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【森雅史の視点】2022年5月25日 J1リーグ第15節 鹿島アントラーズvsサガン鳥栖

J1リーグ第15節 鹿島アントラーズ4(0-2)4 サガン鳥栖
19:03キックオフ 県立カシマサッカースタジアム 入場者数6,878人
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派手な打ち合いで見どころたっぷりのゲームだった。

前半は鳥栖の思惑どおり。31分、デザインされたとおりのCKから田代雅也のヘディングシュートが決まって先制点を挙げると、38分、先発に戻ってきた宮代大聖が追加点を挙げて2-0とリードした。さらに49分、小泉慶が狙いすまして3点目を決めて試合を決めたかに見えた。

だが朴一圭が「3点目を取って浮き足立ってしまった」という鳥栖の経験値のなさが出てしまった。そして相手は経験値が最も高いクラブの1つ、鹿島で、ピッチの上で最も落ち着いていたのが鈴木優磨だった。失点から3分後の52分、鈴木が流したボールを樋口雄太が1点を決めるとたちまち追い上げムードになる。68分、切り返しでフリーになった鈴木からの折り返しを上田綺世が綺麗に決めて1点差。

さらに90+2分、鈴木がヘディングで折り返して土居聖真が合わせるとついに同点に。しかも3点差をおいついたからそれでよしとしない鹿島は、そのまま猛攻を続け、90+4分、染野唯月がアルトゥール・カイキのクロスをGKの前で合わせてついに逆転した。

しかし、粘り強さでは鳥栖もJ1屈指だった。90+7分、スキを見逃さずゴールを直接狙った藤田直之のCKをGKが弾くところに田代が頭から突っ込み、残り時間がほぼないところで同点に追いつく。試合終了後、整列のところで興奮冷めやらぬ両チームが言い争うシーンもあったが最後は鈴木が田代と握手をして終わりになった。

好ゲームを演出したのは両チームの指揮官だった。鹿島の同点ゴールを挙げた土居は81分に、逆転ゴールを決めた染野唯月は89分に投入された選手。鹿島のレネ・ヴァイラー監督の交代策はズバリ的中した。そして3点を奪ったあとも守りに徹することなく攻め続けようとした鳥栖の川井健太監督が「上を目ざすなら鹿島の土俵でやり合いながら自分たちの土俵に持っていきたかった」という采配が、手に汗握る試合をつくった。

蛇足を承知で付け加えるならば、この試合で最も素晴らしかったのは観客が作り出す雰囲気だった。怒り、失望、希望、期待、高揚、呆然という空気が両チームの選手にも伝わっていた。試合記録を冷めた目で見れば様々な分析はあるのだろう。ただ、サッカーを育ててくれるあの雰囲気はそこには記載されていない。もしかすると観客にはどちらのチームを応援していたにせよ残念な気持ちは残ったかもしれないが、滅多に味わえない経験だったのは間違いない。その意味で6878人の入場者は幸運だったし、主役の1人だった。

 

 

 

森雅史(もり・まさふみ)
佐賀県有田町生まれ、久留米大学附設高校、上智大学出身。多くのサッカー誌編集に関わり、2009年本格的に独立。日本代表の取材で海外に毎年飛んでおり、2011年にはフリーランスのジャーナリストとしては1人だけ朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の日本戦取材を許された。Jリーグ公認の登録フリーランス記者、日本蹴球合同会社代表。2019年11月より有料WEBマガジン「森マガ」をスタート