栃木SCのえとみほが語るSNSマーケティングの流儀

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経営コンサルタントとサッカーライター、ふたつの顔を併せ持つ村上アシシ氏が著名人と対談する連載企画「村上アシシのJにアシスト!」。今回はスタートアップ経営者からJクラブ(栃木SC)のフロントへ転身したえとみほこと、江藤美帆氏をお招きした。前編では主にサッカー界の炎上について語ってもらったが、後編ではフロント入りして半年が経った栃木SCのマーケティング戦略について語ってもらった。


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▼SNS運用をインターン生にアウトソース


アシシ:えとみほさんが栃木SCに入社して半年が経ちました。栃木SC公式のSNS運用は何か変わりましたか?

えとみほ:今変えようとしている最中なんですが、ウチの場合、広報がひとりしかいないので、SNSの運用が思いのほか大変なんですよ。

アシシ:この前ツイッターで見ましたよ。松本山雅戦のアウェイ席の観戦チケットが販売開始から売り切れるまでをずっと見張ってて、売り切れたのを画面で確認してからアウェイ席の残り枚数に×印を更新するっていう、すごくアナログな作業をえとみほさんが担当してましたよね。衝撃でしたよ。なんでそんな作業を部長がやっているのって(笑)。

えとみほ:とにかくウチは人がいないんです。広報担当は基本、メディア対応で手一杯なので。SNSの運用はチケット担当とかホームタウン担当とか、いろんな部署の人がお知らせしたいことを各自投稿していて、統一感がないのが問題なんですよね。そのリソース問題を解決するために、インターンを先日募集しました。200人以上応募が来て、最終的に2人採用しました。

アシシ:その人たちは栃木のオフィスに出社するんですか?

えとみほ:そうです。

アシシ:応募してきたのは栃木在住の人ですか?

えとみほ:関東が多いですけど全国津々浦々ですね。

アシシ:そのインターン生にSNSの運用をさせるんですか?

えとみほ:そうです。採用した子が元々SNSをちゃんとやってるのと、ブログを書いていてコンテンツを自分で作れるんですよ。写真も取れてアイキャッチも自分で作れるので、インスタなどSNSの投稿を担当してもらいます。

アシシ:SNSが何たるかを肌感覚でわかっている若者に運営を任せるってのは、SNSに疎い社員が担当するより、理にかなってますよね。学生もクラブ運営に携わることができるし、クラブもリソース問題を解決できて、人手が足りないクラブにとってインターン利用は非常に効果的ですね。

えとみほ:この辺のやり方はスタートアップの経営で習得したノウハウですね。ITスタートアップでは、立ち上げ期にインターンを活用するのはもはや当たり前になっています。新卒を社員として採用するにしても、ある程度現場の現実を知ってもらってから採用するほうが雇用のミスマッチが生まれにくいですし、とくに地方のサッカークラブのように理想と現実にギャップのある職場では、まず現場を知ってもらうことが重要なんじゃないかと思います。

▼ツイッターは情報の宝庫


アシシ:えとみほさんはマーケティング戦略部部長という肩書きですが、SNS回りでは具体的にどういう施策を行っているんですか?

えとみほ:一番やっているのはソーシャルリスニングですね。

アシシ:SNSを使って顧客の声をヒアリングしていると。

えとみほ:公式アカウントではそうです。個人のSNSは種類によって使い分けをしていて、ツイッターは主に情報収集のために使っています。逆に絶対誤解されたくないような、ちゃんとした主義主張はnoteに書くというふうに使い分けをしています。

アシシ:フォロワーが万単位になると、何か疑問形でツイートすれば大体はフォロワーが解を出してくれますよね。

えとみほ:そうなんです。今私のアカウントって、Jリーグの全54クラブのサポーターの方がフォローしてくれていて、チケットや集客の話を投げると、ウチのクラブはこういうことをしていますよとすぐ情報が集まってくるんですよね。それが私の中ではツイッターの一番いいところだなと。

アシシ:双方向性のコミュニケーションができるというのがツイッターの強みですよね。そのチケットの話って、具体的にどんな情報が手に入るんですか?

