6年目のシーズンへ。続投決断の”深層”【反町康治監督物語・後編】
続投を決断するまで、胸中に去来していたモノとは?
(前編『失意の敗戦、残酷な現実。プレーオフ敗退の渦中で』)
(C)松本雷鳥通信
▼3日間のオフを挟んで変化した表情
J1昇格プレーオフ準決勝でファジアーノ岡山に敗退し、松本山雅FCは不本意な形で2016シーズンの全日程が終了した。プレーオフの激闘を終えたあと、3日間のオフを挟み、それが明けた12月1日には今季のチームとしての活動が終了となった。
最終日ということもあってか、平日にもかかわらず練習会場には約700名のファン、サポーターが駆け付けた。選手たちとのしばしの別れを惜しむ一方で、いまだ去就の発表されていない反町康治監督への注目が集まるのは必然だった。それは県内テレビ局や各紙などメディアも同様で、反町監督の囲み取材では多くのフラッシュが焚かれることとなった。
「結果がすべての世界だが、やってきたことに後悔はない。胸を張っていい、充実した1年だったと思います」
4日ぶりにメディアの前に姿を現し、あらためて山あり谷ありの今季を総括した指揮官の表情は幾分穏やかに見えた。その時点では「自分の中で整理がつかない」とクラブからの続投要請に回答はしていなかったものの、「J1昇格という目標を達成できなかったにもかかわらず、そのような話(来季の続投要請)をいただけるのは、ありがたいこと。前向きに捉えたい」と新シーズンに向けて一歩前進とも取れるコメントを残している。
そして、その4日後の12月5日。反町監督の来季続投がクラブから正式に発表された。
▼成長曲線を描くクラブとともに
それにしても、「本当に今季で辞められるんじゃないかと思うほど憔悴していた」(クラブ関係者)という状態だった指揮官に、再挑戦を決意させた要因は何なのか――。やはり松本山雅というクラブの秘める可能性、そして反町監督自身の言葉を借りれば「仕事人としてのプライド」の2点ではないだろうか。
まずクラブのポテンシャルについては、やはりサポーターの存在に触れないわけにはいない。今季の1試合あたりの平均入場者数は1万3,631人で、2年前の1万2,733人を約900人も上回った。歓声が木霊したのはアルウィンだけではなく、全国各地のアウェイスタジアムにも多くのファン、サポーターが駆け付けてはホームのような雰囲気を作り出してきた。
また普段のトレーニングから多くの見学者が詰め掛けるなど、ホームタウンの熱が指揮官の心に火を点けたことは疑いようがない。また、昨年からクラブが優先的に利用できる練習拠点が整うなど、環境面もここ数年で大きく変化。Jリーグ参入当初は決して状態が良いとは言えない市内外のグラウンドを転々としていたことを思い出すと大きな成長と言えるし、運営費が3倍強となっている点も踏まえると、「もはや松本はスモールクラブではなく、ミドルクラブ」という指揮官の言葉もうなずける。
その成長曲線を描くのに寄与してきたという自負もあるからこそ、敗れたままではプライドが許さない。記者会見などで達観した物言いをする指揮官だけに誤解されている節もあるが、反町監督は超のつく負けず嫌い。「個人的に毎年毎年が勝負だと思っているし、『長期的な視野で』と言われたら辞める。それが現場の預かる人間の責務」と話すように、眼前の1試合に全力を尽くし、そのために睡眠時間を削って対戦相手のスカウティングに勤しむ。クラブがどう変化しても、そのスタンスが揺らぐことはない。
▼見えてきた来季の輪郭
クラブへの愛着と指導者としてのプライドに大きく動かされ、反町監督は6年目の指揮を執る。しかし、新シーズンも待ち受けているのは”茨の道”だ。年々レベルが上がるJ2の中で、他チームよりも前進しなければ今季以上の成績を残すことはできない。しかも名古屋グランパス、湘南ベルマーレ、アビスパ福岡など予算や戦力に恵まれた新たなライバルが参戦することで、J1昇格争いはまったく予想のつかない大混戦となることが容易に想像できる。
松本は25日に9選手の契約更新を発表し、ようやく来季のチームの輪郭がおぼろげながらも見えてきた。これから新加入選手やさらなる契約更新選手が立て続けに発表されるはずだ。開幕前キャンプの日程も決まり、新シーズンの戦いに向けてクラブは少しずつ動き出している。
今季の雪辱を果たすために――。松本山雅FCと反町康治のリターンマッチは、2カ月後に幕を開ける。
多岐太宿
大島和人(党首)世代の雑食性ライター。生まれも育ちも信州の片田舎。高校卒業後、社会の歯車として労働に勤しむ傍ら、地域リーグ時代から地元の松本山雅FCをウォッチ。地元紙やサッカー媒体に原稿を執筆し、12年3月より専業ライターとして独立。『J’sGOAL』『エル・ゴラッソ』『月刊J2マガジン』などで担当を務めている。県内の他スポーツやグルメなど地域情報の執筆も手掛けており、そっちが本職(多分。しかし微妙)。