なでしこ元監督 佐々木則夫氏突撃インタビュー 今だからこそ語れるリオ五輪予選敗退の真相

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経営コンサルタントとサッカーライター、ふたつの顔を併せ持つ村上アシシ氏が著名人と対談する連載企画「村上アシシのJにアシスト!」。記念すべき10回目のゲストは、7年前になでしこジャパンを世界一に導いて、国民栄誉賞を受賞した佐々木則夫氏をお招きした。


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(撮影:ONE PHOTO/Y.Arai)

▼別にメディアを嫌っているわけではない


アシシ:お久しぶりです。今日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございます。この3月でなでしこジャパンの監督を退任されてから丸2年が経ったということで、監督当時はさすがに明かせなかった秘話など、色々とお話を伺えればと思っています。

佐々木:よろしくお願いします。

アシシ:監督退任後、佐々木さんはあまりメディアに出なくなった印象があるんですが。

佐々木:別にメディアを嫌っているわけではないですよ。テレビだと日本テレビ系列の「アナザースカイ」などいくつか出てますし。スポーツ新聞でもコラム書いたりしています。ただ、なでしこジャパンの試合中継の解説などは、是非なでしこジャパンの元選手にやってもらってくださいと各社には伝えています。

アシシ:そうなんですね。なでしこの監督を辞めた後、この2年間は具体的にどんなことをされてきたんでしょうか?

佐々木:大きく2つのことをやっていて、十文字学園女子大学の副学長と、大宮アルディージャのトータルアドバイザーをやっています。

アシシ:二足のわらじ状態なんですね。週の稼働でいうと、大学は毎週特定の曜日に授業を持っていたりするんですか?

佐々木:毎週木曜に講義を担当してます。

アシシ:木曜以外は大宮アルディージャがメインですか?

佐々木:アルディージャには週2回くらい行ってて、かつ、土日の試合があります。

アシシ:トータルアドバイザーという役職は、具体的にどんな業務を担当しているんですか?

佐々木:見てるのは、クラブ全体です。営業もあり、アカデミーもあり、トップチームの状況も見ています。強化本部長の支援も含めて、今はもうバックヤードでサポートする業務全般です。十文字学園も中学、高校、大学と女子サッカーチームがあって、日本にはなかなかない形なんですけど、そのスーパーバイザーもやっています。

アシシ:ちょっと事前に調べてこなかったんですが、十文字学園ってサッカー強いんですか?

佐々木:去年、高校が全国優勝しましたよ。

アシシ:なんと! 失礼しました。強豪なんですね。

佐々木:今はトップチームのFC十文字VENUSがチャレンジリーグのEASTに所属しています。

▼リオ五輪予選はメンタル面のコントロールがうまくいかなかった


アシシ:では本題に入りたいなと。ちょうど2年前、リオ五輪のアジア最終予選についてお話を伺います。予選の概要をおさらいすると、アジア予選は大阪で集中開催で、出場6カ国のうち2カ国が五輪出場権を獲得するという厳しいレギュレーション。ホスト国の日本は、オーストラリア→韓国→中国→ベトナム→北朝鮮という順番で5試合を戦うスケジュールでした。

佐々木:日程出た時は「なんで第1戦がオーストラリアなの? 開催国なんだからどうにかならないの?」と協会には言ったんですけどね(笑)。もうFIFAランキングの関係で、AFCに言ってもどうにもならないって。ランキングの順番なら、普通は強い国同士が後だろとか思うんだけど。

アシシ:オーストラリアは長期間の合宿で、初戦の日本対策を徹底的にやってきたという報道を当時読みました。対する日本はオーストラリアより合宿期間が短かったと。

佐々木:合宿は石垣島でやったんだけど、オフ明けだから身体をまずは起こす必要があった。身体作りのために暖かい地域を選んだんだけど、その時期たまたま雨が多くて、すごく寒かったんですよ。あれは誤算だった。

アシシ:それは初めて知りました。それで初戦の結果は、オーストラリアに序盤から圧倒されて1-3の完敗でした。

佐々木:世界大会と同じく、あの予選も「初戦が大事」というスタンスで合宿の時からオーガナイズしていたんです。最も苦戦するだろうと予想していたオーストラリアが初戦だったということもあって。そしたら初戦の数日前から、チームの雰囲気が堅く感じられた。なんかみんな、緊張してるなって。

