J論 by タグマ!

自分たちのサッカーをするために。蘇れ、今野泰幸!

スピードがあって、カバーリングに優れる今野の重要性は、ここに来て改めてクローズアップされている。

日本代表のW杯は、第1戦を終えて早くも危機的状況にある。毎週、週替わりのテーマで議論を交わす『J論』では、「初戦敗北。ギリシャ戦に向けた日本の採るべき術策は何か?」と題して、第2戦に向けた日本代表の選択肢を探っていく。今回は技術戦術のマエストロ・北健一郎がある男を推す。すべては日本代表が”自分たちのサッカー”を貫くために。


▼”持ってない”男
「持ってる!」

 コートジボワール戦、本田圭佑が左足で豪快にゴールネットを揺らしたとき、日本中がそう思ったに違いない。大会前まで「本田、どうしちゃったの?」というようなパフォーマンスで心配させておきながら、本番にはメンタル的にも肉体的にも、ちゃんと合わせてくる。だからこそ、本田は”持ってる”と言われるのだ。

 その一方で残念ながら”持ってない”と思わされる選手もいる。

“コンちゃん”こと今野泰幸だ。今野はザックジャパンの発足以来、吉田麻也と共に不動のセンターバックとして先発出場を重ねてきた。W杯でもレギュラーは安泰だと思われたが、コートジボワール戦でセンターバックとして先発したのは、森重真人だった。

 今野は前回の南アフリカ大会では、大会前の親善試合までは右サイドバックで先発出場している。だが本番を目前にして負傷してしまい、駒野友一に取って代わられた。今回は4年間の長きにわたってレギュラーを守ってきたのに、一番大事なところでベンチ降格。

 つくづく、持ってない。

 とはいえ、ザッケローニ監督の決断も”やむをえない”という感じもある。今シーズンに入ってからの今野のスランプは、かなり深刻なものだったからだ。もしも、「現時点でのパフォーマンス」のみでW杯の選考が判断されるなら、今野はメンバーからも落選していた確率が高い。

▼陥った完全なスランプ
 専門誌『サッカーマガジンZONE』の第7号において、今野はW杯に向けた抱負を語っている。とはいえ、今野の口から飛び出したのは抱負とは言えないほどの弱気な発言ばかりだった(黙っておけばいいのに、何でも包み隠さずに話してしまうのが、今野の人間らしいところだ)。

「視野が狭くなって遠くのパスコースが見えない……」

「パスを出すときもフェイントをかけていないから簡単に読まれてしまう……」

「自分でもどうしてこうなったのかわからない……」

 完全に重症である。今野がここまでのスランプにハマってしまったのはなぜなのか?

 一つは昨シーズンからガンバ大阪でボランチとして起用されたことが挙げられる。今野はコンサドーレ札幌でもFC東京でも二つのポジションをこなしていた選手だが、ここ数年はセンターバックで固定されつつあった。だが、チーム事情でボランチに再コンバートされ、代表とクラブで異なるポジションでプレーすることになった。

 その昔、今野にある雑誌の企画で「ボールの奪い方」を教えてもらったことがある。彼の答えは拍子抜けするようなものだった。「感覚でやっているから、よくわからないんです」。足の出し方も、間合いの詰め方も、ずっと感覚でやってきたのだという。今野のようなタイプの選手にとって、ポジションが変わることで起こる感覚のズレは、大きなものだったはずだ。

▼日本が押し上げて戦うには……
 もう一つ、今野にとっては不運だったのは遠藤保仁の起用法が変わったことだろう。今野と遠藤はザックジャパンにおいて、ビルドアップの要だった。最終ラインで今野がボールを持ったら、遠藤が近くに寄っていき、短いパスを交換しながら攻撃を組み立てる。ボールを早めに触りたい遠藤と、シンプルにパスをつなぐ今野の相性は最高だった。

 しかし、昨年のコンフェデ以降、ザッケローニ監督は遠藤を”スーパーサブ”として起用するようになっていく。代わりに起用されたのは山口蛍や青山敏弘という遠藤とは全く違うタイプの選手。ビルドアップにおいても、ボランチに短いパスをつなぐよりも、1トップやトップ下へ長いパスを出すことが求められるようになった。

 だが、いなくなってわかることもある。吉田&森重のコンビで臨んだコートジボワール戦では、90分間を通じて押し込まれ、高い位置からボールを奪いに行く”自分たちのサッカー”ができなかった(もちろん、二人だけの責任ではないが)。高い位置から奪いに行くには、ディフェンスラインを積極的に押し上げなければいけない。スピードがあって、カバーリングに優れる今野の重要性は、ここに来て改めてクローズアップされている。

 ここまできたら持ってないとか、スランプだとか言っている場合ではない。日本が”自分たちのサッカー”をするために、やっぱりコンちゃんの力が必要だ。