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コンサドーレの野々村芳和社長が目指す『100億円クラブ』の真意とは?

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南アW杯出場32カ国を歴訪する『世界一蹴の旅』を完遂し、サポーター界隈で一躍有名になった村上アシシ氏。その後もテレビやラジオなどのメディア出演や書籍の執筆活動など精力的に情報発信の活動を行っている。ここ数年は出身地である北海道コンサドーレ札幌のサポーターとしても熱心に活動しており、Jリーグをもっと盛り上がるために提言を続けている。今回、J論ではアシシ氏のサポーター視点、経営コンサルタント視点で日本サッカー界を盛り上げる方法を探る対談企画をスタート。第一回は斬新な企画を次々に立ち上げ、Jリーグに新風を吹き込んでいる北海道コンサドーレ札幌・野々村芳和社長。野々村氏が語るコンサドーレの未来やクラブ哲学について、2回に分けてお送りする(取材日:2016年5月9日)

▼野々村社長が描く放映権ビジネスの将来性

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アシシ:今年に入って野々村社長は、コンサドーレの長期的な目標として『100億円クラブ』を目指すと公言しました。この経緯、意図について教えてください。

野々村:まず最初に断っておくと、『100億円クラブ』になるためにはクラブの努力だけじゃ絶対に無理だということ。Jリーグとして、また日本サッカー界として、しっかりコンテンツ力を上げて、海外に放映権を高く売れるようにすれば、いけると思っている。年間100億円を売り上げるクラブなんて世界中ざらにあるわけだし。『100億円クラブ』になるチャンスが来た時に、そこに乗れるような体制をしっかり作っておかなければいけないということ。

アシシ:北海道新聞やローカル地上波の報道番組でも大々的に取り上げられてましたね。

野々村:今のJリーグはマックスで50、60億円じゃない。それは20年やって浦和レッズが辿り着いた数字。でも100億円っていったら、全く違う観点で日本のサッカービジネスを変えていかないと、その金額には到達できない。その一番のチャンスが放映権だと個人的には思っている。

アシシ:北海道ローカルのテレビ番組の特集で見たのですが、例えばJリーグの放映権が海外で何百億円で売れるようになったとき、コンサドーレに多めに配分されるように、クラブの価値を今の内から高めていきたいと社長はおっしゃってました。

野々村:そう。そのようなイメージを持っている。人口が多くてハードがしっかりある主要都市を本拠地としているコンサドーレは、大きくなる要素がいっぱいある。そうじゃなくてがんばっているプロビンチャ(地方)のクラブもあるけど、大きくなる可能性のあるところにしっかりとリーグが投資をしていくなら、コンサドーレは当てはまるかなと思う。放映権の分配金は将来、例えば育成がしっかりしているとか、クラブの成績が安定して良くなっているとか、いろんな係数みたいなもので決まるって僕の勝手なイメージがある。だから、その係数を今から上げていく。コンサドーレが大きくなるためのお金がたくさん入ってくるようにしたい。

アシシ:『100億円クラブ』というのはキャッチーな目標ですよね。他のクラブで、そこまで公言しているところはあまりないと思います。経営のトップが売上高の数値目標を明言するのは、注目を浴びますし面白い試みだと感じます。私も本職が経営コンサルタントなので、某企業が年商何千億円という目標を明言して、そのターゲットまでのアプローチを一緒に考え、施策を遂行していく現場にいたことがあります。コンサドーレの場合、100億円という売上目標に対してどのような道筋を考えているのか、可能な範囲で教えてください。

野々村:イメージとして国内で今30、40、50億円でやれているクラブがあって、コンサドーレもその水準にいける可能性は十分ある(編集部注:コンサドーレの昨年度の売上は14.2億円)。ただ、そういうクラブはナショナルスポンサーみたいな大企業が付いていて、10億20億が1社から出ているわけでその分がうちには足りない。それを一発で埋めてくれる企業はなかなか出てこないので、少なくとも入場料収入を上げていきましょうと。そうなると、クラブ売上は25億~30億になる。その次に、海外で放映権が売れて、その放映権の分配をどう受け取るか、というところが論点になる時が来るはず。そこに向けて今から東南アジアと密に繋がって、東南アジアでも人気のあるクラブを目指していけば、その分配は大きく受けられる可能性があるかなと思っている。そういうタイミングが来た時に乗っていけるように今仕込みを入れているところ。

▼Jリーグの価値をアジアでいかに高めていくか?

