J論 by タグマ!

過剰な浦和への意識は禁物。広島の勝負どころは、まだ先にある

4強で最も早く直接対決を迎える広島に焦点を当てる。

ファーストステージ終了から約2週間の時を経て、Jリーグ・セカンドステージが7月11日に開幕した。ファーストステージを無敗で駆け抜けた浦和レッズがセカンドステージ制覇の大本命であることは間違いないが、ファーストで5強に食い込んだ上位チームもこのまま黙っているはずがないだろう。ファーストの2位・FC東京、3位・広島、4位・G大阪、5位・川崎Fの4強が、セカンドで浦和を食い止めるために練ってきた反逆のプランに、各クラブの番記者が迫った。第2回は4強で最も早く直接対決を迎える広島に焦点を当てる。

▼浦和戦、前回対戦の記憶
 浦和が今季のファーストステージで、唯一得点を取れなかったチームが広島だ。3月22日の第3節、0-0での引き分け。だが当時の浦和は、ACLのグループステージで3連敗を喫する大苦戦中だった。広島との決戦の前もアウェイの北京国安戦で0-2と完敗しており、それゆえにJリーグでの連勝スタートも相対的な評価は低かった。実際、湘南・山形と続いた開幕2連戦でもサッカーの内容には疑問符が付けられていた。浦和のコンディションの波は、間違いなく底にあったと思う。

 だからこそ、広島はこの浦和戦に勝利しておくべきだった。決定機の質・量でもシュート数でも明確に浦和よりも上。「勝ち切りたかった。前半の決定機で点を取っていれば…」と、この試合直後の森崎浩司は悔しさをあらわにし、塩谷司も「勝てた試合だった」と吐き出した。

 ただ、今季の浦和の強さは、実はこの広島戦のような試合ができるところにある。内容的に厳しい状況に陥ったときでも全員で耐えて、結果的に勝点をもぎ取る。例えば川崎F戦では89分に同点弾が飛び出して引き分け。仙台戦は80分に逆転弾を喫したのにその1分後に追い付いて4-4。広島戦にしても、前半から75分までペースを握られながらも守り切り、その後は運動量で上回って主導権を奪い返していた。

 前節の山形戦、「今季で最も悪い内容」と柏木陽介が語っても、結果として負けていない。先制された試合の戦績での「3勝2分」という結果も含めた「粘り強さ」は、かつての浦和にはなかったことだ(昨季は2勝2分4敗)。

 もし、広島や川崎Fのように彼らがACLとの並行日程に苦しんでいた段階で戦ったチームが勝ち切れていたら、浦和はACLだけでなくJでも崩れていた可能性もある。それほど彼らの状態は悪かった。だがこの序盤戦を乗り切り、ACL敗退後はリーグに集中できたことで、浦和は盤石と化した。

▼広島が独走を止める第一の刺客
 タレントの質・量ともにJでNo.1。戦術的にも深く浸透しており、メンバーが代わったからといってレベルが落ちることはない。新加入の武藤雄樹、ズラタンがチームを救うゴールを叩き込み、ワイドの関根貴大、宇賀神友弥は二人合わせて5得点10アシスト。誰が出てもどこからでも点が取れるいまの浦和を止めるのは、そう簡単な作業ではない。

 守備に目を向けても、18失点はリーグ3位で被シュート数8.63はリーグ首位。データから見ても死角はない今の浦和が、2013年の大宮のような大惨事(開幕15試合で11勝3分1敗(今季の浦和は11勝4分0敗)という快進撃から大きく崩れて残留を争う)に見舞われることは想像もできない。ACミランが1991-92年にセリエA史上初の無敗優勝を飾ったが、もしかしたら浦和はJ史上初となる「シーズン無敗」を成し遂げる可能性もある。それほど、彼らは強い。

 広島はファーストステージ5位以内のチームの中で、最も早く浦和との直接対決を迎える。ここで広島が浦和の進撃を止めないと、セカンドステージも彼らに走られてしまうのではないか。そんな危惧が生まれてしまいそうにはなる。

 ただ、「ストップ・ザ・レッズ」を果たそうと意識過剰となったあげく、自分たちの形を崩して対浦和対策を練り上げるこことは得策ではない。行き過ぎた「対策」は浦和戦に効果を発揮したとしても、その次、さらに次の試合に向けてのリズムを崩すことになりかねないからだ。

▼対策を講じることは是か非か
 その「法則」がある程度の正しさを証明しているのは、他ならぬ浦和自身である。2012年の開幕戦で古巣・広島に完敗したペトロヴィッチ監督は、それ以降の広島戦では特別な対策を講じ続けている。徹底したマンツーマンディフェンスを採用し、1対1で負けないことを前提とした守備でボールを奪い、そこからのショートカウンターを狙う。ポゼッションをある程度放棄してでも、厳しい守備と速攻をチームに課した。その結果として、浦和は対広島戦5連勝を果たす。だが「広島戦のような守備を続けることは体力的にもたない」と浦和の選手たち自身が語るほどのハードなディフェンスの代償として、広島戦勝利直後の公式戦にほとんど勝てていない(1勝1分3敗)のだ。

