファン・サポーターの方々にリーグ戦の試合映像を届けられずに申し訳ないという思いでした。加えて、試合の中継や番組を制作してくださっているスタッフの顔も浮かびました。今後は、Jリーグのブロードキャスティングパートナーではなくなりましたが、引き続きJリーグを違った形で応援させていただきたいと思っています。サポートという言葉を使ってしまってはおこがましいですが、今までと変わらず日本サッカーのためになることをやっていきたいと思っています。

—-先ほど植田さんから「視聴者の方からの温かい言葉がありました」とのお話がありましたが、例えば印象に残っている言葉は何でしょうか?

植田:どの言葉も心に響きましたが、「スカパー、ありがとう」という言葉を多く頂戴しました。また「Jリーグの全試合を当たり前のように中継してくれていましたが、(スカパー以前では)そんなことは当たり前ではなかったんですよ」というコメントもいただきました。見てくれている方は見てくれている、非常にありがたいなと思いました。

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▼試行錯誤したスタンダードの構築

—-ここからは少し昔にお話を戻しまして、スカパー!さんがJリーグとオフィシャルブロードキャスティングパートナーを結ぶことになったそもそもの経緯を聞かせてください。

植田:スカパー!は、日本が初出場したフランスW杯の翌年の1999年、イタリア・セリエAのペルージャで中田英寿さんが活躍していた時期から欧州サッカーを中心にサッカー中継を放送してきました。その後は2002年開催の日韓W杯を中継したことで、サッカーがスカパー!の最大のブランドとしてイメージ付けされてきました。その過程で国内サッカーの象徴であるJリーグの中継にもしっかり取り組もうと、2006年からまずJ2の全試合中継から始めて、満を持して翌年の2007年からJ1、J2全試合生中継を開始することに至りました。欧州サッカーを入り口として、国内リーグの象徴であるJリーグにもあらためて取り組んできた次第です。

—-例えば、始まったばかりの時期の苦労話を聞かせてください。

渡辺:全国の中継制作局の方々と一緒に試合中継を作っていく段階で、例えば試合をメインに映すカメラ(ベースカメラ)を全会場同じサイズにする、ボールデッドでないときは選手の抜きは行わないなど、スカパー!Jリーグ中継としてのスタンダードを構築することから始めたと聞いています。制作局はクラブごとに全国で異なるので、それぞれ自分たちの作りたい映像がある中で、それぞれが自由に制作してしまうと、視聴者の方も統一性がなく見づらいだろうと、カメラワークの基本の部分は全体で統一をして全国のサポーターに届けるという、最初のスタンダードを構築するまでは非常に苦労したようです。

—-スタンダードな中継をマニュアル化していく、といったイメージでしょうか。

植田:視聴者の方々はお目当のひいきクラブを軸にアウェイゲームを見た時に制作局によって、画の作りが違わないように非常に意識していたようです。

渡辺:毎年、年に2、3回は全国のディレクターを集めて、スカパー!の今シーズンの中継はこういう部分にこだわって作っていきたいというイメージを常々共有してきましたし、常に新しいチャレンジをしていこうという姿勢で取り組んでまいりました。

例えば、2011シーズンから試合中の得点表示の下にシュート数の表記を始めましたが、その経緯としては2010年のW杯で日本の決定力が不足していると言われた中でシュートを打たなければゴールは決まらない、シュート数を意識できるようなJリーグ中継を全国に届けるという想いを込めて、シュート数表記を始めました。実は、2015シーズン開幕の時に枠内シュート数の表示だけにしたところ、選手やサポーターの方から「わかりづらい」という、ご指摘を多く頂戴し、枠外も含めたシュート数表示に戻したりもしました(あの時はご迷惑をお掛けいたしました……)。

スカパー!としては、ただひたすら試合を中継するのではなく、Jリーグ中継を通じて日本サッカーの進化につながるような試みをしてきました。

—-近年のトラッキングデータ導入も画期的な試みだったと思います。

渡辺:トラッキングデータを解説者や実況の方がどのように自分の言葉にして伝えていくか、導入を始めた段階ではとても難しかったです。パスの成功率が高いと言っても、後ろでボールを回しているだけかもしれませんし、収集したトラッキングデータをいかに意味のある情報として視聴者の方に分かりやすく伝えるか、2015シーズンの導入当時はかなり苦労しました。

