J論 by タグマ!

仮想シミュレーション『サガン鳥栖vsコートジボワール代表』

現在のJリーグの中でも特に"色"のあるサッカーをしているチームであるサガン鳥栖。"トヨグバ"こと豊田陽平を擁する九州の雄は、アフリカ最強の誉れも高い強敵にどう挑むのか?

毎週、週替わりのテーマで議論を交わす『J論』。今週は「W杯初戦。J論的注目選手&注目ポイントはここだ」と題して、各書き手がコートジボワール戦、そしてW杯に向けた注目選手と注目ポイントを説いていく。第3回目となる今回は、Jリーグの単独チームがW杯に出ていたら、果たしてどんな戦いになるのか。そんな”妄想”を膨らませることで、対戦相手の特長を浮き彫りにしてみたい。今回登場するのは、現在のJリーグの中でも特に”色”のあるサッカーをしているチームであるサガン鳥栖。”トヨグバ”こと豊田陽平を擁する九州の雄は、アフリカ最強の誉れも高い強敵にどう挑むのか?


▼J1で2位の底力
 W杯中断までのJ1リーグで2位(首位・浦和と勝ち点差『1』)の好位置につけた鳥栖。その強みは何と言っても、チーム全体のハードワークと折れないスピリットである。現役時代は韓国を代表するファンタジスタだったユン・ジョンファン監督だが、その方向性は高さ・強さ・速さを押し出す方向で一貫している。

 今季のJリーグ開幕前の合宿期間だけで、新加入で太り気味だった安田理大を3kgの減量に成功させるなど、ハードなトレーニングにも定評がある。結果として生まれたのは、運動量なら世界の強豪にも引けを取らないチームである。九州の真夏を思えば高温多湿の会場レシフェも何のそのだ。なお、鳥栖のメンバーは中断前のJ1リーグでのものを基本とした。

▼鳥栖の左翼、コートジボワールの右翼
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 システムは両チームとも[4-2-3-1]が基本型(図参照)だが、中央のトゥーレ・ヤヤが起点を作るコートジボワールに対し、鳥栖は徹底したサイドアタックで対抗することになる。相手のトライアングルを藤田直之、高橋義希の両ボランチ、さらには攻守にファイトするトップ下の池田圭も加わる形で防ぎ、前線のドログバは呂成海とキム・ミンヒョクがダブルチームで挟み込む。タイトな守備を何とか掻い潜ったトゥーレ・ヤヤのミドルシュートはGK林彰洋が長いリーチをいっぱいに伸ばして弾き返す。

 そして自陣で高橋がセカンドボールを奪ったところから、左サイドバックの安田が猛ダッシュで左サイドを駆け上がり、ディエのタックルをかわした金民友を外側に追い越し、パスを受ける。そこから右サイドバックのオーリエの手前からアーリー気味のクロス。センターバックの巨漢バンバが目測を誤った背後に豊田が飛び込んで豪快なヘッドを叩き込む。コートジボワールの右サイド守備の脆さと、鳥栖の左サイドアタックの強さ、そして本家ドログバのお株を奪う豊田の存在が噛み合ったゴール。スタジアムの鳥栖サポーターは歓喜し、レシフェの観客も「サーガン! サーガン!」と連呼し始めた。

 最初の決定的なチャンスを見事にものにした鳥栖は、コートジボワールの猛攻にも怯むことなく、バイタルエリアに最終ラインが吸収されないように耐える。そしてボールを奪ったところからシンプルに相手ウイングとサイドバックの間を突き、右サイドの水沼がダイアゴナルにボールを運ぶことでコートジボワールの攻勢を削ぎ続けた。

 豊田はボールに触れない状況でもその間も高いポジションを取り続けることで、コロ・トゥーレが統率する最終ラインのプッシュアップを許さず、中盤と分断することで相手の布陣を全体的に間延びさせることに成功する。これにより個の能力で勝るコートジボワールに対して、常に数的優位を維持したのだ。

 そうした状況でも右サイドのジェルビーニョは危険なドリブルを仕掛けてきたが、鳥栖で完全復活を果たした安田が何とか粘り強く付いて突破を許さず、カットインには藤田と呂が縦にサンドして防いでいた。

▼折れない鳥栖、尽きぬ攻勢
 しかし、後半の立ち上がりにオーリエの縦パスから鋭いカットインを仕掛けたジェルビーニョを呂が倒してしまい、ペナルティエリアのすぐ手前でFKに。トゥーレ・ヤヤが右足を振り抜くと科学者も首をひねるような曲線を描いた鋭い弾道が林の反応をも破り、ゴール左隅に突き刺さった。

 普通のチームならここで下を向いてしまうところだが、ユン監督にメンタルを鍛え抜かれた鳥栖の選手たちは逆にギアを入れ直す。これこそ、彼らがJ1で2位にいる理由である。右サイドでカルーの存在を消すことに専念していた丹羽竜平も、機を見て攻め上がるようになった。

 逆にコートジボワールは攻守のバランスを重視するラムーシ監督のコンセプトが鳥栖に対しては災いしており、ドログバが前線で孤立していた。そうした状態でも3年連続アフリカ最優秀選手のトゥーレ・ヤヤが万全なら、その破壊的なドリブルとパンチ力のあるシュートに鳥栖も苦しんだはずなのだが、負傷した膝をかばいながらのプレーは明らかに精彩を欠いていた。

 鳥栖が追加点を奪ったのは75分。安田と金民友のコンビネーションで左サイドを突き、再び安田がクロスに持ち込んだが、右サイドバックにポジションを替えていたコロ・トゥーレに当たりラインを割った。ここでライン際に素早く駆け寄った藤田がボールボーイからボールを受け取ると、助走からゴール前にロングスロー。鳥栖の情報がないコートジボワールは思わぬ飛距離に虚をつかれ、豊田とバンバが競ったボールはこぼれていく。これをダイレクトで水沼宏太の右足がドンピシャで捉え、ゴールネットを揺らした。2-1。

 直後には歓喜の輪を作った鳥栖イレブンだが、すぐに切り替えてポジションに付く。すると3分も立たないうちにユン監督は池田を下げてDFの菊地直哉を投入。5バックにしてコートジボワールの反撃に対抗した。

▼レシフェの奇跡は……
 すると80分過ぎ、コートジボワールのラムーシ監督はMFのディエを下げて203cmのFWラシナ・トラオレをドログバと並べるツインタワーを前線に作る。左のボカからのハイクロスをラシナ・トラオレがヘッドで合わせた時は鳥栖のサポーターを冷やりとさせたが、ボールはクロスバーの上に当たって外れた。

 鳥栖の粘り強い守備に追い詰められるコートジボワール。87分には疲労困憊のトゥーレ・ヤヤを下げてFWボニーを投入し、5トップとも言える布陣に切り替える。ユン監督もDFの小林を加えて6バックに近い布陣で逃げ切りを図る。表示されたロスタイムは3分。立て続けのクロスを跳ね返してきた鳥栖があと一歩で勝利というところだったが、最後の最後で強引に突破をはかったドログバを、疲労で反応が鈍ってきていたキム・ミンヒョクがエリア内で引き倒し、PKに。

 コートジボワールの”キング”が蹴ったボールは必死に体を伸ばした林の右手をかすめ、無情にもゴールへ突き刺さった。”レシフェの奇跡”は起こらず。惜しくも勝利を逃した鳥栖だが、アフリカの強豪に勇猛果敢な戦いを挑んだ彼らは、世界中の拍手を浴びることとなった。