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【六川亨の視点】2024年3月9日 J1リーグ第3節 FC東京vsヴィッセル神戸

J1リーグ第3節 FC東京1(0-0)2神戸
16:03キックオフ 味の素スタジアム 入場者24,974人
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スコアこそ1-2の接戦だったが、神戸の完勝と言える。その立役者は今シーズン、川崎Fから移籍したFW宮代大聖だ。川崎Fでは1トップか左FWで起用され、昨シーズンはチーム2位の8ゴールをマークしたものの、決定機を外すシーンも多かった。そんな宮代を吉田孝行監督は左インサイドハーフで起用した。「負けん気が強いしゴールに向かってプレーできる」と推進力を評価したからだ。その言葉を裏付けるように、前半5分にはCKのこぼれ球から強シュートでハンドを誘発してPKを獲得する。これはFW大迫勇也が大きく外して神戸は先制のチャンスを逃した。しかし後半12分、左FW広瀬陸斗のクロスから値千金の同点弾を打点の高いヘッドで決めた。

広瀬も今シーズン、鹿島から獲得した選手で、本来のポジションは右SBだ。しかし吉田監督は「ボランチでもどこでもできる。周りを見ながらプレーできるので味方を生かせる。(攻撃の)起点、中継役になれるんじゃないかな」と期待して起用した選手だった。宮代は後半25分にドリブル突破からCBエンリケ・トレヴィザンのDOGSOを誘発してFK獲得と同時にレッドカードで数的優位な状況も作り出す。そしてこのFKを、大迫はクロスバーに当てるGK波多野豪には手の施しようがない芸術的なシュートで決勝点を奪った。

敗れたピーター・クラモフスキー監督にとっては、エンリケ・トレヴィザンの退場が誤算だった。この日のベンチには、アキレス腱断裂から復帰した攻撃的右SB中村帆高をはじめ、札幌から移籍したもののケガで出遅れたFW小柏剛、高速ドリブラーの俵積田晃太とジャジャ・シルバら攻撃的な切り札がいた。しかしエンリケ・トレヴィザンの退場によりFWディエゴ・オリヴェイラを下げてCB木本恭生を先に投入せざるを得なかった。それでも最後は中村、小柏、俵積田、ジャジャ・シルバを次々に投入して3トップで反撃を試みた。後半アディショナルタイム45+5分の右CKにはリーグ戦序盤にもかかわらずGK波多野が攻撃参加した。

「ひとつ誇りに思えるのは、選手たちが難しい状況のなかでも自分たちに勝利をもたらそうと必死に最後まで戦ってくれたことです」と指揮官は選手を称えた。決してスペクタクルな試合ではなかった。しかし両チームの選手からは最後まで闘う強い意思が感じられた。そしてピーター・クラモフスキー監督は「今日は我々の日ではなかった」と素直に敗北を認めた。これもサッカーの美しさではないだろうか。

 

 

 

六川亨(ろくかわ・とおる)

東京都板橋区出身。月刊、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任し、W杯、EURO、南米選手権、五輪を取材。2010年にフリーとなり超ワールドサッカーでコラムを長年執筆中。「ストライカー特別講座」(東邦出版)など著書多数。