【日本vsチュニジア超速レビュー】3分で狙いは見えた。速さを持つ新顔たちはザッケローニ組を越えられるのか
▼意図が明確だったスタメン
開始3分でハリルホジッチ監督の狙いが分かった。もっと言えばスタメンが発表された段階で、彼の志向するものが分かった。前線の右から左へと並んだのは代表1キャップの永井謙佑、0キャップの川又堅碁、10キャップの武藤嘉紀というフレッシュなトリオ。いずれも縦への勢いを出せるタイプだ。
彼らの勢いは攻守両面で見て取れた。かなり高い位置から相手との間合いを詰め、真正面から潰しに行くプレスは新監督の”色”でもあるのだろう。ボールとゴールの線を切ることは守備の原則だが、アプローチスピードの速さ、靴一足分でも近寄ろうという球際の意識に良いインパクトを感じ取れた。単に監督が要求して彼らが実行したというより、元々アグレッシブなプレーを得意とする選手が前線に並んでいた。
勢いがより強く出たのは攻撃面だ。3人はボールを収め、連動して崩すというタイプではない。その一方で裏、縦への意識が強く、ゴールに直結するパスから”チャレンジ”を繰り返していた。永井、川又、武藤はいずれも前を向いた仕掛けで生きるタイプ。プレーが単発に過ぎるきらいはあったが、前半20分以降からは彼らが何度か惜しい場面を演出した。29分には川又がスルーパスから抜け出してゴールに迫り、43分には武藤が川又を囮にして惜しいシュートを放った。
チームとしてみればミスもあったし、組織的にはまだ荒削りだった。とはいえ勇気を持って出ていく姿勢を評価できる前半45分だった。
▼結果で示したザッケローニ世代
終わってみれば試合が決まったのは後半で、試合を決めたのは常連組である。後半15分に本田圭佑(69キャップ)と香川真司(67キャップ)がピッチに入ると、同27分には岡崎慎司(89キャップ)も登場。代表初出場の宇佐美貴史が見せたプレーも無視するべきものではなかったが、結果的には”いつもの3人”の連係から2点は生まれた。
後半33分の先制点は香川が相手を引きつけて左サイドにスルーパスを送り、起点となった。本田が悪い体勢から巧みに折り返すと、岡崎はファーからヘッドを叩き込む。同38分の追加点は岡崎が密集から左に落として、香川がGKの間合いを外す”くさいボール”を打ち込み、最後は本田が押し込んだものだった。ハリルホジッチ監督の戦術やスタイル云々でなく、3人のクオリティと、今まで築き上げた連携がゴールを生んだ。「彼らはやっぱり違うよね」という一言で分析を済ませていい試合だったのかもしれない。
岡崎は前への勢い、裏を取る動きに強みのある選手だ。となればハリルホジッチ新監督の色に染まり易いタイプなのではないだろうか?
本田と香川は間でプレーし、がむしゃらに前へ向かうというより、タメを作って緩急を制御できるタイプだ。彼らの個性と新監督のサッカーがどう”折り合うか”は、今後の代表を左右するポイントとなるだろう。
一方で”ザッケローニ世代”が結果を出したことは、後半途中まで見せていた新代表のチャレンジを否定するものではない。後半の展開を見れば、チュニジアに消耗もあっただろう。試合がオープンな展開になれば、その時間に入ったアタッカーが輝くのは必然と言っていい。ハリルホジッチ監督の”色”に言及するなら、まずあれだけ積極的な守備をしつつ無失点で試合を終えたことは評価に値する。攻撃面でも新戦力は前への推進力、スピード感という、今までの日本代表に不足していた要素を見せてくれた。
今までの代表選手が持っていたクオリティというベースに、勢いやスピードというプラスαをどう加えるか。そこがハリルホジッチ新監督の色付けになるのではないだろうか?
思うに永井や武藤、宇佐美が”常連”を脅かさなければ、ハリルホジッチ監督の成功はない。チュニジア戦に限れば先輩たちは貫録を見せたが、新顔がそのまま譲っていたら日本サッカーに進歩はない。そういう意味で今日の大分で見て取れた競争はポジティブなものだった。新戦力の台頭と古株の意地で、ハリルホジッチ監督の描く絵がよりカラフルになることを、今は願いたい。
大島和人
出生は1976年。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。柏レイソル、FC町田ゼルビアを取材しつつ、最大の好物は育成年代。未知の才能を求めてサッカーはもちろん野球、ラグビー、バスケにも毒牙を伸ばしている。著書は未だにないが、そのうち出すはず。