J論 by タグマ!

15日開幕のJ3リーグを大胆予想。初心者から玄人までを誘う、「3つめのリーグの楽しみ方」

1週遅れて開幕を迎える、J3に着目。大胆に順位を予想しながら、博識の党首・大島和人がJ3ならではの事情と注目ポイントを語り尽くす。

今季で23年目を迎える明治安田生命J1リーグが3月7日に開幕を迎えた。J2も翌8日に開幕し、週末にはJ3も幕を開ける。今週の『J論』ではそんな開宴模様に焦点を絞って、全国各地の様子をお届けしていきたい。第三回目は1週遅れて開幕を迎える、J3に着目。大胆に順位を予想しながら、博識の党首・大島和人がJ3ならではの事情と注目ポイントを語り尽くす。

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熱狂する長野サポーター。「自分たちのチーム」がある幸せが、このリーグで育まれる (C)大島和人

▼プロとアマが混在する独自空間
 J1は23度目、J2は17度目の開幕を迎えた。3月15日には、2シーズン目の明治安田生命J3リーグが開幕する。

 J3を取材していて、本当に良かったと思う。サッカー選手の生き様、クラブの有り様をよりリアルに観察できるからだ。皆さんがスカパー!のコールセンターに電話をしたとき、オペレーターが若い男性なら、それはFC琉球の選手かもしれない。長野や町田のような”ビッグクラブ”は専業が原則だが、J3全体を見ればプロ契約の選手は半数以下だろう。契約上はプロでも、サッカーだけで食べて行けるとは限らない。選手たちの多くはスクールのコーチ、看護助手、塾講師といった職を持ちながら、ボールを蹴っている。

 J3にはプロとアマチュアが入り混じる、独特の”生態系”のようなものがある。高原直泰のような日本代表経験者がいる一方で、キャンプ期間に仕事へ行けず、翌月の収入が途絶えて困っている選手もいる。これはJ3より下のカテゴリーの例だが、「女性に貢いでもらってサッカーを続けている」という”ヒモ選手”の存在も聞いたことがある。人が食べていく、シビアな現実がそこにはある。

 これをメディアが「Jリーガーがアルバイト」「悲惨な現実」と、同情を誘うような筆致で記事にすることがある。とはいえ実際は施設や用具の心配をせず、遠征費も負担せず、毎日サッカーをプレーできることは、選ばれた者の特権だろう。私立大学のサッカー部に入れば学費や寮費、部費などで年間で2百万円ほどの出費が発生すると聞く。そして「好きなことが思う存分できる」という身分を手に入れる競争も相応に激烈だ。J3のセレクションを見れば、J1や年代別日本代表の経験者が集結していて驚かされる。J3クラブが「給与はこちらが払うからこの選手を獲ってくれ」という、J1からの逆オファーを水面下で断っている例も少なからずある。どんな肩書があっても、それで通用する世界ではない。

▼夢の世界でないからこそ
 グルージャ盛岡の田中舜は清水東高時代に内田篤人と同期で、大学を卒業した後は大手銀行に就職した経歴を持つ。収入面だけを考えれば、サッカー界に足を踏み入れなかったほうが賢明だっただろう。しかし、「人はパンのみにて生くるにあらず」。サッカーの魅力に抗するのは容易でない。選手はサッカーをプレーでき、僕らは選手たちに夢を託すことができる。そこには理屈で割り切れない魔力があり、お金で測れない価値がある。

 エンターテインメントには二つのあり方があると思う。一つは完璧に演出され、暗い影や裏事情を徹底的に隠す”夢の世界”だ。言ったらディズニーランドがそうだし、昭和の映画スターやアイドルもそうだった。しかし『AKB48』や『ももいろクローバーZ』を見れば、そこに演出はあれど、喜怒哀楽のすべてを含んだ”生き様”がエンターテインメントになっている。「酸味、甘味、塩味、辛味、うま味」の五味が揃って料理ができるように、生きていく過酷さ、人の挫折も”喜び”を引き立たせる大切なスパイスだ。J3はサッカーにおける”リアリティーショー”だ。

 一方でJ3には、小さいものが大きく育っていく過程に特有の”ワクワク感”もある。昨年11月に私は「レノファ山口が勝てばJ3昇格確定」というJFL のファジアーノ岡山ネクスト戦を取材した。岡山のカンスタには山口の地上波局がすべて終結し、記者室は50人以上のメディアでにぎわっていた。J1でもこれだけの数が来ることは珍しいという人数である。ニュース番組のキャスターが、生番組出演をキャンセルして岡山に足を運び、”その瞬間”のレポートに備えていた。J2のサポーターにとってJ3降格は恐怖だろう。しかしJFLやそれ以下のクラブにとって、J3入りは”悲願”だ。

