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失意の敗戦、残酷な現実。プレーオフ敗退の渦中で【反町康治監督物語・前編】

続投を決断するまで、胸中に去来していたモノとは?

1年でのJ1復帰を目指して、5年目の指揮をとった。プレーオフ制度導入以降、過去の3位チームの中で最も勝ち点を稼ぎながらも、J1昇格プレーオフは準決勝で敗れている。そしてさすがに反町康治監督は失望を隠さず、6年目の続投発表までは多くの時間を要した。相手の特徴を消し、相手の弱点を突くことに長けた希代の指揮官が、続投を決断するまで、胸中に去来していたモノとは? 『松本雷鳥通信』の多岐多宿氏が前編・後編の2回シリーズで反町監督の”逡巡”に迫った。

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(C)松本雷鳥通信

▼涙のプレーオフ
11月27日、松本平広域公園総合球技場(アルウィン)。J1昇格プレーオフ準決勝は、最終盤まで1-1のスコアで推移していた。3位の松本山雅FCと、6位のファジアーノ岡山。このままで試合終了の笛が鳴れば、上位チームの松本が決勝へと駒を進めることになる。

当然、岡山は攻撃的な選手を投入して前がかりの態勢となっていた。受けて立つ側の松本も体を張った守備で時計の針を進めていたが、後半アディショナルタイムに一瞬のエアポケットが生じる。矢島慎也から豊川雄太、そして赤嶺真吾へ――。ボールの行方に付いて行けず、ついに勝ち越しゴールを許してしまった。

主審の笛の音が鳴り響いたのは、その直後。それは試合終了の合図でもあり、松本の2016シーズンの終わりを告げる合図でもあった。トップカテゴリーで悔し涙を流してから1年、チームは再び涙を流すことになった。

「なかなか気持ちの整理がつかないところですけど、試合に負けたということはそれだけの実力がなかったいうことだと受け止めたい。日々努力をしてきましたが、何か一歩及ばなかったかなと強く反省しております」

試合後の記者会見において、2016シーズンの松本を率いてきた反町康治監督が、悔しい結果に終わった試合を総括した。努めて冷静に振る舞ってはいたものの、やはり悄然たる様子が隠し切れない。自身の進退について問われても、「まだ試合が終わったばかりなので答えるのは難しい」と述べるに留まった。

▼清水に巻かれたリーグ最終盤
J1復帰という明確な目標を掲げて臨んだ今季、リーグ戦42試合で残した成績は24勝12分6敗の勝ち点『84』。順位こそ3位に終わったものの、誇ってもいい数字だ。その意味で今季のチーム作りに誤りはなく、進むべき方向性は正しかった。だからこそ余計に悔しさは募る。

2年前と異なるのは、ライバルチームの奮闘ぶりだった。J1昇格を果たした2014シーズンは湘南が序盤から終盤まで独走し、勝点『101』という戦績を挙げる。その他のチームは必然的に2位狙いを余儀なくされたのだが、ジェフユナイテッド千葉やジュビロ磐田、京都サンガF.C.など昇格候補に名を連ねていたチームがことごとく不完全燃焼で監督交代に見舞われている。”漁夫の利”とまでは言わずとも、他チームの不振に助けられた側面は多分にあった。しかし今季は、手に汗握る昇格争いが最終盤まで続いた。松本は苦しい戦いが続いたものの、上位対決に競り勝てたことで自動昇格圏内は維持していたものの、脅威の攻撃力を誇る清水が怒涛の快進撃でピタリと併走を続けた。

結果次第では昇格も有り得ると、敵地まで約3,500名の大サポーターが駆けつけた第41節・FC町田ゼルビア戦。それまで16試合負けなしと好調をキープしてきた松本だったが、1-2で町田に敗れたことで遂に土がついてしまう。順位も3位に後退すると、最終節・横浜FC戦に勝利したものの逆転昇格ならず。必勝を期して臨んだ昇格プレーオフだったが、やはり一発勝負は難しいモノ。たとえ主導権を握ったとしても、最後の最後に何が起こるか分からないのがサッカーだ。ライバルたちの強さには敬意を表しつつも、手中に収めかけていた昇格を逃したやるせなさが消えることは当分ないだろう。

▼続投要請を保留
Jリーグ参入初年度は「Jリーグ40番目のクラブ」と揶揄され、実際に苦戦はまぬがれないと予想されていた松本を率いて5シーズン。チームは右肩上がりに成長し、わずか3年後にはJ1昇格に導くという望外の結果を出し続けてきた指揮官。当然ながら地元での支持率は高く、この悔しさを糧に来季こそJ1復帰を成し遂げてくれるはず。多くのファン、サポーターはそう信じていた。

しかし、昇格プレーオフ準決勝直後での反町監督のトーンは明らかに日ごろとは異なっていた。「この結果については私の責任であり、力不足を痛感している」、「これ以上強いチームを作るのは至難の業だと感じる」、「いろいろなことを犠牲にしてやってきたつもり」などなど……。会見での言葉だけ追えば、さながら退任の弁にもとれるニュアンスだったことは間違いない。

翌日のスポーツ紙には「反町監督、退任へ」という見出しが躍り、ファン、サポーターも昨季同様に続投のための署名活動を実施するなど周囲は慌ただしくなった。クラブは早い時点から2017シーズンに向けての続投要請をしていたが、反町監督が返事を保留していたという点も別れを予感させるのに十分だった。

(後編「6年目のシーズンへ。続投決断の”深層”」)

多岐太宿

大島和人(党首)世代の雑食性ライター。生まれも育ちも信州の片田舎。高校卒業後、社会の歯車として労働に勤しむ傍ら、地域リーグ時代から地元の松本山雅FCをウォッチ。地元紙やサッカー媒体に原稿を執筆し、12年3月より専業ライターとして独立。『J’sGOAL』『エル・ゴラッソ』『月刊J2マガジン』などで担当を務めている。県内の他スポーツやグルメなど地域情報の執筆も手掛けており、そっちが本職(多分。しかし微妙)。