 一方で広島は、浦和戦での苦手意識を少しずつではあるが、克服しつつある。昨年来から浦和戦公式戦3試合連続引き分け。ナビスコカップ準々決勝では2試合ともに引き分けながらもアウェイゴールの差で広島が準決勝進出を果たし、今季の初戦でも内容で凌駕している。ただ一方で、浦和戦に引き分けた後の公式戦では1分1敗。決して特別な戦術はとっていないのだが、浦和に「勝ちたい・負けたくない」という思いが強過ぎた「後遺症」に悩まされる結果となった。

「この試合だけ勝てばいい」というノックアウトステージとリーグ戦は違う。浦和を抑えたとしても次の戦いで勝てなければ、自分たちが上に行くことはできない。もちろん、勝利のためにスカウティングと対策構築は必須ではあるが、それによってチームのリズムを揺るがすことがあっては、継続して結果は残せないのである。

 極端な戦術的対策をとることも、「浦和を止めたい」という気持ちを強く持ち過ぎることも、「ストップ・ザ・レッズ」にとって最良の策ではない。19日の浦和との直接対決は非常に重要だが、それはほかの試合と同様に重要な試合の一つとして捉えるべきだろう。浦和対策として極端に低い位置でブロックをつくることも、あるいは前から激しくプレスをかけることもあっていい。だが、成熟期を迎えた浦和に対して、自分たちのコンセプトを揺るがすような特別な策では、善戦できても勝利までは難しい。セカンドステージの開幕戦で浦和に特別なマンマークシステムを導入した松本も、善戦したが勝つことはかなわなかった(そして直後の広島戦では0-6と惨敗している)。
 
▼攻撃力は広島のほうが上
 むしろ自分たちのコンセプトを堂々とぶつけたほうが勝機はある。浦和戦だからといって特別に気持ちを高めても、次の試合で負けたら元も子もない。実際、2012年~13年の広島は、最初の戦い以降は浦和戦完敗が続いた。だが、その敗戦ショックを引きずることなく修正し、直後の試合をすべて勝利することで優勝へとたどりついた。そういうブレない戦いの指針なくして、シーズンを通して赤い軍団を上回ることはできないだろう。

 浦和はこれまで同様に広島にはマンツーマンディフェンスをしかけてくるだろうが、例えば最近5試合6得点と量産態勢に入った佐藤寿人がけん引する攻撃の破壊力は、2012年初優勝の時に見せた絶好調時の姿を彷彿とさせている。最近5試合で圧巻の20得点はもちろんリーグトップ。シーズン前は「主力が抜けた穴」と言われていたシャドーの位置に納まった柴崎晃誠とドウグラスが、二人合わせて5試合で6得点3アシストを含む12得点に絡む活躍を見せ、青山敏弘も5試合1得点4アシストと目に見える結果を出しているのも心強い。ワイドのミキッチvs宇賀神友弥、柏好文vs関根貴大という対決の構図も五分と五分だろうし、ベンチには守備を崩さなくても得点できるFKやシュート力を持つ野津田岳人や森崎浩司、さらに抜群のスピードを誇る浅野拓磨も控えている。浦和の守備陣がしのいだファーストステージの広島よりも、こと攻撃に関しては上。「広島は強いです」と松本・反町康治監督も脱帽した。

▼勝負どころはチャンピオンシップ
 確かに浦和は強い。だが、特別な意識を取り払い他の強豪たちと同じ感触で戦うことで余分な力みも抜くことができるし、次への影響も少なくなる。まずは平常心で浦和との対決を迎えること。結果に一喜一憂することなく、次に向かうことだ。

 今季は浦和がセカンドステージを制したとしても、チャンピオンシップで勝利したチームがチャンピオンだ。必要以上に「対浦和」を意識することなく、年間3位以内を確保してポストシーズン大決戦への進出を狙いたい。その大舞台で浦和と今季最後の対戦を迎えたとしたら、そのときにあらためて「浦和対策」を考えればいい。それくらいの割り切りがあったほうが、結果も導きやすいだろう。

中野 和也

1962年3月9日生まれ。長崎県出身。居酒屋・リクルート勤務を経て、1994年からフリーライター。1995年から他の仕事の傍らで広島の取材を始め、1999年からは広島の取材に専念。翌年にはサンフレッチェ専門誌『紫熊倶楽部』を創刊。1999年以降、広島公式戦651試合連続帯同取材を続けており、昨年末には『サンフレッチェ情熱史』(ソルメディア)を上梓。今回の連戦もすべて帯同して心身共に疲れ果てたが、なぜか体重は増えていた。