—-J1では試合後に解説者の方が監督へインタビューをしていますが、それも画期的な取り組みだったと思います。

渡辺:スカパー!の中継では、とにかく「サポーターが見たいものに応える」ことを意識していました。監督がどのような意図で采配をしていたのか、勝っても負けてもサポーターは気になるだろうと、各クラブの理解を得て、中継一年目から試合後の両監督インタビューを実施してきました。しかも、その試合を観た解説者が直接聞くことで、ただのインタビューではない、より深い話が聞けたと思っています。スカパー!中継の特徴の一つでした。

—-各Jクラブに担当リポーターを配置して、取材した内容を中継の中でリポートしていくスタイルもスカパー!さんのJリーグ中継における一つの特徴でした。

渡辺:解説者が語るプレー面以外の選手の内面的な魅力をリポーターの方々がうまく伝えてくださったと思っています。真剣勝負をきちんと視聴者にお届けしながら、選手の内面を伝えていくという意味で非常に良い体制でした。

例えば、ゴールを決めて、選手たちが揺りかごダンスをしている時に、それが誰のお子さんの誕生を祝っているのか、映像はお届けしているのに、どの選手のお子さんを祝っているのか、それが分からなければ視聴者も困惑してしまう部分もありますから、その理由をエピソードとあわせて伝えられたと思います。

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スカパー!加入者促進のブースを出すことは視聴者との貴重なコミュニケーションの場となった

▼時代のニーズに即した視聴環境の提供

—-個人的には『Jリーグオンデマンド』も重宝してきましたが、こちらを始めた経緯を聞かせてください。

渡辺:2012年から『JリーグLIVE』という名称でオンデマンド配信を始めましたが、その当時は今のようにJ1・J2全試合のライブ配信はしておらず、J1の各節6試合以上といったように試合数を絞った形で配信していました。始めた当初はアクセスが集中して機器トラブルが起きてしまい、映像の配信が止まってしまうなど、なかなか安定してサービスをお届けすることができず、非常にご迷惑をおかけしました。シーズンを重ねていく中で、J1・J2・ルヴァンカップを全試合配信し、当初は2週間だったアーカイブ期間が2016シーズンは開幕節から最終節まで、いつでも見逃し配信をお楽しみいただけるようになりました。

Jリーグオンデマンドアプリではトラッキングデータや順位表、ゴール数などのデータ類を楽しめるようになりましたし、海外7カ国で視聴できるようになっています。テレビでスカパー!のJリーグ中継を見ていた視聴者の方も、テレビで見られない時にはスマホやタブレット、パソコンといった視聴環境でJリーグ中継を楽しめるようになりました。

—-Jリーグオンデマンドは、視聴者の視聴環境に合わせたサービスが展開できていますよね。

渡辺:今の時代、見たい時にいつでもどこでも見られる環境は、視聴者の方々が求めていることだと思います。テレビはもちろんのこと、スマホやタブレット、パソコンと、どんな端末でも安定してJリーグ中継を見られる環境を整えることが時代のニーズに即しているのかなと思っています。

—-例えば、2016年は10秒リプレイ機能が加わるなど、機能性も年々進化していました。

渡辺:2016年には映像の上にデータを重ねて視聴できる『スタッツプレーヤー』機能も導入し、どんどん進化していました。それこそスカパー!オンデマンドが始まる前は、ガラケー(ガラパゴス携帯)でJリーグ中継を見られるようなサービスをしていましたが、そのころから考えると、この10年ですごく進化したなと思います。ただ残念ながら、1月末をもって、Jリーグオンデマンドサービス及びアプリは終了となります。
(後編「われわれスカパー!がJリーグの試合中継を放送することはいったん終わりますが、みなさんが楽しみにしている”最高の週末”は変わりません」)

郡司 聡(ぐんじ・さとし)

茶髪の30代後半編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』編集部勤務を経て、現在はフリーの編集者・ライターとして活動中。2015年3月、FC町田ゼルビアを中心としたWebマガジン『町田日和』を立ち上げた。マイフェイバリットチームは、1995年から1996年途中までの”ベンゲル・グランパス”。