アシシ:ベトナムの至宝と言われたレ・コン・ビン選手が札幌に在籍していた時に、シーズン終盤でしたけれどもベトナム国内でも放映しましたよね。あれは非常に面白い試みだったなと。今在籍しているインドネシアのイルファン選手では、東南アジアでの放映は難しいですか?

野々村:まだできていない、というかできない。FIFAの制裁がインドネシアにはあるから(編集部注:その後5月18日に制裁解除が発表された)。

アシシ:なるほど。レ・コン・ビンの契約更新ができなかったのは、やはりクラブとしては痛手でしたか?

野々村:僕らにとってというよりは、日本のサッカーにとってもしかしたら痛かったかもしれない。東南アジアで放送をして、しかも地元の英雄が試合に出られる状況ってあんまりないから。でも、そういうトライをコンサドーレが1回しているのはアドバンテージだと思っている。

アシシ:水戸ホーリーホックに今季、『ベトナムのメッシ』と言われるグエン・コンフォンという選手が加入したのも話題になっています。

野々村:水戸がベトナム人選手をどう活かしていくかわからないけど、札幌や北海道の場合、インバウンドでベトナム人観光客を北海道に呼べるというバックグラウンドをしっかり持っているところがいい。

アシシ:確かに。僕も中国に8年前にコンサルの仕事で住んでいたんですが、上海のデパートで北海道展をやると、それはまあ凄い客の入りなんですよ。中国語で北海道は「ベイハイダオ」って言うんですけど、北海道を舞台にした映画が大ヒットしたおかげで、今や中国での北海道のブランド力は凄まじいものがあります。中国の爆買いも含めて、コンサドーレがアジアと北海道の懸け橋になればいいですよね。インターネットで公開している2015-2017年の中期経営計画でも『パイプ役』という表現を使って、コンサドーレはアジア戦略を打ち出しています。

野々村:あとはどうブレイクするか。アジアにおける放映権の話とか、選手獲得のタイミングとかがうまくいかないと難しい。Jリーグの価値を東南アジアでもっと向上させていかないとね。

アシシ:今年、セレッソ大阪とそのスポンサーのヤンマー、それにタイの提携クラブとシンハービール、計4社がたすき掛けのような形で提携して、それぞれのスポンサーが日本市場、タイ市場に進出するための足掛かりになるような仕組みを作っています。

野々村:あそこはヤンマーの力が大きいよね。トラクターを東南アジアに売りたいという。

アシシ:北海道でもインバウンドが欲しい企業、東南アジアに進出したい企業、それぞれあると思います。その潜在需要に対してコンサドーレが懸け橋になれればいいですよね。

野々村:それはなれる、なる準備はもうできているから。あとはサッカーにそのような力があるというのを知らない人が多いので、そういう部分でもっとアピールしていければいいかなと。

▼クラブ名に『北海道』を新たに加えた理由

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アシシ:今道内で資金力がある企業の経営者はそれなりにご年配で、プロ野球を見て育っている世代ですからね。サッカーの力はグローバルでいうと野球よりも俄然大きい点の啓蒙活動が重要になってくるかと。

野々村:その啓蒙活動はずっとやってきている。さっきからの繰り返しになるけれど、その時が来た時にブレイクできる準備だけは他のクラブより先にやっておきたい、ということに尽きちゃうんだよね。

アシシ:そういう準備の意味で、僕は今季頭に『北海道』を付けて、クラブ名を『北海道コンサドーレ札幌』にしたのはすごいポジティブに捉えています。『札幌市を中心とした北海道』をホームタウンに定義しなおしたことで、サポーターに成り得る母数を190万人から540万人に、約3倍にしたのは非常に意義のあること。スポーツ全体で言うと、道内では日ハム(北海道日本ハムファイターズ)が競合ですが、サッカーに関しては北海道で独占状態と言えます。例えば、神奈川だと県内に6クラブもあるけど、北海道は1チームしかないってのは、すごいアドバンテージだと思うんですね。

