後半戦に向けての談話:河端和哉【ラインメール青森FC通信】
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今回はWEBマガジン「川本梅花 フットボールタクティクス」からの記事になります。
【ラインメール青森FC通信】後半戦に向けての談話:河端和哉(川本梅花 フットボールタクティクス)
2017年07月16日更新
第19回日本フットボールリーグ、セカンドステージ第2節が7月15日に行われた。同月8日に行われた2ndステージ第1節・ヴィアティン三重戦はスコアレスドロー。第2節・FCマルヤス岡崎戦は4点をリードして圧勝かと思われたが、最終的には3点を返されて4-3で辛くも逃げ切った。2ndステージ初勝利を飾ったラインメール青森FCは、ファーストステージから数えて16試合負けなしと記録を伸ばした。
FCマルヤス岡崎戦で4得点を奪ったラインメール。この大量得点は、偶然の産物ではない。1試合に2得点以上できる、攻撃力の高いチーム作りにシフトチェンジした結果がもたらしたものだ。それは、まだ進化の途中なのかもしれないが、明確な意図を持って取り組まれている。
そこで「なぜ、ラインメール青森は負けないのか?」をテーマに、2人の選手に話をうかがった。今回は2人目、ディフェンスの要である河端和哉選手の言葉を届けよう。とても興味深い話が語られている。
なお、2ndステージ第2節の試合結果は以下の通りである。
2017年7月15日(土)17:00キックオフ
FCマルヤス岡崎 3-4 ラインメール青森FC
試合会場:名古屋市港サッカー場
http://www.jfl.or.jp/jfl-pc/pdf/2017A003/2017A0031713.pdf
後半戦に向けての談話:河端和哉
――ラインメールは、年間順位4位という目標を設けています。
河端 1年を通して年間4位というのが目標なんですけど、昨季の2ndステージでチームが勝っていた時とは違って、今季の1stステージの順位は……なんて言うか……4位に価する4位だと思います。
――昨季の2ndステージ後半と今季の1stステージの違いは、どこにあるのでしょうか?
河端 昨季の後半に勝っていたのは、僕の個人的な意見ですが、試合になんとなく「勝ってしまっていた」という印象なんです。今季に関しては、「意図として勝てた」と言えます。自分たちがやりたい、やろうとしていることに取り組んだ結果、(16試合負けなしという)この成績になっている。言い方が変かもしれないんですが、「正当に勝っている」という感じですね。
――「意図して勝てた」というのは、トレーニングで落とし込んだことが試合に反映され、それで負けないサッカーができている、ということですね。
キッカケになった試合はありますか?
河端「チームとしてこのままの戦い方では、上位チームとの対戦がこれから厳しいよね」と捉えてチームで話し合いになったんです。キッカケとなったその試合は、(1stステージの)ヴィアティン三重戦でした。試合自体は、前半にPKをもらって1-0でうちが勝ったんです。うちは何もさせてもらえず、三重にボールを持たれて、ほとんど引いて守る状態だったんです。守備もうまくはまらなくて。三重戦の後で、「これじゃあ厳しいよね」となって、「じゃあどうしようか」という話になりました。まあ、守備に関してですね、試合中に問題になったことがあって、そこはゲームの中で話し合いをして解決したんです。
――「これじゃあ厳しいよね」とは、具体的にどこを指していますか?
