サッカークラブと選手をつなぐ「移籍マッチングサイト」の挑戦。想定外の3年間、そこに何があったのか?(PLAY MAKER・三橋亮太)
サッカーに移籍はつきもの。選手、スタッフをクラブとつなぐマッチングサービス、PLAY MAKERは4年目を迎え、地域リーグやJFL、そしてJ3をも巻き込んでいた。2015年からサッカーに携わる人材をつないできた三橋亮太代表が、PLAY MAKERの今を語る。
▼J3のチームも使うサービス
――選手の移籍をサポートしているPLAY MAKERですが、始まったのは2015年の12月です。どういった経緯で始められたのでしょうか?
三橋 現役の時、2011年あたりから準備をしていました。現役選手が作るということに意味があると思っていたんですね。サイトも自分で作れると思っていたので、当時は選手をしながら印刷工場で正社員としてフルタイムで働いて、夜に練習だったんですけどので、朝5時から朝7時に起業の準備に充てていました。自分が使いたいサービスを作ろうということもありましたね。
――最初の段階で大変だと思うのは、まずはクラブを集めないといけないことだと思います。
三橋 今だったら考えちゃうというか、やりたい気持ちが強いときじゃなかったらできなかったなと思いますね。当時から一緒に考え、事業構築をしていた土橋(宏由樹)のスポーツ界での人脈から始まり、趣旨に賛同してもらおうとチームの担当者の方に現地でお会いして説明をさせてもらったり、全国のチームを渡り歩いて話をさせてもらいました。
――立ち上げの時は何チームでしたか?
三橋 20チームですね。
――鹿児島もあったり長野もあったり、土地は関係なく全国をカバーしています。
三橋 全て足を使って現地に行きました。宮崎も行きましたよ。
――その時、クラブチームはどういう反応でしたか?
三橋 今でもですが、おおむね受け入れてくれるチームが多いですね。行ってみて感じたのは地域リーグやJFLのチームでも選手探しは困っている印象があります。関東大学リーグ以外にも、Iリーグという大学サッカーにもスカウトを派遣して視野を広く持とうとしていますが、行ききれないところが多いのが現状です。ですので、こういうサービスの需要があるんじゃないかなと行ってみて改めて強く感じています。
――選手を紹介して移籍をする仕組みですが、何人の選手がチームに入団したのでしょうか?
三橋 昨年の実績は25名。その前の年は13名で、一番最初は3名でした。少しずつ認知も広がって、使ってくれている人も増えてきていると思います。
――地域リーグからJ3の選手になれるという道もあるわけですが、実際になられた方はいらっしゃいますか?
三橋 まだですが、昨シーズン、初めてJ3からオファーをもらった選手がいます。J3のチームも使ってくれたという意味では大きな一歩だったと思います。
――登録されていないチームの選手もいますか?
三橋 います。基本的にチームとは別個で登録していますので、高校生も大学生も、社会人もプロもいます。
▼Jリーガーではなかった自分が始めた事業
――チームや選手以外に、登録企業というものもあります。こちらはどういったものでしょうか?
三橋 サッカー選手に「+1」の選択肢を、というコンセプトでやっていますので、企業さんに法人会員として、大きく分けると2種類の形でご協力していただいています。一つは協賛をいただく形、もう一つは物品提供などで応援をしてくれている形です。他にはCSRという形で海外留学の支援であったり、サッカー以外の仕事を考えた時に相談を行ってくれる企業さんもあります。地域の企業さんも巻き込んで、一緒にアスリートの環境向上に力を貸してくれていることはとてもありがたいです。
――CSRとのことですが、類似の就職支援などサービスですと、掲載料や成約料金から何パーセントなどをいただく形になっていると思います。なぜより難しい広告モデルを選ばれたのでしょうか?
