「継続」こそが進歩の源泉。ベテラン招集も既定路線。W杯経験者を軸に据えるチーム作りは正道だ
ベテランジャーナリスト・後藤健生がちょっと違う視点でこの問題を考え直す。
▼4年に1度の「白紙撤回」
かつて、僕は日本女子代表の強化がうらやましかった。
常にベストメンバーで戦っている中に、一人、二人と若手が入って来て、そのうちにその若手選手が力を付けて中心選手に育ってきて、気が付くとメンバーが入れ替わっていった。たとえば、2007年に中国で行われたW杯を見に行った時には、宮間あやという若手が出てきて正確なFKを披露していた。まだ、テレビなどで女子の試合を放映していなかった時代でもあり、僕は宮間という選手のことをよく知らなかったから、びっくりしたものだ。
その宮間は、今では「なでしこジャパン」の中心選手になっている。
一方、男子代表のほうはと言うと、W杯が終わって代表監督が変わるたびに、まったく新しいメンバーに切り替わって、まったく新しいチームを作っていたのだ。
1998年のフランスW杯終了後にフィリップ・トルシエが監督に就任すると、20歳前後の若手を中心にまったく新しいチームが作られた。4年後、ジーコが監督に就任すると、いわゆる「黄金の4人」を中心としてメンバーを固定したチームとなったし、ドイツ大会惨敗後はイビチャ・オシムが監督に就任して、「水を運ぶ人」を中心にまた新しいチーム作りが始まった。
つまり、それまで4年かけて構築してきたものをいったん白紙に戻して、新しいチーム作りが始まるのだ。「もったいないなぁ」と僕は思っていたのだ。
ヨーロッパではそんなことはない。W杯が終われば、すぐにヨーロッパ選手権(EURO)予選が始まり、EUROが終わるとすぐにW杯予選が始まる。このため、たとえ監督が代わっても、一からチーム作りを始めることは時間的に不可能なのだ。
▼中核は「継続の7名」+「2名」
そして、4年前。日本代表監督に就任したアルベルト・ザッケローニは、南アフリカW杯を経験した選手を数多く残して、岡田武史前監督が作ったチームをベースに継続性のある強化を始めた。それはアジアカップが1月開催になった上、ザッケローニ監督就任が遅れたことで、新チームを作る時間がなかったからでもあった。
ブラジルW杯が終わってハビエル・アギーレが監督に就任した今回もアジアカップは翌年の1月に開かれることになっていた。「さて、どうするのだろう?」と、僕は思っていたが、やはりアギーレ監督も「継続性」を重視しているようである。
アギーレ監督は、ほとんど無名に近いような選手を抜擢したし、直近のブラジル戦では若手を多数起用してみせてもいる。それで、「若手重視」という印象を持った人も多かったかもしれないが、これまでの選手選考を見れば、最初から「継続性」を重視していたことは明らかだ。
9月シリーズ以降、10月シリーズ、そして今回の11月シリーズと3回連続で招集された選手は9人いるが、柴崎岳と武藤嘉紀の両名以外の7人はすべてブラジル大会経験者ばかりであり(川島永嗣、西川周作、吉田麻也、森重真人、酒井高徳、岡崎慎司、本田圭佑)、アギーレ監督が彼らをチームの中心と考えていることは明らかだ。
そして、9月の最初の機会に故障で招集を断念した香川真司や、今回、コンディションを考慮して呼ばなかった長友も「7人」と同じ立場だし、やはり故障でこれまで代表戦に参加できなかった内田篤人や長谷部誠、さらに満を持して招集をかけた遠藤保仁と今野泰幸を加えれば、ベテラン勢がチームの中核となるのは間違いない。
▼すべては布石ではないか
「9月、10月にうまくいかなかったから」ではなく、アギーレ監督は最初からそのつもりだったはずだ。これまでの4試合でアギーレがやって来たことは、ベテラン勢に割って入る選手やバックアップの見極めであり、さらには今後3年半を見越しての布石だったのだ。
遠藤、今野の招集が11月に持ち越されたのは、「十分に計算できる選手だから」だったからだろうし、「アジアカップへの準備は直前合宿で十分」と考えていたからでもあろう。
クラブチームでも代表チームでも、「降格」や「予選敗退」の危機に面した状況で監督に就任することが多かった彼の経歴から考えると、短期間の準備でチームをまとめることには自信を持っているはずであり、それが「9月、10月は若手の発掘に使う」という決断につながったのではないだろうか。
ザッケローニ監督は「継続性」を重視しすぎ、メンバーを固定し過ぎたことがW杯での失敗につながった。それでは、「継続性重視」のアギーレ監督も同じ失敗を繰り返すことはないのだろうか?
僕は、アギーレ監督にはその心配はないと思う。
まったく無名に近い選手を起用してみたり、注目を集めるブラジル戦で思い切って若手を起用したりといった豪胆さは、ザッケローニにはなかったものだ。そうであれば、W杯予選が始まってからも、試合ごとにテーマを決めて思い切った選手起用ができるはず。たとえば、「この相手なら間違いなく勝てる」を思えば、若手中心で臨んだり、国内組だけでメンバーを組んだりして、選手選考の幅を広げていけるのではないだろうか。
今では、新陳代謝が心配なのは、むしろ女子代表のようである。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続けており、74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授。