湘南ベルマーレの”暴君”を生み出したのは誰か? 「結果」を出せばパワハラに寛容になってしまうサッカー界の非常識を断て
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湘南ベルマーレの”暴君”を生み出したのは誰か? 「結果」を出せばパワハラに寛容になってしまうサッカー界の非常識を断て(J論プレミアム)
Jリーグ主導の調査により、湘南ベルマーレの曺貴裁(以降、チョウ・キジェと表記)前監督の選手、スタッフへのパワハラ行為が多数明るみになった。「愛のある指導」で許容されるものではない言動も多く、処分も下ったが、なぜこうした行為を止めることができなかったのか、という疑念は残されたままだ。
指導者だけの問題ではなく、もっと深い病巣に目を向けなければならない。どうすればこの国のスポーツ界で起きるハラスメントの連鎖を断ち切ることができるのか? 長年、育成年代における指導や環境の問題を追ってきたスポーツライターが問う。
■みんなの前で選手をボコボコにした「名将」は現在Jを目指すクラブで働く
ある「名将」の取材に出かけたのは6年前のことだった。
全国高校選手権で優勝すると、メディアは一斉に「名将」と讃えていた。日本代表経験を持つJリーガーが在校中横道に逸れかかると、熱心に救いの手を差し伸べたという美談もある。人情味溢れる熱血漢のイメージが拡散したのは想像に難くない。
だが高校の部活に関するアンケートに寄せられた同校を退学した選手の訴えは、そんなイメージとは180度違った。Jクラブのジュニアユース出身で年代別代表合宿にも参加した経験を持つ彼は、同校入学前の春休みに参加した国際試合で肩を脱臼骨折。ほとんどリハビリもせずに復帰して部活を続けた結果、首から肩にかけて痺れが酷くなり、とうとう椅子にかけて授業を受けるのも困難な状態に陥る。それから彼の一家の本当の闘いが始まった。彼が退学した2年後には、父がその後の詳細な病状報告とともに悲痛な胸の内を認め、学校関係者、出身Jクラブ、当時の主治医などに送った。
「親はいつ突然死ぬか判りません。なんとかして外出が出来るようになり、社会人として役割や職業を得て、一人でも生きていけるようにしていくことが、私たち親の最後の仕事です」
しかし唯一Jクラブの関係者から見舞いの電話が入っただけで、他は無反応だった。「名将」がいる高校に飛んだのは、一人の有望な選手を深刻な症状に追い込みながら、まったくフォローをしない冷淡な姿勢の真意を探るためだった。
監督はコーチを伴って入室して来た。2人とも名刺を差し出しても挨拶ひとつなく、監督が切り出す。
「いったい、おたくは何をしたいんですか」
趣旨は伝えてあるが、再度説明をしてICレコーダーを出すと「名将」はぞんざいに言い放った。
「そんなもんがあったら話せんなあ…」
まずは手紙を受け取りながら、苦境に直面している教え子に返事も出さず、声もかけていない理由を聞いた。
「なぜ? わからない…。理由はない」
この高校で、どんな指導が行われていたかは、退学した選手自身から聞いていた。
強面の監督は、口数が少なくて選手と距離を置くタイプ。指導スタッフは全て同校出身者で固めているそうで、同席のコーチは緊張の面持ちで、ほとんど口を閉じたままだった。
「朝食を取らないなど生活態度の悪い子がいると、まるで見せしめのように、みんなの前でボコボコにすることがあった」という選手の証言もあり、誰も監督に口を挟める状況にないのは手に取るように判った。部内にはケガをして練習を休むと「さぼり」だと決めつける空気があり、故障を申告すると即座に先輩たちが「さぼりたいのか」と茶々を入れて来たそうである。
■指導現場の「独裁者」は2つのタイプに大別できる
当時サッカー部員は100人弱の大所帯。
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