三橋 意義から入ったので、深くマネタイズのことは考えずにまずやってみよう!から入ったのでそういう方法しかイメージできませんでした。利用者から課金をしない判断をしたのは、対象は財政的にさほど余裕のあるチームではありませんので、掲載料など料金をいただく形はハードルが高くなってしまい、このサイトの目的が達成できないと思ったからです。
企業さんが応援してくれる理由として共感していただける部分は、Jリーガーという憧れの存在も大事ですが、その過程にあるかっこいい近所のお兄ちゃんみたいな存在も大事ということです。トップ選手はフューチャーされますが実際にプロサッカー選手になれる可能性は非常に低く、プロになれるかなれないかという選手たちがたくさんいます。僕も印刷会社で働きながらプレーをしていた時は300人しか入らない試合も多かったですけど、ローカルなつながりができて各地域に元気の源になっているようなケースがあると感じました。そういったところに共感していただいて、応援していただいています。
しかし、今は良いサービスを提供し会社として収益も回収できる仕組みが重要だと感じています。今は様々な価値が見えてきて、事業として回していける感覚を持っています。今後は、もっと便利に使ってもらえるような有料のサービスも提供していきます。
――今の経営状況ではポジティブでしょうか?
三橋 経営状況はポジティブです。生きていられればそれだけでポジティブという感覚なので(笑)。数字で表すと130%ぐらいだと思います。ただこれは広告協賛でなく、いろんな選手やチームと接点を持つことで、全国のサッカー教室を一緒にやらせてもらっていることも含みます。ここからベースアップをして、サイト自体もそうですしマネタイズもしっかりできるようなサービスを導入して、サッカー界に必要なものとしての仕組みを作っていきたいなと思います。
――会社として4年目に入るところですが、当初描いていたイメージと今では違いはありますか?
三橋 全く違っていたのはすごく強く思いますね。サイトを回していく難しさというネガティブなイメージもありますが、反対にポジティブな部分で周りの方がすごく応援をしてくれているイメージが強いです。立ち上げた時にJリーグのチームも使ってくれるようなことは正直イメージをしていませんでしたが、今J3のチームが5チームが登録してくれています。また、Jリーグに携わっている方から、聞いたことあるとか知ってるよと言ってくださったり、いろんなチームを紹介してくれたこともあります、サッカー界の人たちがみんなに協力してくれているような感覚があります。Jリーガーでもなかった自分が始めた事業としては、想定していななかったのですごくありがたいですね。
――サッカーを辞めた後の就職支援も行われていますが、最初から想定されていたことでしょうか?
三橋 それも想定していませんでした。最初は選手やスタッフの移籍だけで、やっていったらその延長線上で要望が多くなってきたという感じです。スポーツ選手としてやってきたことを評価してくれるような会社であれば、おつなぎしたいですね。選手も希望しているのであれば紹介しますよというスタンスです。
――選手は最終的には引退しますので、いつかは社会に出ます。就職支援に関するセミナーのようなことはお考えでしょうか?
三橋 やりたいと思っています。ただ、ポディショニングも大事だと思っていて、やはり選手の競技を続ける支援、がベースであることには変わりありません。
なぜそう思うかというと、完全に自分の実体験です。今、選手が夢破れた後、受け皿となる十分なサポートシステムがありません。仕事が決まるというところはあくまでも出口であって、本当の意味でのサポートになっていない感覚があります。大事なのは、競技をやっている時から引き出しを少しずつ増やしていくことだと思います。選手はケガなどで唐突に競技人生を絶たれることも往々にしてあります。そういった時に人材紹介の会社が入ってきて選手をつなぎますよということをやっても、なかなか短期間で自分のやりたいことを見つけることは難しいんですよね。選手たちに違う社会に興味を持ってもらったり、教育に関することをやっていくことはアスリートにとって大事なことだと思うので、ぜひやっていきたいなと思います。競技を納得できるところまで続けて、次の世界に進むため競技で培ったものを生かす1つのステップとしてやっていきたいですね。
(後編「サッカー移籍マッチングサイト」を運営する社長が語る「選手として見たサッカーとビジネスで見たサッカーの違い」とは?)