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過保護から放任へ!? ミーティングが少なく短いアギーレ監督の意図を、長谷部誠の言葉から推し量る

情熱の分析家・河治良幸が"アギーレ・スタイル"の内実を探る。ミーティングを極端に少なく、そして短くしているその狙いとは......?

日本代表が連覇を狙うアジアカップの戦いが開幕した。単にタイトルを奪うだけではない、プラスアルファの上積みも狙いたいこの大会を記者たちがさまざまな角度から解剖していく。まずは情熱の分析家・河治良幸が”アギーレ・スタイル”の内実を探る。ミーティングを極端に少なく、そして短くしているその狙いとは……?

▼前監督よりも選手の自主性が問われる
 アギーレ監督は試合の2時間ほど前、バスでスタジアムに移動する前のミーティングで初めて、パレスチナの情報を選手たちに提示したという。しかも、自分たちのいい形などのチェックも含めて30分強という短時間だった。

 ホテルのリラックスルームにある対戦相手の映像は自由時間に各自でチェックできるが、長谷部誠はパレスチナ戦の2試合を1人で見たという。

「情報が欲しかったら、個人で見ればいいとは思いますけどね。それ以上のインフォメーションは個々で見るというのはプロとしての姿勢だと思うし、それはやり方が分かった以上は自分で対戦相手を研究する部分もあると思います」

 戦術をディテールまで突き詰め、長めのミーティングで繰り返し確認するザッケローニ前監督と違い、アギーレ監督はベースとなるコンセプトの部分はしつこいぐらいに強調しても、そのベース上でどう行動するかは選手にかなりの部分が任されている。

あまた監督が指示したことでも、選手間でもっとこうした方がいいということがあれば、それを優先しろということも言われているようだ。「そういう意味では選手自身の考える力も試されているのかな」と長谷部は自分に言い聞かせるように語った。

▼長谷部誠の自主自立
 今回のパレスチナに関しては「7番のアルファワグラがキーマンと見ていた」という長谷部。[4-4-2]の左サイドハーフで、ちょうど日本にとっての右サイドで酒井高徳と対面するポジションの選手だが、そこで1対1の場面が増えることを想定し、状況に応じてアンカーのポジションからワイドに流れ、酒井をサポートした。

「アンカーのポジションの選手があそこまで出るというのはそんなにいい傾向ではないと思いますけど、危険と思えば行くと思うし、そこは自分の判断かなと思います」

 酒井が「ハセさん、さすがだなと思いました」と振り返る長谷部のプレーは、アギーレ監督の指示ではなく、彼の中で映像を観た上で判断したものだ。言い換えれば公式戦であっても、基本的なベクトルこそ与えているものの、自分がメンバーに選んだ選手の柔軟な状況判断を容認する構えだということでもある。

 もちろん、アギーレ監督が「最も重要なポジションの一つ」と主張するアンカーは対戦相手によって攻守のバランスやポジショニング、ケアするべきポイントが違ってくる。指揮官から授けられる対策はあっても、結局かなりの部分はピッチの選手が判断してやっていくしかない。

▼より大人な日本代表になるために
 大会の直前には、選手間でのミーティングが開かれたという。「若手やこういうトーナメントが初めての選手もいるので、そういう選手たちにもう1回スイッチを入れてもらう。どう変わるかは正直分からないですけど、後でこうやっておけば良かったというのは無い様に、この大会に向かう気持ちを1つにする意味でやりました」と発起人の長谷部は語る。

 過去でもウルグアイ戦やホームのオーストラリア戦の前には対戦相手を想定した戦術練習もやっていたとのことで、状況によってアギーレ監督の行動も変わってくるはずで、要所でのテコ入れは指揮官の手腕が問われる部分でもあるが、プロの集団である選手たちの自主性を重視する基本姿勢は今後も変わらないだろう。

 結果に対して最後に責任を取るのは監督だ。しかし、試合に向けては選手たちが自覚と責任を持って臨み、必要なら選手内で話し合って解決していくことが求められる。極端な話、”過保護”から”放任”に180度転換したとも言えるが、それが成功するか失敗するかも選手のパフォーマンス次第ということだ。

河治良幸(かわじ・よしゆき)

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCFF』で手がけた選手カードは5,000枚を超える。 著書は『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『日本代表ベスト8』(ガイドワークス) など。Jリーグから欧州リーグ、代表戦まで、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。サッカーを軸としながら、五輪競技なども精力的にチェッ ク。