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空回りなき見事な優勝。しかし、喜んでばかりもいられない

J1リーグのファーストステージは浦和レッズの独走優勝という形で最終節を待たずに決着することとなった。無敗の快進撃を見せた浦和の勝因とは何だったのか。ベテランジャーナリストの後藤健生は、あるポイントに着目した。

▼かつての停滞感は消えて
 ファーストステージ優勝を決めた浦和レッズ。「16節まで無敗」という安定感抜群の優勝だった。

 ミハイロ・ペトロヴィッチ監督就任以来、浦和のサッカーは一貫して攻撃的で魅力的なものだったが、「脆さ」も同居していた。だが、今シーズンの浦和は実に落ち着いた試合運びを見せ、点が取れなくても焦らず、先制ゴールを許しても慌てず、つねに落ち着いて戦ってしっかりと勝点を積み重ねていった。

 先制点を奪ったものの逆転され、2回先行を許したもののアディショナルタイムに追いついて引き分けた第10節の柏レイソル戦。また、第14節の「鬼門」とも言われたサガン鳥栖とのアウェイゲーム。前半31分に退場で1人少なくなっていた鳥栖に先制されたものの、まったく慌てることなく逆転勝ちした試合。この2試合が、今シーズンの浦和の充実ぶりを象徴していた。

 かつての浦和は、攻撃的ではあったものの攻撃が空回りすることも多かった。

 ワントップ、ツーシャドーに両サイドアタッカー、さらにセンターバックまでもが攻め上がるのが浦和の攻撃サッカーだが、点が取れないと選手たちが焦って前線に張り付いてしまうことが多かった。そうなると、相手守備陣も戻るからゴール前にスペースが見つからず、選手の動きもなくなって、こじ開けることは難しくなる。そして、前がかりになりすぎてカウンターを浴びる……。そんな試合が目についていた。

 先日の日本代表が格下のシンガポール相手にスコアレスドローに終わった試合の後、ペトロヴィッチ監督に「昔の浦和みたいだったね」と言ったら、監督も「そう、2012年あたりはそうだったね」と言っていたが、僕は2013シーズンにもそんな試合を何度か目にしたと記憶している。

 そんな浦和が、すっかり落ち着いた大人のサッカーができるようになったのだ。「優勝」は、当然の結果だろう。

▼大きかった武藤の加入
 戦力的にファーストステージ優勝に大きく貢献したのは、新加入の武藤雄樹だった。

 浦和の攻撃においては、ワントップとシャドーの2人は重要な役割を担っており、昨年も、シーズン終盤でトップの興梠慎三が故障したのが失速の原因の一つだ。また、ツーシャドーは昨シーズン途中で原口元気がドイツに渡り、マルシオ・リシャルデスも昨季は負傷がちで浦和は攻撃面で苦しんだ。

 そして、今季も興梠の出遅れなど不安もあったのだが、そんな中で新加入の武藤がどの試合でも献身的に動いて攻撃に厚みをもたらした。また、武藤が2列目でしっかりポジションを埋めたことで、柏木陽介をボランチで使った時にも安定感が増した。

 昨季はGK西川周作の補強が成功した浦和。今季は武藤の獲得が戦力アップのポイントだった。その他、右サイドの関根貴大の成長もあって、戦力的にも浦和は着実に成長を続けている。

 そして、そういう戦力面以上に、精神的成長も重要なファクターだった。昨年の「終盤での大失速」という悔しい記憶から学ぶところが大きかったのだろう。

▼とはいえ……
 もっとも、浦和のファーストステージ優勝も喜んでばかりはいられない。

「優勝」とは言っても、シーズンの半分の時点で首位にいるだけなのだ。当然、目指すべきは年間勝点での首位。そしてチャンピオンシップ制覇である。

 なにしろ、昨季も浦和レッズは第17節終了時に首位に立っていたのだ。ただ、昨シーズンは「ファーストステージ優勝」という制度がなかった。それだけの違いなのだ。ちなみに、昨シーズンはその後首位を独走した浦和が第32節のガンバ大阪戦に敗れて大失速し、優勝を逃した。

 もちろん、今シーズンは無敗で16節までで勝点もすでに38に達しており、昨シーズンの第17節終了時の勝点36を超えているが、やはり、「本当に進化した」と確信できるのはシーズン終盤までしっかりと戦い抜いた時だろう。

 浦和のファーストステージ優勝には運も味方していた。

 たとえば、浦和は第9節に最大のライバル、ガンバ大阪との決戦に完勝したが、このゲームは浦和のホームだったし、G大阪はACLの連戦でコンディションが悪く、とくに守備ラインに故障者が続出していた最悪の時期だった。ACLでは浦和の敗退が早々に決まったことで、J1リーグに集中できたのも大きなアドバンテージだったはず。ライバルのG大阪は連敗スタートから盛り返してACLで準々決勝まで勝ち上がってきた。その負担はかなり大きかったはずだ。

 いずれにしても、浦和を本当の意味で「チャンピオン」と呼ぶのは、やはり12月のチャンピオンシップでマイスターシャーレを掲げる日まで待つべきだろう。そして、そのことは、ペトロヴィッチ監督をはじめ、浦和の選手たちが一番よく知っているはずだ。

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続けており、74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授。