鈴木武蔵、秘めたる可能性と確かな日進月歩。下された評価を覆すために

9月14日から手倉森誠監督率いるU-21日本代表がアジア競技大会へと臨んでいる。U-23+オーバーエイジという大会レギュレーションの中であえて年下のチームで臨む理由は2年後の五輪に向けてチームを作り、そして個人を鍛えるためだ。今回の『J論』ではそんなU-21代表から注目の個性をピックアップ。第4回目はチームのエースストライカーとしての役割を託された大型FWを、編集長・川端暁彦が語る。


▼ランナーからフィニッシャーへ
 DFを背負う。足元でボールを受ける。反転して前を向く。そしてフィニッシュへと持ち込む。

 9月19日の練習で、手倉森誠監督はFW陣にそんな居残りでの個人練習を課していた。自ら身振り手振りを交えての技術指導。ボールの引き出し方とターンのタイミングを徹底していたのはもちろんだが、単にDFを背負ってボールを落とすだけでなく、スキを見て前を向いてフィニッシュまで持ち込むという「姿勢」を植え付けたい。そんな気持ちが透けて見える光景だった。確かに敗れたイラク戦、そうしたシーンは稀少だった。

 センターフォワードの仕事は多岐にわたるが、トップ下を置かない通常の3トップシステムにおいて避けられないのは、DFを背負ってボールを受ける、いわゆるポストプレーだ。下がって受けるだけでなく、深い位置で受ける(まさに敵陣へ打ち込む"クサビ"となる)ことができれば、それだけで相手の守備ラインを押し込み、周りの選手を生かすことも可能になる。

 U-21日本代表のセンターフォワードを担う鈴木武蔵は、このプレーが必ずしも上手くない。そもそも、「チーム(新潟)でもポストプレーをやるタイプじゃない」(鈴木)のだから当然と言えば当然だろう。鈴木武蔵の真骨頂は、相手ディフェンスラインの裏へと抜け出すスピードと、その速さを生かしたドリブルにある。新潟でもポストになれる選手(たとえば川又堅碁や指宿洋史)とコンビを組む機会が多く、重きを置くプレーは「裏取り」。DFを背負うプレーを強く求められるこのシステムとポジションに、ある種のストレスがあるのは想像に難くなかった。

 かつてU-17日本代表の一員として世界の舞台で戦っていたときも、メインのポジションはウイングだった。その速さで裏を狙うことで相手のディフェンスラインを押し下げ、サイドからのスピード勝負で局面を打開する。まさに彼のストロングポイントを前面に押し出す役割分担だった。

▼前向きさと、どん欲さ
 ただ、鈴木はこうした状況にネガティブではない。

「監督から教わった(DFを)背負ってターンするときの動き方、すごく参考になりました。ドリブルもできてポストもできる、そういう選手でありたい。真ん中に入る以上、ポストが多くなるのは当然で、そのプレーが伸びてくれば、選手としてのバリエーションも増えますから」

 託された役割についてそう語り、至って前向きに捉えている。

 思えば、彼が初めて日の丸を付けたU-16日本代表でもそうだった。「なんで武蔵が?」と桐生第一高校の関係者も仰天の大抜擢を受けてのメンバー入り。当初は周囲とプレースピードもフィーリングも噛み合う様子がなかったのだが、アグレッシブな姿勢は崩さなかった。練習からどん欲に取り組んで、徐々にチームとも調和。吉武博文監督は当時、そのメンタル面を高く評価して「ストライカーらしいストライカーになれる」と語っていたのを覚えている。

 鈴木武蔵の持つ身体能力は天賦の才能だが、決してそれ"だけ"の選手ではない。学ぶ心と謙虚なハート、そして隠し持つどん欲さこそが、このタレントのポテンシャルと言えるだろう。粗削りな選手には違いないのだが、手倉森監督が一貫して前線の柱として起用し、熱心に指導し続けているのも、その潜在性能に大きな可能性を感じているからだろう。

▼イラクとの再戦を目指して
 そしてこの男、やはり負けず嫌いである。

「イラク戦からの切り替えはもう終わっています。もう1回やったら、確実に勝てると思っている。1月に0-1で負けたときよりも、明らかにチームとしての差は縮まっていた。あのときは(内容的に)完敗だったのかもしれないけど、今回は違う。結果だけを見て完敗と言われるけれど、俺としては今回のイラク戦が『完敗』とは思っていない」

 1対1で話を聞いていたこともあったのかもしれない。前向きで強気な言葉が飛び出してきた。しかし内容的に手応えがあったと言っても、1-3というスコアが無情に物語るものはある。

「(手応えがあっただけに)余計に結果が悔しいというのはあります。もっとできると思うし、できたとも思う」

 アジア大会第2戦、日本はイラクに敗れた。「完敗」と評されたゲームを通じて自分たちに下された評価を覆す方法は、結局のところ一つしかない。そしてそのことを鈴木武蔵は分かっている。最後に求めるのは、やはり結果だ。イラクとの再戦を果たすには、ホスト国・韓国を含めたアジアの列強を下していく必要もあるだろう。そのために求められるのは「チャンスの数で上回ること」では決してない。ストライカーがストライカーとしての仕事を果たして初めて、その道は見えてくる。


川端暁彦(かわばた あきひこ)

1979年、大分県生まれ。2002年から育成年代を 中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画し、2010年からは3年にわたって編集長を 務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴ ラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『月刊ローソンチケット』『フットボールチャンネル』『サッカーマガジンZONE』 『Footballista』などに寄稿。近著『Jの新人』(東邦出版)。

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