河端 三重戦のような戦い方だと、昨季と一緒じゃないけど、上位チームとやっても勝てない。相手に1点取られれば、勝ちはほぼ見込めない。「じゃあどうする?」となった時に、「前からボールを奪いに行きましょう」と話し合いになりました。シャドーの選手の位置が問題で、シャドーの中村太一の位置が少し低すぎたんですよ。
――ラインメールの基本システムは「3-6-1」ですよね。1トップの下に2人のシャドーストライカーがいる。その2人のシャドーが下がりすぎる、ということですね。だから、前線からのプレスが掛からない。したがって、守備はラインを下げて守らざるを得ない。そういうことですね。
河端 はい、そうです。上位チームと対戦していけば、当然、相手が強くなっていく。そうした中で、もっと前から行かないとならない。攻撃の際にうちが狙っている、ペナ(ペナルティエリア)の横のイエローゾーンをもっと利用したい。そのためにも、前の選手が相手DFにプレスに行かないとダメなんです。うちがボールを持つ時間を長くして戦わないといけない。そこで、「じゃあどうするの?」となった時に、「ディフェンスラインを上げましょう」となりました。
普通は……、僕はずっとDFをやってきて思うのは……。普通は、ハイラインじゃないけど、ある程度高いラインを保って、走ってきた相手選手をオフサイドに掛ける、あるいは裏のスペースをある程度空けるやり方を取る戦術をやる時は前の選手が相手にプレッシャーを掛けないとならないんです。それが、ラインを高く保つ戦術の前提なんです。
――チームの守備戦術は、味方の前線の選手が相手の最後尾の選手にどこまでプレスを掛けるのかで決まります。GKまで戻されたボールを追いかけるFWもいれば、ボールを持った相手DFにプレスに行かないでパスコースを切る守備をするFWもいます。そうした守備戦術は、いずれにせよ、味方の前線の選手がどこまでボールを追いかけるのかで決まります。
河端 うちは、なんて言うか、逆と言えばいいのかな。「まずラインを上げましょう」というところから始めたんです。チームが前で得点を取るために、後ろが負担を背負ってもっとラインを上げましょう、と。そういう形ですね。
――前線の選手の守備意識が低いというか、前線の選手の経験の中で、これまで組織立った守備をやってきた選手がいないのが実情なんですね。ラインを高くした戦い方は、三重戦以降に作られてきたのですか?
河端 そうです。やり始めたという感じですね。
――シャドーストライカーの2人が、相手が後ろでボールを持った時に、どれだけプレッシャーを掛けられるのかも、ラインを高く保つ戦い方のポイントに本来ならなってきますね。
河端 うちの攻撃のポイントは、ワイドなんです。ワイドの選手をいかに高い位置でプレーさせるのか。得点力アップは、そこに掛かっています。分かっていても、実際になかなかやれなかった。うちの課題の1つだったんです。そこで、最終ラインを上げて、逆にシャドーを出す。それによってワイドの選手が高い位置を取れるようになる。先に話したんですが、三重戦の時に、シャドーが低い位置に降りてきた。試合の後のミーティングで、「その状況はもったいないよね」という話から改革が始まったんです。
――FWがチームのファーストディフェンダーだと、普通なら考えますよね。FWがどこまでプレスに行くのかで、最終ラインをどこまで上げるのかに関わる。そう普通は考えます。それを、逆に捉えてやったという感じですかね。
河端 そうです。「やれる」という根拠のない自信がありました。「根拠のない自信」は、トレーニングの中で「根拠のなさ」を消していって、「自信」を作っていくしかない。そうしないと「揺るぎない自信」にならない。練習は、根拠を作るためにやるものなんです。だから、練習を通して根拠が作られていった。話された通り「逆」なんですが、「まずラインを上げましょう」と。そして「前の選手を前に押し出しましょう」という形ですね。
――それは一種の冒険と呼べる作業じゃないですか? 最終ラインを押し上げることで、前線の選手を押し出して相手にプレッシャーを掛けよう、と。
河端 僕が、DFの高橋寛太や近石(哲平)に言うのは、「ラインを上げてリスクになることはたくさんある。でもそのリスクよりも、うちにとってプラスになることの方が大きいんだよ」と。1試合で、確実に裏を取られる場面は、1本か2本はある。裏を取られてGKと一対一になって、点数を取られることは1回あるかないかなんです。そう考えると、ラインを上げた結果、理論上1点は奪われることになるのですが、実際、ラインを上げるチームは、それでも意外と守れたりするんです。
いまは得点を奪われることを怖がるよりも、ボランチなりワイドなりシャドーの選手を前に押し出して、相手を押し込むことの方が、うちにとっては大事なことなんです。三重戦の次の週から、ラインを上げたり下げたりするタイミングを、「あれはダメ」「これはダメ」と、練習の中で話し合いながら、徐々に作っています。
