浦和か、G大阪か。それとも……? 2014年の天運はいずこにありや?
元サッカーマガジン編集長・北條聡が、リーグのクライマックスを大胆に予測する。
▼戦(いくさ)に勝つ三条件
天の時、地の利、人の和――。
かつてNHKで放送された大河ドラマ『天地人』において、上杉謙信がそんなことを言っていた。戦(いくさ)に勝つための条件だという(そもそもの出典は『孟子』で少し意味も違うのだが)。サッカーにおいても事情は同じかもしれない。いくら地の利や人の和が整っていても、天運に恵まれず、勝機を逸した強者は少なくないのだろう。
強い者が勝つのではない、勝った者が強いのだ――。
ドイツの生んだ偉才フランツ・ベッケンバウアーの後出しジャンケンみたいな名言を思い出すたびに、見えざる力(天の時)を連想してしまう。昨季のJ1リーグでラスト2試合を落とし、玉座からすべり落ちた横浜FMは天の時に恵まれなかった強者の悲劇だろうか。32節を終えて、2位との勝ち点差を2から4に広げながらも、タイトルを逃してしまうのだから、勝負事は分からない。
▼浦和とG大阪の一騎打ちなのか?
では、今季のJ1リーグにおける優勝争いは、どうか――。
数字上では6位・柏まで可能性を残しているものの、個人的にはトップ2の一騎打ちと踏んでいる。つまり浦和とG大阪である。昨季の最終節で劇的な逆転優勝を飾った広島を例に取ると、残り4試合の時点で3位につけ、首位を走る横浜FMとの勝ち点差は3ポイントだった。今季の場合、2位・G大阪が同じ「勝ち点差3」で首位の浦和を追撃している。
3位・鹿島、同勝ち点で4位・川崎Fと首位との勝ち点差は7ポイント。つまり、残り4試合を全勝しても浦和が2勝した時点で逆転Vの可能性がついえる計算だ(G大阪が3勝したケースでも可能性は消える)。
そうした星勘定もさることながら、気がかりなのは例の「天運」、リーグ戦の流れである。30節で鹿島は浦和との直接対決を勝ち切れず、川崎Fは残留争いの渦中にある甲府に痛恨の逆転負けを喫している。
直近の5試合を振り返っても鹿島は1勝2分2敗、川崎Fは1勝1分3敗と雲行きは怪しい。残りのカードをみると、鹿島は前半戦で苦杯をなめた新潟、川崎F、C大阪との対戦が待っている。そのうち、新潟とC大阪とはアウェイ戦だから「地の利」もない。その点、川崎Fは前半戦で敗れた相手は広島だけ。しかも、今度はホーム戦である。もっとも、肝心の鹿島との直接対決はアウェイ戦だ。いずれにしても好調時のクオリティーを取り戻せないのであれば、苦戦はまぬがれないだろう。
▼「0.9」への悪化と勝率5割
前節、鹿島との厄介なアウェイ戦をドローで終えた浦和も、直近の5試合は結果と内容の両面で苦しんでいる。鹿島と同じ1勝2分2敗。1試合平均の勝ち点は1ポイントに留まっている。リーグ再開後の戦績は8勝5分け3敗。勝率は5割である。失点27は相変わらずリーグ最少だが、1試合平均の失点は中断前の「0・64」から「0・9」へ静かに上昇した。勝ち切れない試合が増えてきた一因でもあるだろう。中断前の14試合で計5試合もあった「ウノ・ゼロ」(1-0)も再開後は2試合のみ。ひところの勝負強さが薄れつつある。
それでも浦和が依然としてトップの座にあるのは鹿島や川崎Fといったチームも足並みをそろえたように勝ち点を伸ばせなかったからだ。ならば、浦和の逃げ切りか――。いや、事はそう単純ではないような気がする。例の「天運」に恵まれそうな一団がいるからだ。ほかでもない、G大阪である。リーグ再開後、あれよあれよという間に勝ち点を積み重ね、ライバルたちをゴボウ抜き。破竹の勢いは留まるところを知らない。
▼強者にして勝者の13勝1分2敗
G大阪のリーグ再開後の戦績は実に13勝1分2敗。浦和の勝ち点29を大きく上回る勝ち点40の荒稼ぎだ。そこでふと思い出すのが、2007年の鹿島である。残り16試合を14勝2敗という驚異的なペースで駆け抜け、優勝に王手をかけていた浦和を最終節でまくり、歴史的な逆転優勝を飾った。今季のG大阪は当時の鹿島を彷彿とさせる。直近の5試合も4勝1敗。前述した鹿島、川崎F、浦和のそれとは対照的だ。
興味深いのはディフェンス力である。失点29は浦和に次ぐ数字だ。再開後の16試合について言えば、無失点によるクリーンシートが実に9試合もある。ただし、1-0の僅差勝ちは2試合のみ。残りの11勝はすべて2点以上を奪っての勝利だった。一方、「強者のバロメーター」とも言われる得失点差はリーグトップの24ポイント。看板の攻撃力を維持しながら堅陣を誇っている。まさに「強者にして勝者」である。
▼11・22=天王山
破竹のG大阪が浦和とのアウェイ戦に臨むカード(11月22日の第32節)が天下分け目の決戦、今季最大のキーゲームだろう。地の利は浦和だが、勢い(天の時)はG大阪にある。
一方、そんなG大阪に死角があるとすれば、浦和との天王山を挟んで開催されるナビスコカップ決勝と天皇杯準決勝だ。メンタル、フィジカルのコンディションをどう整えるか、メンバーをどうやりくりするか、長谷川健太監督の手腕が問われるところだろう。ただ、ナビスコカップ決勝後は日本代表戦が行われるため、天王山への備えは意外に難しくない可能性もある。むしろ、問題は天皇杯から中2日で臨む神戸戦ではないか。
ただ幸いにも、遠藤保仁、今野泰幸らのベテランの状態がよく、宇佐美貴史が凄みを増し、倉田秋、阿部浩之ら中堅の働きが目を引き、大森晃太郎ら若手の成長も著しい。最前線で暴れる大砲パトリックを筆頭に攻撃スタッフの充実ぶりは目覚ましい。さらには、控えに回る二川孝広、明神智和ら歴戦の勇者が渋い働きを見せているのも好材料と言っていい。
柏以来となる昇格チームのリーグ制覇が現実味を帯びつつある。逆に、浦和にとってのポジティブな要素を探せば、G大阪を自らの手で葬るチャンスがあることだろう。果たして、「天王山」でライバルの勢いを止められるだろうか。どうも今季のJリーグの気圧配置は各大会で「西高東低」になりそうな予感もするが、果たして……?
北條 聡(ほうじょう・さとし)
1968年生まれ、栃木県出 身。元『週刊サッカーマガジン』編集長。現在はフリーランス。1982年スペイン・ワールドカップを境に無類のプロレス好きからサッカー狂の道を突き進 む。早大卒の1993年に業界入り。以来、サッカー畑一筋である。趣味はプレイ歴10年のWCCF(アーケードゲーム)。著書に『サカマガイズム』(ベー スボール・マガジン社)など。また二宮寿朗氏(フリーライター)との共著『勝つ準備』(実業之日本社)が発売中。