J論 by タグマ!

FC東京はゲーゲンプレスで”武藤ロス”を乗り越える

ファーストステージ2位で結果的に最も浦和に肉薄したFC東京にフォーカスする。

ファーストステージ終了から約2週間の時を経て、Jリーグ・セカンドステージが7月11日に開幕した。ファーストステージを無敗で駆け抜けた浦和レッズがセカンドステージ制覇の大本命であることは間違いないが、ファーストで5強に食い込んだ上位チームもこのまま黙っているはずがないだろう。ファーストの2位・FC東京、3位・広島、4位・G大阪、5位・川崎Fの4強が、セカンドで浦和を食い止めるために練ってきた反逆のプランに、各クラブの番記者が迫った。第4回はファーストステージ2位で結果的に最も浦和に肉薄したFC東京にフォーカスする。

▼インターバルの取り組み
 セカンドステージ第1節で川崎フロンターレに敗れ、いきなりつまずいたFC東京。第2節ではアルビレックス新潟を下して連敗をまぬがれ、優勝争いに踏みとどまったが、果たして浦和レッズを止めることはできるだろうか。

 状況は厳しい。武藤嘉紀とラサッドに代わるFWとしてネイサン・バーンズとサンダサを獲得したが、まだコンディションは100%ではない。また、新しい戦術に着手し、守備においては一定の手ごたえを得ているが、得点力に不安を残している。チームが成熟するまで、数節を要するだろう。その間、いかに勝ち点を落とさずに済むかで、年間順位3位以内にいられるかどうかが変わってくる。

 2週間の中断期間で取り組んだ第一は、体力の蓄積だ。CBの吉本一謙は「フィジカル中心のメニューをこなすことで、セカンドステージに必要な体力を備える」という意味のことを言っていた。2週間あるうちの1週目は肉体をいじめたわけだ。ハードワークを基盤とした守備がファーストステージの順位を支えてきたことを思えば、これは当然の措置だろう。

▼モデルケースはドルトムント
 そして2週目の取り組みは戦術。川崎F戦を控え、マッシモ・フィッカデンティ監督は選手に対し「ドルトムントの戦い方が鍵になる」と言っていた。これは、ドルトムントの守備が川崎Fの攻撃を徹底的に封じ、ボールを奪うや一気に裏のスペースを突いてゴールを奪ったことを指して言っている。実際、7月11日第1節・川崎F戦の前田遼一は、7日のロイスよろしく、マイボールとしたあとに激走、ペナルティーボックス左角の辺りからシュートを打った。惜しくも得点はならなかったが、狙いはよく分かった。実際、プレッシャーをかけて高い位置でボールを奪う守備はよく機能していた。

 この守備の採用にはもちろん、川崎F対策という側面もある。しかしチームの発展上、あってしかるべき変化ということもできる。これまでのFC東京は自陣に引いて後方のスペースを消す、リスクの低い守備を志向してきた。前半45分間は0-0で耐え、後半45分間で得点するという試合運びで勝ち点を重ねてきたのだ。

 それが一定の成果を挙げたとはいえ、問題がなかったわけではない。狙って引いたわけではなく、意図せず押し込まれて苦しんだ試合もあった。相手も体力が落ちてくる後半になると、前線からプレッシャーをかけてボールを奪い取るアグレッシブな守備もできたが、どの時間帯でもそれを意図して長い時間できたわけではない。なぜ最初からアグレッシブな守備でボールを奪いそのままの勢いで点を取ることができないのかという声は、内外にあった。

 0-0で推移しつつセットプレーでの得点待ち。その試合運びは、太田宏介の精度に依存している。確率論的に得点を期待しても、太田が不調の場合、あるいは太田のキックになんらかの対策を講じられた場合、0-0のまま終わってしまう可能性もある。自らの意思で点を取りに行くと決意し、短い時間で得点するには、能動的な守備でボールを奪ってからの速攻が必要だと考えたのかもしれない。

 フィッカデンティ監督が指揮を執りはじめてからの一年半で、守備の意識を強く持ち、勝ち点を落とさないというメンタリティーは、深く浸透してきている。それは間違いない。一方で、得点力を上げない限り、上位を打ち破る力強さを獲得できないだろうことも事実だ。ファーストステージのFC東京は、下に強く上に弱いチームだった。浦和レッズとサンフレッチェ広島に敗れ、ガンバ大阪と引き分けた。FC東京が勝った上位5位以内のチームは川崎フロンターレだけ。その川崎フロンターレにもセカンドステージの初戦で敗れてしまったわけだから、現時点での5強内での序列は、客観的には一番下と判断せざるを得ない。チーム力を向上させながら年間順位3位以内でレギュラーシーズンを終え、最高潮の状態でチャンピオンシップに臨み、浦和に勝つ。その展開でしか、FC東京の初戴冠はありえない。

▼「良い内容のサッカー」から脱皮するために
「良い内容のサッカーをしている」と評価されながらも、結果が伴わない。

 J1昇格を果たしてからのFC東京は、その繰り返しだった。中位から脱け出て上位に定着する。その悲願をようやく果たせそうなところまではやってきた。長年の積み重ねは生きている。ただし、まだシーズンの半分。上位のメンタリティーを獲得するためには、あとひと押しが必要だ。”武藤ロス”によって変身を迫られているいま、反発力で新しいチーム像を確立できたなら、たくましさが身についたという真の証となるだろう。

 ドルトムントのゲーゲンプレスを100%コピーすることはできない。もしできるのであれば、FC東京は欧州王者になってしまう。しかし同じ方向性でその完成度を60%、70%に上げていく努力を怠らなければ、上位に残る挑戦権を失わずに済むくらいには強くなれる。第2節の新潟戦では、やや引き気味に構えてバランスを取ることで、ボールを落ち着ける場所を作り、安定感のあるプレーを実現した。新潟を相手に優勢となったとたん、この試合中、再び前からプレッシャーをかけはじめ、本来目指していたコンセプトに収斂していったのだから面白い。

 このように、ところでどころで修正をかけて勝ち点を拾い続けているうちに、”東京流ゲーゲンプレス”の成熟度を高めていけば、チャンピオンシップの時点では4強と互角に戦えるようになっているかもしれない。折れずに研鑽を続けられるかどうか。ここが正念場だ。

後藤 勝(ごとう・まさる)

サッカーを中心に取材執筆を継続するフリーライター。FC東京を対象とするWebマガジン『トーキョーワッショイ!プレミアム』を随時更新。著書に小説『エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』(カンゼン刊)がある。