野々村:ポジティブに考えればそう。逆に言えば、神奈川や九州はいっぱいクラブがあるのに北海道にはたった1つしかない。北海道にはそういうパワーがないともとらえられる。あと北海道って付けたのは、北海道の人たちへのPRもひとつだけど、アジアに出た時に札幌より北海道って言った方が向こうの人たちにイメージが湧くというのもある。

アシシ:なるほど。そういう意図があるのですね。やはり北海道のブランドは世界的に見ても大きいと。例えばドルトムント市の人口はたったの60万人なんです。そこと比べるとコンサドーレは約10倍のポテンシャルを持ったことになります。

野々村:まーあんなビッグクラブと比べられると困るけど(笑)。

アシシ:単純計算として、道民が1人コンサドーレに1000円払えば、それだけで54億円集まる計算になると、野々村社長がどこかのメディアで喋っているのを以前見たことがあります。

野々村:その通り。そんなイメージでスポーツクラブが成り立てばいい。1000円の価値は、勝った負けたで価値を出すのもひとつだし、クラブがあることで子供たちがこんなに楽しくサッカーをがんばってくれるっていう価値もあれば、もしかしたら電力の価値を含めてもいいかもしれない(編集部注:今季からコンサドーレは電力事業に参入し、エゾデンという電力会社をスポンサーと共に立ち上げた)。いろんな価値の創出の仕方があると思っている。

▼Jリーグラボの司会は露出面の効果も大きい?

アシシ:コンサドーレは20年コアな人たちに愛されて、今やローカル地上波でも生中継されて、露出に関してはJ2では屈指のクラブだと思います。日本サッカー界のレジェンド、小野伸二選手と稲本潤一選手がいますしね。サッカーで勝負するのは当然として、それとは別にこのブランド力を活用して、エゾデンでサポーターに電力を買ってもらうなどの、さらなる事業の多角化は考えていますか?

野々村:イメージとして、コンサドーレが幼稚園やお年寄りの福祉施設を作る、みたいなのは昔からやりたいと思っている。

アシシ:Jリーグのアドバイザーに就任したホリエモン(堀江貴文)も同じようなことを言ってましたよね。自分がクラブ経営するならば、一緒に学校も作るって。

野々村:そうそう、そういうこと。スタジアムとかグラウンドにそういう施設を入れて、朝は子供たちが来て、お年寄りが子供たちを見て、そこにグラウンドがあるみたいなのは面白そうだなとは思う。お金の問題もあるけど、やれることはたぶんたくさんあるんじゃないかな。

アシシ:それがやれてないのは、単純に人の問題、つまりやれる人材がいないのが課題なのですか?

野々村:人が足りないのもあるしお金の問題もある。コンサドーレがもっと20年間安定経営をしていたなら、きっとこういう提案に対して銀行は融資しますみたいな話ができるだろうけど、今は正直難しい。

アシシ:北海道と札幌市にまだ借金がけっこう残っているという話は聞いたことがあります。

野々村:両方ある。自分たちで何か新しいことをするってのはなかなかしんどいので、今季から提携した博報堂が上手く手助けしてくれれば嬉しい。

アシシ:Jリーグのクラブが、広告代理店と長期で億単位のパートナーシップ契約を結んだのは、史上初ですよね。博報堂との提携や電力事業への参入、東南アジアでの中継など、コンサドーレは新しいことにチャレンジするパイオニアとして、Jリーグのクラブの中でも異彩を放っている印象があります。

野々村:そうやって見られるのはありがたいし、そうでありたいよね。

アシシ:Jリーグのクラブの中でもコンサドーレが目立つ要因として、他のクラブのサポーターによく言われるのは、なんでスカパー!のJリーグラボの司会は……。

野々村:僕なんだと(笑)。元々メディアの人だからね僕は。それはしょうがないよね。

アシシ:月に1回、番組の冒頭で『今コンサドーレは何位で……』とクラブの近況話ができるじゃないですか。あれはクラブの宣伝としてもデカいですよね。

野々村:そうね。でもあれはしょうがない。昔からやっていて、スカパー!に世話になっているから辞めるわけにはいかない。

▼まさかコンサドーレはブラック企業!?

