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【六川亨の視点】2021年5月16日 J1リーグ第14節 川崎フロンターレvs北海道コンサドーレ札幌

J1リーグ第14節 川崎フロンターレ2(0-0)0北海道コンサドーレ札幌
15:03キックオフ 等々力陸上競技場 入場者数4,932人
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今シーズンのJ1リーグは川崎Fの連覇で終わる可能性が高いだろう。このためどのチームが川崎Fから初勝利を奪うかに注目が集まっても不思議ではない。

昨シーズンの川崎Fは第12節で名古屋に0-1と敗れて無敗記録がストップした。しかし今シーズンの第12節(5月4日)と22節(4月29日)で川崎Fと対戦した名古屋は2-3、0-4と完敗した。

ということで第14節の相手である札幌戦は、昨シーズンはアウェーで6-1と大勝したものの、ホームでは0-2で敗れた。川崎Fが複数失点したのはこの札幌戦と、ルヴァンカップ準決勝のFC東京戦(0-2)だけである。

両チームの選手個々のクオリティ、選手層では明らかに川崎Fの方が上だろう。しかし札幌にはペトロヴィッチ監督という“策士”がいる。それが札幌唯一のアドバンテージのはずだ。

実際、前半の札幌はボールを支配して川崎Fに1度も決定機を与えなかった。マイボールになると、川崎Fの前線からのプレスを恐れずにパスを回した。GK菅野のキックから始まるビルドアップはDF陣でボールを保持しつつ、ボランチやサイドの選手を経由して川崎F陣内へ攻め込んだ。

なかなかフィニッシュまで持ち込めずバックパスも多かった。時には再びGK菅野まで戻ることもあったが、それが“ミシャ”の流儀でもある。少なくともマイボールにしておけば失点の危機はないし、0-0のまま時計の針を進められる。

守備では昨シーズンのアウェーで奏功したマンマークを徹底することで、川崎Fが得意とするワンタッチパスを封じた。三笘には簡単に飛び込まず、複数の選手が揃ってからアタックに行くなど対策も万全だった。

誤算だったのは、ベンチスタートだった田中碧を鬼木監督は後半開始から起用したことだ。そして後半4分、田中碧のタテパスからレアンドロ・ダミアン、家長とつなぎ、家長がクロス。これをゴール前の旗手が触り、最後はフリーの三笘が押し込んだ。

さて、ここからペトロヴィッチ監督はどんな手を打つのか楽しみにしたのだが、結果から言うと期待を裏切られた。交代で荒野をボランチに、青木を右MFに起用しつつ、190センチのジェイ、188センチのドウグラス・オリヴェイラを前線に送り込んだ。

こうなれば、やることはただ1つ。ハイクロスによる攻撃だ。シンプルだが劣勢のチームの専売特許と言ってもいい。ところが札幌の選手は、それまでと同様に“地上戦”にこだわった。クロスを上げるかと思ったら、前半と同じようにパスをつなぐ。

時々クロスが入ったものの、191センチのGKチョン・ソンリョンにキャッチされるか186センチのCBジェジエウ、183センチのボランチであるジョアン・シミッチに跳ね返されていた。

これは前半から感じていたのだが、札幌はパスを回しても、どうやって川崎Fのゴールをこじ開けるかという方程式の回答にはたどり着いてはいないようだ。この日のスタメンなら、狙うとすればCB谷口ではないだろうか。前述したようにGKチョン・ソンリョンとジェジエウ、ジョアン・シミッチとマッチアップしても分が悪い。

そこでパワープレーを仕掛けるなら183センチの谷口ということになる。ジェイとマッチアップさせ、サイドの選手は谷口と競るようなクロスを徹底する。そのこぼれ球にアンデルソン・ロペスやドウグラス・オリヴェイラが絡むという包囲網だ。

これは前半から徹底してもよかったし、今シーズン3試合目の出場となる小塚にボールが集まるような守備をして、彼からボールを奪ってショートカウンターという手もあったのではないか。ただ、彼のスタメンはペトロヴィッチ監督も予想外だっただろうから難しかったかもしれない。

5枚の交代カードをしっかり使い、アディショナルタイムには小林が追加点を決めるなど、盤石の試合で勝点を伸ばした川崎F。GWから始まった5連戦も終わってみれば4勝1分けと難なく乗り切ってしまった強さには呆れるばかりだ。

 

 

六川亨(ろくかわ・とおる)

東京都板橋区出身。月刊、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任し、W杯、EURO、南米選手権、五輪を取材。2010年にフリーとなり超ワールドサッカーでコラムを長年執筆中。「ストライカー特別講座」(東邦出版)など著書多数。