J論 by タグマ!

下から目線の優勝争い展望。最後は”うさP”コンビのガンバが突き抜ける!?

大島和人が甲府担当の番記者という独自の目線から優勝候補を解剖。クライマックスを左右する最後の要素を考える。

一つのテーマを複数の識者が語り合う『J論』。今回は「1シーズン制でのラストバトル。J1優勝争い大展望」と題して、J1リーグの終盤戦を占ってみたい。来季から2ステージ制が導入され、善くも悪くも年間を通してタイトルを争うリーグ戦の醍醐味を味わうことはなくなる。だからこそ、今季のこの戦いとそこで起きるダイナミズムを注視したい。その第2回は、博識の党首・大島和人が甲府担当の番記者という独自の目線から優勝候補を解剖。クライマックスを左右する最後の要素を考える。

▼堅陣・甲府を鏡にして考える
 Jリーグの優勝争いがもつれている。妖怪……ではなく、うさPのしわざだ。

 私はあくまでもヴァンフォーレ甲府の番記者であって、最大の関心は優勝争いでなく残留争い。……と言いながらも、ヴァンフォーレの堅守は、上位チームの実力を測る最高の比較材料だった。甲府の今季の失点数「30」、完封試合数「12」(第30節終了時点)といった守備の数値はJ1屈指。被シュート数もJ1最少で、守備組織の完成度は日本サッカーの最高峰かもしれない。逆に言うと、この”甲斐ナチオ”を打ち破ったチームこそが、ホンモノである。

 10月22日の第29節では、首位・浦和が甲府に零封された。26日の第30節は、3位・川崎Fも1-2で甲府に敗れて、順位を落とした。もちろん浦和も川崎Fもグッドチームなのだが、相手に周到な守りの手を打たれたときの脆さも見て取れた。終盤戦はお互いの分析材料が増え、上位勢は特に警戒されて手も打たれる。強みを消す戦いをされたときに、それでも消されない強みを持っていること。それが終盤戦を制し、王者の称号を手に入れる資格ではないだろうか――。

▼驚愕の”うさP”コンビ
 そんなことを思う甲府担当にとって、今季最大の衝撃は二度のガンバ大阪戦だ。特に7月19日の第15節(G大阪 2○0 甲府)は、実に”理不尽”な内容だった。甲府はG大阪をシュート3本に封じていたにもかかわらず、宇佐美貴史と倉田秋にスーパーゴールを決められ、0-2で敗れたのである。この2人には第21節(甲府 3△3 G大阪)でもゴールを決められ、その図抜けたクオリティを思い知らされた。

 甲府はG大阪の強みをおおよそ消していた。しかし相手にはそれを上回る個と、一瞬の隙を逃さない詰めがあった。そのディテールは、J1の他クラブにない要素ではないだろうか?

「25、30(メートル)くらいは逆に打ちやすい」という宇佐美の言葉を聞けば分かるように、彼はブロックの外から”ウサミドル”を決めてしまう段違いのシュート力がある。それを警戒した各チームが早めに寄せるようになったら、今度はアシストを増やし始めたのだから、もう手に負えない。

 強いチームの定義を考えるとき、”悪い内容でも結果をもぎ取れる”ことは大きなポイントだろう。ブッフバルト監督時代の浦和レッズ、ストイコビッチ監督3年目の名古屋グランパス――。彼らは試合のプロセスが冴えなくても、帳尻を合わせる問答無用の凄みがあった。戦術的には正解を出して、試合を見ても間違いなくやれているのに、結果が伴わない。そうなるともう手を打つ意味がないわけで、お手上げだ。

 先述の第15節は、W杯ブラジル大会による中断が空けた直後で、後半の開幕戦だった。その時点でG大阪は降格圏内の16位にいたチームである。そんなチームを首位・浦和と勝ち点3差の2位(第30節終了時点)にまで引き上げた立役者が、宇佐美とパトリックの”うさP”コンビである。

 今季のG大阪は05年の優勝当時のような、つなぎ倒すスタイルではない。ボールの支配率を見ても、J1の中位レベルだ。しかし負傷から戻ってフィットした宇佐美と、期限付き移籍により加入したパトリックの2トップが、段違いの”個”で低迷していたチームを一気に引き上げた。彼らは後半戦の16試合で、合計15ゴールを挙げている。

 もちろんこの二人だけがG大阪を浮上させた訳ではない。宇佐美はあまり守らないし、スペースを作る、ボールを追う仕事も得意ではない。パトリックは圧倒的なパワーと高さ、スプリント力を持つものの、ボール扱いやシュート精度には難点を持つ選手だ。

 しかしDFの守備なり、MFのポゼションがしっかりしているから、うさPは”得意な仕事”に専念できている。個を生かす土台が元々できているところに、この2人がちょうどハマったということなのだろう。遠藤保仁、今野泰幸といったベテランの真価は、いまさら説明するまでもない。他にも倉田秋は攻守で味方を助けつつ、自身も特別なクオリティを持ち、神出鬼没で中に絡んでくる曲者だ。

▼浦和も川崎Fも鹿島もいいチームだが……
 浦和は「5人に5人をつければ守れる」という甲府のある選手の言葉通り、穴さえ空けなければ出てこない安心感があった。人が付いていればボールを下げることが多いし、組み立てやコンビプレーを封じると、”個”もある程度は消せるチームだ。川崎Fは甲府に立ち位置の工夫で長短、緩急のリズムを消され、自滅する展開だった。また3位・鹿島(第30節時点)は間違いなくグッドチームで、若手の台頭を見ても今後への期待値は高い。しかしFWダヴィの負傷というアクシデントもあり、直近の4戦は勝利から遠ざかっている。

 G大阪には後半戦16試合で勝ち点を「40」も積み上げ、浦和との勝ち点差を「14」から「3」に縮めた勢いがある。対策をしても消せない”うさP”の威力もある。となれば優勝候補の筆頭は、なにわの青黒軍団ではないだろうか。

大島和人

出生は1976年。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。ヴァンフォーレ甲府、FC町田ゼルビアを取材しつつ、最大の好物は育成年代。未知の才能を求めてサッカーはもちろん野球、ラグビー、バスケにも毒牙を伸ばしている。著書は未だにないが、そのうち出すはず。