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【六川亨の視点】2021年11月3日J1リーグ第34節 川崎フロンターレvs浦和レッズ

J1リーグ第34節 川崎フロンターレ1(1-0)1浦和レッズ
13:07キックオフ 等々力陸上競技場 入場者数11,603人
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2021年のJ1リーグは11月3日の第34節で首位の川崎Fは浦和と1-1で引き分けたが、2位の横浜F・MがG大阪に0-1敗れたため勝点差が13に広がり(川崎F85、横浜FM72)、残り4試合で横浜F・Mが全勝しても首位に届かないため、川崎Fの2年ぶり4回目の優勝が決まった。

引き分けながら優勝を知った選手たちに、爆発するような喜びはなかった。そしてそれはスタンドを埋めたサポーターも同じだった。シーズン中に三笘薫と田中碧の主力2人が抜けても川崎Fの強さは盤石だった。優勝するのは「当然」と思っていただろうし、時間の問題でもあった。

17年に監督に就任した鬼木達氏は5年でリーグ優勝4回、天皇杯優勝1回、ルヴァン杯優勝1回と全てのタイトルを獲得し、今シーズンも天皇杯との2冠の可能性を残している。もちろんリーグ制覇4度は新記録であり、「名将」と言う他ない。

そんな川崎Fに対し、浦和もできる限りの抵抗をしたと思う。チームの完成度の違いから、川崎にボールを握られるのは仕方がない。それはどのチームの監督も思っているはずだ。それでもボール保持者にはプレスをかけに行くが、1タッチのパスの連続で剥がされてしまい決定的なシーンを作られてしまう。それが川崎Fに屈したチームの常だった。

しかしこの日の浦和は関根貴大や汰木康也らサイドの選手が前線からのプレスの際は球際での争いに粘ると同時に、同サイドのスペースでは密集地帯を作って川崎Fの1タッチのパスを封じた。運動量はもちろん、素早い判断で対抗していた。

もう1つ「なるほど」と思ったのが開始直後の酒井宏樹のプレーだ。マルシーニョに突破を許し、右サイドの深くまでフリーで侵入を許した。追いつけないと判断した酒井はペナルティエリア内角あたりのスペースにポジションを取った。ゴール前には岩波拓也とアレクサンダー・ショルツがいる。このためマイナスのクロスに備えてスペースを消したのだろう。ベテランらしい判断だった。

後半も何度か左サイドを家長昭博と山根視来、脇坂泰斗らに突破されたが、慌てることなく中央で跳ね返した。そこから推測するに、「サイドを崩されるのは仕方がない。しかし必ず中で競ってフリーでシュートは打たせない」といった割り切り方、暗黙の了解があったのではないだろうか。

試合後のリカルド・ロドリゲス監督は「前半は難しい展開になってしまった。ボールを持ちながら相手陣内に行く回数が少なく、時間も短くなった」と話したが、それは浦和に限ったことではないし、ロドリゲス監督にとっても想定内のはず。そこで川崎Fを相手にどうしたら勝機をつかめるかが指揮官にとって問題になる。

攻撃に関しては、浦和はキャスパー・ユンカーを欠き、トップ下の小泉佳穂も本調子ではなかった。しかし1トップの江坂任への、ジェジエウと谷口彰俉のCB間を狙ったスルーパスは効果的だった。江坂が上手くトラップしていればフィニッシュに持ち込めただろう。

王者の川崎Fが戴冠した試合だったが、王者を倒すヒントを提示した浦和の戦いぶりでもあった気がしてならない。

 

 

 

六川亨(ろくかわ・とおる)

東京都板橋区出身。月刊、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任し、W杯、EURO、南米選手権、五輪を取材。2010年にフリーとなり超ワールドサッカーでコラムを長年執筆中。「ストライカー特別講座」(東邦出版)など著書多数。