――基本的には、相手がボールを下げたらラインを上げると考えるじゃないですか。そうしたラインの押し上げは、全体のコンパクトさにつながると思うんですが。
河端 正直に言って、中盤の選手、攻撃の選手とDFとの関係性、関連性はほとんどないんです。「後ろが上げましょう」ということなので。ラインを上げるために後ろの選手が前に行くと、相手はどこを狙って攻めてくるのか? サイドの深いところと、DFの裏なんです。そうすると自然と味方の中盤の選手に対する守備がなくなるんです。JFLのチームは、そこを打開できるチームはいない。
――そうすれば、村瀬(勇太)選手なんかは、比較的ボールをフリーで持てるんですね。
河端 村瀬は、自分の得意な位置でプレーできるようになったと思います。ボランチが守備網を抜けて、ペナの中へ行ったりできます。その回数が、すごく増えてきています。
――ああ、面白いですいね。JFLのカテゴリーにいるチームは、打開の策を試合中で、急にはできない。
河端 そうなんですよね。JFLのレベルだと、選手たちの応用力が足りないんですよね。うちとしても、最初は、高橋寛太も近石も、ラインを上げるとか下げるという考えを、混乱して捉えていました。基本的にどんな時に上げ下げするのか。うちはオフサイドを取りに行っているわけではない。無理やりオフサイドを取りに行くことはない。ラインを上げることについての、理解のギャップがすごくあったので、練習で話し合いながら、「ここはこうだったよね」「じゃあこうしてみよう」とすり合わせをしていきました。
時には、ハーフコートのゲームで「無理やりラインを上げてみよう」とかね。「このタイミングはダメだよね」と。実際の試合の中でも、「このタイミングじゃないよね」と。マルヤスと(栃木)ウーヴァFCの試合の時は、すごいズレがあって、裏を相手に突かれたこともあったんです。ソニー(仙台FC)や(ヴァンラーレ)八戸、FC大阪とやった試合は、ラインコントロールのズレは、ほとんどなくなってきていました。試合後の会見で相手の監督は「攻撃は一番できなかった試合」と言っているほどで。FC大阪も「初めてできなかった」と話していました。
――今季移籍してきた高橋選手が試合に使われていますね。
河端 高橋は試合経験が少ないですが、DF間で声を掛ける、DFにとって基本的なことはできる選手です。体も強いので。僕は、高橋にも近石にも言いましたけど、「うちでやっていることは、3バックをやる選手の能力が高いからできるんだよ」と。「もっと自信を持っていいんだよ」と。うちのやり方だと、3バックの能力が低ければ、ラインを下げるしかないんです。前がプレッシャーを掛けていないのに後ろを上げましょう。自分のマークはきちんとやって、なおかつ裏に走ってきた選手には付きましょう。
――守備陣にとっては、なかなかハードな戦術ですね。
河端 このやり方をやっていく中で、FW陣がプレスに行けるようになったんです。普通は、前が行くからラインを上げられるんだけど、うちはFW陣があんまり行けないから。うちは逆をやったことによって、前の選手がプレッシャーに行けるようになった。
――代わりに試合に出た選手が活躍して、選手層が厚くなってきたんですね。
河端 例えば、ジュニーニョは、うちのチームでは「こうしないといけない」と試合に使われないことを理解してきました。「走らないといけない」「球際で戦わなければならない」。それがうちのサッカーだから。そこを理解して、ジュニーニョは、トレーニングの後に走ったりしています。そうした後に、技術や発想が生きてくる。ジュニーニョが試合で絡めてくると、相手のコートでサッカーができるようになってくる。村瀬だけじゃなくて、10番タイプの選手がもう1人いれば攻撃力が増しますよね。相手の逆を突ける選手。
――2ndステージに向けて、どのように取り組んでいきますか?
河端 現状維持のままだと、これ以上勝てない。それははっきりしています。これからは、相手はシンプルに裏を突いてくる。いままでのラインメールなら、「引いてくるぞ」と考えていたチームが、1stステージで1回対戦しているから、ロングボールが増えてくるはず。それの対策のためにも、もっともっと守備の精度を上げないとならない。裏を狙われたから、ラインを下げようじゃなくてね。やっと上位チームと同じレベルで、戦えるチームになりつつあります。僕的には「ガチッ」とかみ合ってきた感じですね。
監督の考えが、チームに浸透しました。今回のシフトチェンジは、タイミングが良かったし、アプローチの仕方も良かったし、持って行き方も良かった。イエローゾーンを取るまでが、うちの課題だったんですが、その場所を取れるようになったことは大きいことです。監督が主体となって、チームに変化が出てきましたね。
――考え方ややり方が逆の発想だったけれどもですね。
河端 ラインを上げる方法論が逆だったんですけどね(笑)。
――面白い話を聞かせてもらって、ありがとうございました。
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