若手のほうが実力は上? そんな時代は終わっている。競争の結果としてのベテラン招集は自然な流れだ
果たして、ここに来てのベテラン大量招集は是か非か。あらためて問い直してみたい。
▼アジアカップをどう位置付けるのか
「23分の11」から「23分の12」に――。アギーレ・ジャパンにおける、ブラジルW杯メンバーの割合だ。9月や10月の代表戦に比べて微増はしたが、”比率”ならほとんど変わっていない。
ただしハビエル・アギーレ監督は遠藤保仁、今野泰幸、そして長谷部誠というベテランを代表に呼び戻した。勝つためにベテランを戻した印象は確かにある。
アギーレ監督も「大会の最終メンバーリストを作るために重要な2試合になる」と、1月のアジアカップを意識したチーム作りを明言している。この大会はユーロやコパ・アメリカに相当する4年に一度のビッグタイトルだし、優勝すればFIFAコンフェデレーションズカップへの出場権が手に入るという”特典”もある。
日本は直近の4大会を3度も制している。となれば勝たねばならない……、いや”勝って当然”というくらいの自負を当事者は持っているだろう。ただしW杯という唯一無二の大会がある以上、アジアカップがすべてを捨てて取りに行く大会だとは思わない。ケガ持ちの選手を無理に使うべきではないし、シーズン中の欧州組を招集するのも最低限でいい。
今回のアジアカップは前回大会までと違い、3位以内に入っても次回大会へのシード権を得られない。となればなおさら、日本にとって満足のいく成績は”優勝のみ”ということになる。ただし成績と同じくらいに大切なのは、アジアのタフな戦いを成長の場にすること。過密スケジュールの中で、アジアカップはまとまった日程を確保し得る貴重な期間となる。選手がコミュニケーションと連携を深め、代表の土台を作る――。結果以外のミッションはそこになるだろう。
▼現実としてベテランのほうが上ならば
アジアカップはアギーレ・ジャパンのゴールでなく、ロシア大会に向けたスタートだ。軸になる選手は残しつつも、欧州組やベテランの招集はほどほどにして、2018年に向けた土台を作る。その上で17年のコンフェデで世界の列強と戦う資格を得る。このように”育てつつ勝つ”という二律背反の実現が理想には違いない。
個人的にはもっとブラジル大会に絡んでない新世代の選手を観たい。ニューヒーローが台頭し、チームが成長しながら勝つというのは、アジア大会のベストストーリーだろう。しかしそれは願望であって現実でない。
アギーレ監督も若手を軽視しているわけではなさそうだ。武藤嘉紀は3回連続で合宿に招集されているし、塩谷司、昌子源、松原健、田口泰士、柴崎岳、小林悠といったフレッシュな顔ぶれもリストに残った。もちろん個々の選考について突っ込みようはあるし、リオ世代(1993年以降生まれ)の台頭不足も気になる。ただアギーレ監督が若手を試して、一人一人引き上げるという作業を怠っているわけではない。新旧の比率を見れば、今回の構成はオーソドックスだろう。
15年前、20年前なら声高に世代交代を叫べば良かった。アトランタ世代、シドニー世代が”ドーハ組”や”フランス組”を凌ぐ技術やタレント性を持っていたからだ。岡田武史監督はジョホールバルで20歳の中田英寿に助けられ、トルシエは平均23歳の若いチームでW杯16強入りを果たした。強引なくらいに若い人材を抜擢することが、勝つための方法論でもあった。
しかし今は”現役世代”に十分な能力、キャリアがある。若手が簡単に乗り越えられる壁ではない。必然的に世代交代のタイミングは遅くなっていく。香川真司でさえ、08年の南アフリカW杯最終予選ウズベキスタン戦では冴えないプレーをして代表の定着に失敗。21才で迎えた10年の本大会は、メンバー入りできていないのだ。
▼望むのはフェアな競争
遠藤38歳、今野35歳、長谷部34歳――。彼らはW杯ロシア大会をこのような年齢で迎えることになる。決してやれない年齢ではないが、彼らを計算に入れることは難しい。加えて現在28歳の本田圭佑と岡崎慎司も、3年半後にはベテランという年齢層に入っている。
これから4年で若手がどれだけ彼らを追い込み、追い出せるか。そういうチーム内のバトルが熱を帯びて初めて、チームは前進できる。ザック・ジャパンのコピーに終わったら、アギーレ・ジャパンに未来はない。しかし未熟な選手を若いというだけで引っ張り上げたら、逆にチームをスポイルすることになる。フェアに競争させ、自力で勝ち上がらせる――。そういうプロセスが、代表強化には必要だ。
アジアカップに勝つためだけでなく、若手選手を育てるためにも、今回の人選は一応リーズナブルだ。無論、”このままで良し”とは口が裂けても言うまい。1月のアジアカップが終わったときに、チーム内のヒエラルキーが今のままだったら、アギーレ・ジャパンのチーム作りは停滞しているということだ。
私の考えるアギーレ・ジャパンにとってのベストストーリーは、若手がベテランとフェアに競争した上で、実力を示して自力で世代交代を進めること。あえてこういう言い方をさせてもらうが、ロンドン世代、リオ世代にとって遠藤や今野、長谷部は”最強の噛ませ犬”となれるハイレベルな選手たちなのだ。
大島和人
出生は1976年。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。ヴァンフォーレ甲府、FC町田ゼルビアを取材しつつ、最大の好物は育成年代。未知の才能を求めてサッカーはもちろん野球、ラグビー、バスケにも毒牙を伸ばしている。著書は未だにないが、そのうち出すはず。