えとみほ:この前、栃木SCで乾杯シートという、ビールなどが飲み放題のシートを作ろうと思ってるという情報を出したら、ウチのクラブではこういうのをやっていますとか、座席の分け方とか飲み物の種類とか金額設定とか、いろんな情報が集まりました。

アシシ:各クラブの地に足のついた情報が140文字で出揃うってのは、すごい効率ですよね。それぞれのクラブにいちいち問い合わせしていたら膨大な工数がかかるし。

えとみほ:最近だともうひとつ、スタジアムへのアクセス方法について質問したら、様々な事例が集まりました。栃木は駅からスタジアムまで離れていて、バスで30分ぐらいかかるんですけど、輸送の面でどうしたらいいか悩んでいるところなんですね。そういった疑問を投げかけると、いろんなクラブのサポーターから、ウチはバスのシーズンシートがあるとか、ウチはバス料金をチケット代に乗せているとか、バスの種類、例えば全員座れるマイクロバスなのか普通の路線バスなのか、などのきめ細かい情報が返ってきます。この人は運営スタッフなんじゃないかってくらいに、詳しい情報を語ってくれるサポーターもいますよ。

アシシ:ツイッターならではですね。

えとみほ:ツイッターは炎上のリスクもありますが、一方では有用な情報が集まってきます。意見だけでなく、たとえば「クラブに製品をサプライするので、えとみほさんのツイッターやブログで紹介してほしい」みたいなオファーもくるので、クラブの実利にもつながっていますね。

▼ハッシュタグマーケティングの可能性


アシシ:他にSNSを起点にしたマーケティングで、えとみほさんが栃木SCに入社してから仕掛けた施策はありますか?

えとみほ:私が直接仕掛けたわけではないんですが、「#はじめての栃木SC」というハッシュタグが、ツイッターでかなり広がりをみせましたね。最終的にはその本を作ることになったんですよ。

アシシ:出版までいくのはすごいですね。それはどうやって仕掛けたんですか?

えとみほ:元々私がスタートアップ出身ということもあり、Web業界の若手たちが「えとみほさんが就職した栃木SCの試合を生で観戦してみたい!」と意気投合してくれて、東京ヴェルディ対栃木SCの味スタの試合に来てくれたんです。まったくのサッカー観戦初心者ばかりだったんですが、その彼らがツイッターで初観戦の感想だったり、応援風景の動画だったりを「#はじめての栃木SC」のハッシュタグをつけてツイートしてくれました。

アシシ:そのハッシュタグを見ると、彼らの初々しい感想が見られるわけですね。面白い。

えとみほ:このハッシュタグはそれで終わりではなくて、その後に既存の栃木サポーターの皆さんが、自分の初観戦の思い出をそのハッシュタグを付けてツイートしてくださって、何がきっかけで栃木SCにはまったかの具体例が何百個と集まったんです。

アシシ:それはまさに生けるマーケティングデータですね。何がフックになって栃木SCを好きになってくれたのかのサンプリングができたわけですね。

えとみほ:ちょうどウチはJリーグ加盟10周年なんで、そのツイートを集めて今、その本を作っているんです。ネットで投稿してもらったのを集めて、今までの監督、社長、選手など所縁のある人にも書いてもらって、スポンサーを募って冊子を出します。

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※編集部注:11月11日のホーム戦で販売開始した冊子(後日江藤美帆氏提供)

アシシ:サポーターとしても自分がSNSで投稿したツイートが、クラブが発行する冊子に掲載されるなんて絶対嬉しいですよね。

えとみほ:ハッシュタグマーケティングは予算を積んでやってもうまく伝播しなくて難しかったりするんですが、今回の「#はじめての栃木SC」のハッシュタグは実質コストゼロで流行りました。冊子の出版というアウトプットにまで繋がったので、ハッシュタグマーケティングの可能性を示した事例ですね。

▼マーケティングの本領発揮はこれから


アシシ:では最後に今後のことを聞きたいなと。

えとみほ:栃木SCに入社して半年が経ちましたが、まだ何も成し遂げてないんですよね。いくつかSNSマーケの話をしましたが、全部まだ「情報収集」の段階です。ソーシャルリスニングで他社の事例を吸い上げたり、ハッシュタグマーケティングで既存顧客の「はまったきっかけ」の傾向を掴んだり、これらの情報収集は取得したい情報のほんの一部です。本来は1試合数千人の来場者ひとりひとりのデータをきめ細かく分析したいんですが、そもそも栃木SCはそのデータ収集ができていないんです。まずはそのデータ収集の環境整備が私のミッションだと思っています。

アシシ:たしかにデータが揃ってないと、デジタルマーケティングそのものが成り立ちませんもんね。

えとみほ:そのデータがある程度揃って、はじめてマーケティングの施策を打てるので。

アシシ:では、えとみほさんの本領発揮はまだまだこれからだと。

えとみほ:とはいえ、少ないデータの中でやれる施策はどんどん試行錯誤してやっていきたいなと思ってますけどね。ITスタートアップも最初はデータなんかありませんから。経験則で当たりそうな施策をガンガン仕掛けていくつもりです。

アシシ:栃木SCがえとみほさん加入でどう変わっていくか、いちJリーグファンとしてこれからも注目していきますね。今後の活躍を期待しています。今日はありがとうございました。

えとみほ:ありがとうございました。

(前編はこちら


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