J論 by タグマ!

日本にもデラップが必要だ!? ロングスロー重視の新監督にオススメできる選手と言えば……?

河治良幸は監督のタイプから、あるスキルの持ち主を推薦する。それはボールがタッチラインを割る何でもない状況を、「チャンス」へと変貌させるスキルだ。

3月12日、日本代表にハリルホジッチ新監督が誕生した。選ぶ人が替われば、選ばれる人の傾向が変わっていくのも必然というもの。今週の『J論』では、Jリーグでの「選手探し」を公言している新監督に推薦したくなるタレントを各記者が選考。「勇将の下に弱卒なし。ハリルホジッチ新監督に薦めたい”Jの変人”」と題してお送りする。二番手に登場の河治良幸は監督のタイプから、あるスキルの持ち主を推薦する。それはボールがタッチラインを割る何でもない状況を、「チャンス」へと変貌させるスキルだ。

▼新監督はセットプレー重視
 ハリルホジッチ監督がブラジルW杯で率いたアルジェリアというとハードワーク、鋭いカウンター、素早い攻守の切り替え、複数のシステムなど、色々とキーワードが浮かんで来るのだが、実は最も筆者の記憶に刻まれているのがグラムという選手のロングスローだ。

 主に左サイドバックを担っていたグラムは、先発メンバーの中では大して目立つ存在ではなかったし、実力が突出しているわけでもない。しかし、ボールがタッチラインを割ると彼はアルジェリアの最も強力で危険な武器となっていた。起用の理由は攻守の献身的なプレーという前提あってのものだろうが、そのロングスローが、セットプレーを重視するハリルホジッチ監督が頼りにするものだったのは間違いない。

 はたして日本に同じロングスローで対戦相手の脅威になる選手は……いた。松本山雅のMF岩上祐三だ。

▼松本の人間発射台
 ロングスローを投げられる選手は、サガン鳥栖の藤田直之などJリーグにも何人かいる。しかし、岩上のそれは鋭く、正確で、バリエーションもある。ボールがラインを割る度に、観る者に何か得点の予感をさせるものを持っているのだ。

 ロングスローというのは決して遠くに投げられればいいというものではない。もちろん”放り込み”的なそれも時に得点を生むが、狙いを持ってターゲットマンに向けて投げられる選手は国際レベルで見てもそう多くはない。

 そんな中、ロングスローで最も知名度を上げたのはイングランドのストーク・シティで活躍した元アイルランド代表のロリー・デラップだろう。

 槍投げの学生チャンピオンでもあったデラップの”人間発射台”とも形容されたスローインはキックと見まがう弾道で正確にターゲットをとらえ、多くのゴールを生んだ。実はロングスローにはFKと違う大きなメリットがある。どれだけ前でボールを受けてもオフサイドにならないという一点だ。

 デラップがボールを持ってボールをユニフォームでぬぐう度、味方のサポーターは期待し、相手のサポーターは危機感をつのらせ、中立的なサッカーファンもワクワクする。実は彼のロングスローには得点を導くことに加えて、重要な効果があった。チームが良いリズムであれば勢いを乗せ、リズムが悪い時にはそれを断ち切るという効果だ。彼がロングスローを投げ、それがチャンスにつながった後、ストーク・シティに流れが傾いた試合を何度も目にしている。

 CKというのは試合の主導権がある程度そのまま数字に表れるものだ。相手を押し込んでいれば増え、押し込まれていれば限られる。それに比べ、スローインは流れにそれほど関係なく発生しやすい。例えばロングキックを相手がサイドにクリアした場合、あるいはライン際でハイボールを競り合った時も敵陣で味方のスローインになることはしばしばあるからだ。

▼代表に見合う資質はある
 岩上の話に戻そう。すでに松本山雅の大きな武器になっている彼のロングスローは反町康治監督の中でも戦術として、勝利のプランに組み込まれている。2013年シーズン途中で湘南から岩上が入ると、すぐにロングスローは効果を発揮し、まるでデラップのそれの様にゴールを演出する。しかし、2014年になるとさすがに相手チームも警戒し、対策を立ててきた。

 著書『ジャイアントキリングはキセキじゃない』の取材で、筆者は反町監督にこんな質問をしている。

――松本山雅はセットプレーが武器と言われますが、これまでのゴールを見返すとリスタートから2つ目、3つ目のところで得点しているのが大半ですよね。
「ほとんどがそうだよ。だから例えば岩上のロングスローは対戦相手も研究しまくっているから、全員が戻って来て、どうやって守るかを一所懸命やっているんだけど、こっちがふと長いボールを投げないで近いところに投げれば、そこから点が取れたりする。そういうパターンが多くなると、今度は向こうもそこを抑えようとしてボールにつられて、その後ろで点を取れたり。面白いよね、そこまでやってスローインの勝負だから」

 こうした反町監督の勝負に対するこだわり方は、日本代表のハリルホジッチ新監督にも通じるものがある。いかにして勝利するか。そのためにはセットプレーも最大限に駆使する。アルジェリア代表のグラムがロングスローを投げるのも、勝つために効果的だからだ。

 もちろんロングスローだけでメンバーに選ぶということないだろう。だが岩上は代表チームに求められる水準に見合う技術があり、湘南時代から身に付けてきたスタミナとプレーの連続性があり、松本山雅で培った”隙を与えず、隙を突く”意識が備わっている。ハリルホジッチ監督がこれまでの代表実績にこだわらずメンバーを選ぶならば、優先順位の高い選手になっても不思議ではない。

 もちろん日本代表ともなれば、岩上にもさらなるスキルアップが求められるし、何より国際レベルで安定したパフォーマンスを出すための経験も必要になってくる。ただ、明るい性格で向上心が強く、なにより苦しいことを苦にしないキャラクターの持ち主だ。攻撃的なMFの競争は激しくなるだろうが、絶対的な武器を持つこの男が”ハリルホジッチの申し子”になっても不思議ではない。

 よって、ハリルホジッチ新監督には岩上祐三を推薦したい。

河治良幸(かわじ・よしゆき)

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCFF』で手がけた選手カードは5,000枚を超える。 著書は『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『日本代表ベスト8』(ガイドワークス) など。Jリーグから欧州リーグ、代表戦まで、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。サッカーを軸としながら、五輪競技なども精力的にチェック。