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【日本vsウズベキスタン超速レビュー】ハリルホジッチの”種まき”。収穫の季節へ、新生日本代表の助走が始まった

博識の党首・大島和人はハリルホジッチ2戦目となるウズベキスタン戦で見えた指揮官のチャレンジに注目した。

3月27、31日とハリルホジッチ監督が就任してから初の国際Aマッチが実施される。招集されたメンバーは新顔を多数含む大所帯。『J論』では、「先発? 戦術? 記者会見? 私は新生日本代表の初陣でこの一点を注視する」と題して、あらためてこのシリーズにフォーカス。博識の党首・大島和人はハリルホジッチ2戦目となるウズベキスタン戦で見えた指揮官のチャレンジに注目した。

▼前半はウズベキスタンペース
 終わってみれば5-1の完勝だったが、決して楽な試合ではなかった。

 日本は前線からの激しいプレスで、試合開始直後から主導権を掴んだ。前半6分には本田圭佑、乾貴士が1タッチで相手守備を崩し、香川真司が決定的なシュートを放つ。これが最初の決定機で、先制点はその直後のCKからだった。青山敏弘が相手GKの弾いたボールに反応し、スライスの懸かったミドルをゴールの上隅に突き刺す。上々の出足だった。

 しかしその後の40分間は、むしろウズベキスタンのペースだったように思う。ハリルホジッチ監督は前からプレスをかけるだけでなく、前後左右の間隔もタイトに詰める、コンパクトな守備を志向している。ウズベキスタンはプレスの”外”を的確に尽き、日本のDFラインは左右に揺さぶられていた。それでも弛まず小まめにスライドを続ければいいのだが、選手にとって小さくない負荷だ。連携と判断のミスから、エリアの両脇への侵入を許す場面も散見され、”ギリギリ”の対応はチュニジア戦よりも多かった。

▼混乱を生み出し限界値を見極めようとする指揮官
 一方でハリルホジッチ監督は、敢えてこのようなリスクを取ったのだろう。4日前のチュニジア戦から、スタメンの全員が入れ替わったことを見れば分かるように、チームはまだ固めの段階に入っていない。新しい戦術が1週間の合宿で定着するはずもない。むしろ混乱状況を作り出して選手を追い込み、選手個々の可能性とチーム戦術の限界値を見極めようとしていたのではないだろうか?

 結果として守備面は粗が目立った。前線が踏み込んで、中盤もそれに続いて高い位置から相手をハメ、時間とスペースを奪って手詰まりにする…。それが理想のプレッシングだろう。しかし高いプレス、コンパクトなゾーン設定は、外や裏の隙を作りかねない。そしてどんなアスリートも90分をフルスピードで走り続けることなどできず、強度にメリハリをつけないと守備は機能しない。

 しかしまず「行ってみる」ことから、修正の手がかりは見つける。”守備に隙があった”ことは、極めてノーマルな現象にして、むしろポジティブな兆候だ。

 ダイレクトな速攻も、守備がハマっていなければ絵に描いた餅で終わる。相手が待ち構えている状況からロングボールを蹴っても、敵にボールをプレゼントするというだけの話だ。相手に圧力をかけて、バタバタした状況に追い込む。可能な限り高い位置で奪い切り、素早く攻撃に転ずる。そういう前提があって、ハリルホジッチ監督の狙うサッカーもようやく機能する。ウズベキスタン戦で攻撃が良かったというなら、少なからず隙があったとはいえ、大枠で見れば守備も機能していた証拠だ。

▼宇佐美の輝きと青山の発見
 ただ5-1というスコアは、日本が粛々とゴール前の決定力を見せた結果だ。後半9分の2点目は、まさに”個”が活きた。乾貴士が得意のドリブルで相手をひきつけ、エリア内のスペースががら空きになった。そこから太田宏介の高い左足クロス、岡崎慎司のダイビングヘッドという”得意技”が連鎖し、試合は実質的に決まった。

 そこからウズベキスタンの守備が散漫になり、日本は望外のゴールラッシュを迎える。後半35分には柴崎岳が相手を裏返す50mの超ロングシュートから3点目を決める。同37分に失点を喫したが、38分に宇佐美貴史、45分に川又堅碁という代表初ゴール2発で”倍返し”に成功した。ハリルホジッチ監督が言うように「スペクタクルな試合」となった。

 宇佐美は後半18分からのプレーとなったが、単に得点を決めただけでなく、本田や岡崎、香川とも問題なく”絡んで”いた。彼が持つシュートの質は既に誰もが分かっていたものだろうが、”使い使われる”という機能性も見て取れた。守備面で彼にどこまで要求するか、要求できるかという難題はあるが、少なくとも鉄板メンバーの次なる位置づけとして”切り札”にはなり得るだろう。

 青山はこの試合のマンオブザマッチと言い得る働きを見せた。29才という年齢を考えると決して”新戦力”ではないと思うが、発見であったことは間違いない。彼の持つ攻守の活発さは、新監督の志向するものともフィットするだろう。

 日本代表が勝ったこと、新戦力が結果を出したことは素晴らしい収穫だ。そして前半の守備に隙があったことも、チャレンジをしたからこそで、次の収穫に向けた”種”になる要素だ。ハリル・ジャパンが本当に様々なものを得た、ウズベキスタン戦だった。

大島和人

出生は1976年。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。柏レイソル、FC町田ゼルビアを取材しつつ、最大の好物は育成年代。未知の才能を求めてサッカーはもちろん野球、ラグビー、バスケにも毒牙を伸ばしている。著書は未だにないが、そのうち出すはず。