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アシシ:多角化経営の話とちょっと関連するんですけど、博報堂との提携は、お金だけじゃなくて人材も提供してもらっているわけじゃないですか。お金のやり取りではなく、人材の派遣などの新しいスポンサー提携などは考えていますか?

野々村:既にやれてんじゃないのかな。昔けっこう人が外部から来てたんだよね、スポンサーの会社から出向で。でも僕が来てから止めてもらっている。というのは、クラブの運営ってのは特殊な仕事だから本当に思い入れがないとけっこうしんどいし、グループとしてテンションの違いが出るのがちょっと嫌だなと思ってね。博報堂に関しては先方が数億円投資する形で、それを回収しなきゃいけない思いで、俄然モチベーションが違う社員がクラブに来てくれている。

アシシ:僕がコンサドーレを外から見ていて感じるのは、社員の働き方が尋常じゃないくらいに大変そうだなと。僕が広報スタッフにメール送ったら、深夜の2時とかに返信来るんですよ(笑)。

野々村:なんか大変そうだね。

アシシ:他人事のようなリアクションですが……。

野々村:正直言って、僕の感覚と普通の会社員の感覚って、たぶん相当違うんだなっていうのが初めてここに来てわかったわけ。

アシシ:どう違うんですか?

野々村:僕は別に休みなんかいらない。だけど、定時で働いて休みが2日あってみたいなのが普通なわけでしょ。

アシシ:サラリーマンは当然そうですね。

野々村:僕もそっちに近づかなきゃいけないと思うけど、彼らももう少しパフォーマンスを上げてもらいたいと思っている。休みなく働けってことじゃなくてね。2、3年経って良くなっているけど、大変な割にもしかすると成果が出てないのかもしれない。上手くいくような方法を考えないといけないなと思ったりもするんだけどね。

アシシ:野々村社長はある意味、コンサドーレに来るまではフリーランスのような働き方をしてきたわけじゃないですか。会社員とフリーランスって対極的な関係にあって、会社員は当然休みがあって定時があって、就業規則に守られて生きている。対するフリーランスは、ある意味無法地帯で生き抜く術を身に付けるわけで。経営者になったからには、バランス感覚が必要ですよね。とは言っても、サッカーが好きな人にとっては、クラブ運営の仕事はこの上なく楽しいものなので、他人にやらされている感覚ではダメ、という意見も理解はできます。

野々村:社員がみんな、プロの意識を持って自立してやっているかというと、100%そうとは言えない。ただ最近だと、僕の同級生で公務員を辞めてコンサドーレに来てくれた人や、ユース上がりの人間が銀行辞めて入社したりしている。そういうプロとしてやる心意気の人たちが増えないとなかなかクラブの運営は難しいなと思っている。

アシシ:経営者としては、モチベーションを上げるのも必要ですけど、それ以上に仕組みを整えることが重要ですよね。僕はコンサルタントだからリソース管理をよく現場でやっています。例えば工数を見積もって1営業日8時間かかる作業を、本当に8時間で完了できたかをちゃんと見るんですね。1週間40時間という稼働時間に対して、残業がどれだけ発生しているか、その残業は何が理由で発生したのか。こういうマネジメントは社長というよりも、部長クラスが面倒みなきゃいけないんですが、コンサドーレのリソース管理はどうやっていますか?

野々村:そこは、ここ1、2年でだいぶやれるようになってきた。技術的な問題とか量の問題は考えなきゃいけないけど、残業代出しませんよじゃないけど年俸制みたいにして、なるべくしっかり時間を区切った中でやっていくような体制がだいぶできてきた実感はある。

※後編に続く
「コンサドーレの野々村芳和社長が語る日ハムとのコラボの可能性」

村上アシシ

1977年札幌生まれ。職業は経営コンサルタント・著述家。外資系コンサルティング企業・アクセンチュアを2006年に退職し、個人コンサルタントとして独立して以降、『半年仕事・半年旅人』のライフスタイルを継続中。南アW杯出場32カ国を歴訪した世界一蹴の旅を2010年に完遂。Jリーグでは北海道コンサドーレ札幌のサポーター兼個人スポンサー。

ウェブサイト:http://atsushi2010.com/
ツイッター:https://twitter.com/4JPN
近著:海外旅行のノウハウ本『ロジ旅