アシシ:絶対に負けられない予選がホームで集中開催ってのも、ある意味プレッシャーがかかりすぎて、逆効果だったのかもしれません。

佐々木:国内で親善試合はよくやるけど、出場権の懸かった公式戦は初体験だったしね。今思うと、初戦が大事だってあまりにも言いすぎたのが、裏目に出てしまった感はある。初戦で結果が出なかったっていうのは、今までに経験がなかったし。

アシシ:特に若手がガチガチに緊張してしまっていたように思います。

佐々木:でも評価からすると、経験してる選手の方が自分たちが持ってる力をなかなか出てなかった、という結果だった。逆に中島依美や横山久美とか若い選手の方が自分の持っているものを非常に出せてたと思いますよ。意外にちょっと経験してる選手たちの方が、勝たなきゃいけない、予選突破しなきゃいけないっていうプレッシャーは感じてましたね。

アシシ:そうだったんですね。次の第2戦は韓国相手に先制するも追いつかれて引き分けました。チームの雰囲気を変えるために、何か策は打ったんですか?

佐々木:例えば僕から直接言うともっとナーバスになる可能性があったので、コーチやマネージャーなど選手により近い立場の人から情報をインプットする形を取ったりはしました。他にも色々とコミュニケーションの仕方を工夫して、チームの雰囲気を変えようとはしたんですけどね。

アシシ:それでも悪い流れは断ち切ることができず、次の第3戦の中国戦はバックパスを取られてミスで先取点を献上して、1-2で敗北。僕も何年となでしこ見てきましたけど、あんな自滅の仕方は、あんまり見たことがありませんでした。

佐々木:初戦、2戦目と結果が出なかったことで、チーム全体の雰囲気が非常にナーバスになってしまったところはありましたね。そういった精神的な要素を2戦目、3戦目の時にもうちょっとコントロールできていれば、という思いはありますね。


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(撮影:ONE PHOTO/Y.Arai)


▼マスコミの報道姿勢はサッカーファミリーとして残念だった


アシシ:第3戦を終えてなでしこジャパンは1分け2敗の勝ち点1で、残り2試合を2連勝しても予選突破は絶望的な状態に追い込まれました。とはいえ、あの時点ではまだ五輪出場の可能性はゼロではなかったのに、マスコミは今までの報道姿勢から手のひら返しを一斉にして、なでしこの総バッシングを始めました。

佐々木:リオ五輪の予選まではまあまあ順風満帆で、ゴシップみたいな書かれ方はほとんどされなかったんですが、最後に来て予選敗退がほぼ決まって以降は、たしかに毎日酷い書かれ方をしましたね。選手の名前も書かず、裏を取ってもいないような噂レベルのネタで、週刊誌のような書かれ方でしたね。

アシシ:そういえば僕、あのタイミングで手のひら返しをしたマスコミを逆に酷評するYahoo!個人の記事を書いたんですが、その論調と最終戦の後に佐々木さんが会見で喋った話が、非常にテイストが似ててビックリした記憶があります。もしかして僕の記事、事前に読んでました?

佐々木:ああ、あれね。読みましたよ(笑)。

アシシ:やっぱりそうだったんですか! 物書きとして、非常に光栄なことです。

佐々木:ホントね、同じサッカーの仲間として、大会期間中にメディアと一緒に予選突破の目標に向けて協力し合うことができなかったのは、僕も残念に感じたんですよ。

アシシ:メディアは2008年の北京五輪ベスト4から、なでしこには長年「甘い蜜」を吸わせてもらってきたにも関わらず、佐々木体制で初の挫折をした途端に総バッシング。あの姿勢は本当に愛の欠片も感じなかったですね。でもあの時に、選手をかばって矢面に立ち、「敗因は全て私にあります」とメディアの批判を受け止めていた佐々木さんはカッコ良かったです。「勝った時は選手のおかげ、負けた時は監督のせい」というモウリーニョみたいな名将の美学を感じました。やっぱり世界一を経験したことのある監督は違うなと。

佐々木:とはいってもね、世界一を一度経験したチームだったからこそ、何としてでもまた五輪の舞台に連れていきたかったですけどね。ワールドカップは優勝してるけど、五輪は準優勝止まりだし。勝ち続けることの難しさをひしひしと感じた予選でした。

(後編「なでしこジャパンはなぜ世界一になれたのか? 佐々木則夫氏が語る「目標設定」の重要性」)


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