 地方クラブにとって最大の価値は、おそらく”そこにクラブがある”ことだろう。自分の家のような気持ちで足を運べるスタジアムがあり、気持ちを一つにして試合を応援できる仲間がいる。それはフットボールカルチャーを発生させるために必要最低限の単位だ。”自分たちのクラブ”として認知されるためには、Jというブランド、リーグや行政の支援、そして報道といったオフ・ザ・ピッチのサポートもかなり重要だ。J3はクラブやサポーターにとっての”初等教育機関”であって、このカテゴリーで得た学びがその後の飛躍につながっていく。

 日本には三重、福井など全国リーグに参加しているクラブが存在しない県がいくつかある。夏の甲子園や冬の高校サッカーがあれだけ盛り上がるのは、47都道府県が揃っているからという理由が大きく、Jリーグも都道府県が揃って初めて”完成”するのだと思う。心優しい日本人は「敵をぶちのめしたい」という憎しみでは燃えないが、「負けたくない」「お隣に比べて恥ずかしい」という嫉妬や妬みに追い込まれると本気になる。私はまだ”本気”になっていない日本サッカーをやや歯がゆく思いながら、そこに近付いてきた様子が見て取れるJ3の取材を楽しんでいる。

▼そして、J3順位予想
 最後に誰もやる人がいないので、あまり知らない人にJ3の戦力を紹介するという意味を込め、順位予想という”すべり芸”を披露しようと思う。

★1位:FC町田ゼルビア
一口メモ:激しい切り替えから、4人5人が狭い距離感で一気に攻め切るスタイルが浸透。若手から中堅に差し掛かる年齢層の選手が多く、昨季からの上積みも期待できる。土岐田洸平、宮崎泰右、重松健太郎といった新戦力にも期待。

★2位:AC長野パルセイロ
一口メモ:13年のJFLを圧倒的な強さで制し、昨季はJ3・2位。新スタジアムをJ3で迎えることになった。美濃部監督は3年目で、スタイルが固まっている。一方で現有戦力を確実に上回る強烈な補強がなく、エース宇野沢祐次が負傷で開幕に間に合わないのも不安要素。

★3位:カターレ富山
一口メモ:昨年の鳥取、一昨年の町田と、J2から降格した直後のチームは苦戦する。富山も主力がクラブを去り、チーム作りはやり直しに。

★4位:SC相模原
一口メモ:森勇介、須藤右介らのベテランに加え、期限付き移籍で若手も補強し戦力は大きくアップ。現場のスタッフも増員している。

★5位:レノファ山口
一口メモ:岸田和人は昨季のJFL得点王だが、イエローも10枚。しかし上野展裕監督は癖のある選手も使いこなす、懐の深い指揮官だ。

★6位:ガイナーレ鳥取
一口メモ:レギュラー格が大量にクラブを去り、それを補うだけの補強もできていない。おそらく予算的に厳しいのだろう。

★7位:グルージャ盛岡
一口メモ:大型FW土井良太は長野に栄転したが、鳥取や富山の主力を複数獲得し、昨季と同等の戦力を維持。しかし昨季の5位は、経営規模を考えると出来過ぎの感も。

★8位:Jリーグアンダー22選抜
一口メモ:リオデジャネイロ五輪世代(1993年以降生まれ)で構成されるため、単純に昨季から平均年齢が1才上がるので戦力もアップするはず。

★9位:福島ユナイテッドFC
一口メモ:湘南からの期限付きが多く、特にJFAアカデミー福島出身のMF安東輝は高卒2年目ながら既にチームの中心。

★10位:FC琉球
一口メモ:薩川了洋監督の記者会見、勝ったあとのドヤ顔はJ3名物。ただ戦力的には物足りない。

★11位:YSCC横浜
一口メモ:昨季は最下位に沈んだが、大卒1年目~3年目の若手も多く潜在的には中位レベル。

★12位:ブラウブリッツ秋田
一口メモ:監督はオシム監督の通訳を務めた間瀬秀一氏。昨季までの徹底的なポゼションサッカーから”考えて走るサッカー”に変貌できるか?

★13位:藤枝MYFC
一口メモ:決して悪いサッカーをしていたとは思わないが、昨季のブービー。すいません、どこかを最下位に予想しなければいけないので……。

 大半のチームは昨季からバージョンアップを果たした感がある。昨季のJ3は上下の格差が他のカテゴリーより大きく、金沢、長野、町田の”三強”が図抜けていた。しかし今季は中堅以下のクラブが良い補強をしているため、リーグとしても接戦になるだろう。

 J2の”オリジナル10″からは川崎F、FC東京、鳥栖、新潟、仙台、甲府といったクラブがJ1に羽ばたいていった。ときに厳しい現実と直面するだろうが、地に足をつけた活動を続けていけば、クラブとサポーターは経験値を積み、未来への足掛かりを作ることができるはずだ。

大島和人

出生は1976年。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。柏レイソル、FC町田ゼルビアを取材しつつ、最大の好物は育成年代。未知の才能を求めてサッカーはもちろん野球、ラグビー、バスケにも毒牙を伸ばしている。著書は未だにないが、そのうち出すはず。