J論 by タグマ!

村上アシシが宇都宮徹壱に個人メディアの極意をコンサルしてみた

今は個人メディアで、経費が多くかかる取材も個人で対応できるような環境づくりというものを、ここ5年くらい模索している

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経営コンサルタントを本業としながらも、サッカー日本代表とコンサドーレの熱烈なサポーターとして各種メディアで積極的に情報発信を行っている村上アシシ氏。今回、J論ではアシシ氏独特のサポーター視点、経営コンサルタント視点で日本サッカー界を盛り上げる方法を探る対談企画をスタート。5回目の対談相手は写真家・ノンフィクションライターの宇都宮徹壱氏。後編は宇都宮氏が現在注力している個人メディアを題材にバズらせる極意について議論を行った。(前編「日本サッカー界には天変地異が必要? 宇都宮徹壱が語るサッカーメディアの現状と未来」)

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▼ニッチを取材するのが自分の役割

アシシ:インタビューの後半では、宇都宮さんの個人メディア「宇都宮徹壱ウェブマガジン」の今後について、僕がサポーター視点とかコンサル視点でいろいろ提言してみたいなと。

宇都宮:ぜひお願いします。

アシシ:メルマガからウェブマガジンに移行して、今は順調ではあるんですか?

宇都宮:半分順調、半分そうじゃないっていう感じですかね。

アシシ:「宇都宮徹壱ウェブマガジン」の記事をいくつか読ませていただいて僕が感じたのは、タイトルにもっとバズワードを入れた方がいいのかなと。

宇都宮:具体的に言うと?

アシシ:例えば「霞が関も注目? 水戸ホーリーホックの成長戦略を探る」というタイトルの記事がありましたが、内容を見るとベトナム人選手のグエン・コン・フォンが登場してたので、タイトルに「ベトナムのメッシ」を入れた方がより人の目を引くかなと。ホーリーホックという単語よりも、メッシの方が知名度高いのは自明ですよね。代替案を出すとすると、「ベトナムのメッシがアジア戦略のカギとなる」みたいなタイトルだともっと広い読者層にフックがかかりそうだなと。

宇都宮:それ、おっしゃる通りだと思います。私はベトナムのメッシ、グエン・コン・フオンに何度かインタビューしているし、水戸が企画したベトナム人ツアーの取材もしているので、すでに「ベトナムのメッシ」というフレーズは消化しきれてしまっていて、これが刺さるとは思えなかったんですよね。でもアシシさんの意見を聞くと、確かになるほどなとも思う。たぶん他のコンテンツに言えると思うんだけど、自分が関心を持ってやっていることと一般サッカーファンとの認識っていうのは、けっこうズレがあるというのは認識しています。その認識のズレを面白がる人もいる一方で、かすりもしない人もいるわけで、難しい課題です。

アシシ:宇都宮さんは、けっこうニッチなところに行くじゃないですか。例えば、鹿児島の取材記事をあげた時に、鹿児島って今J3だっけ?JFLだっけ? と僕みたいなJ1とJ2しか見てない人は思うわけです。僕は一般読者の中でも、それなりにサッカー詳しい方だと思いますが、それでもJ3以下、JFLとか地域リーグとかになるとほとんどわからない。宇都宮さんのニッチなところに行って取材したいという熱い思いと、僕ら読者の知識との間に、大きなギャップがあるかなとは正直思います。

宇都宮:日本代表の取材ぐらいが、唯一ニッチじゃないものでしょうね。とはいえ、宇都宮徹壱が香川真司の話を書いても浦和レッズの取材をしても、そんなに面白くなるとは思えないんですよ。すでに専門家がいるわけだから、その人に任せたほうがいい。確かにニッチに行きすぎると、ファンが増やせないというのはおっしゃる通り。でも、ニッチなものを取材して出している私が書いたものを求めている読者も一定数いる。自分の役割というんですかね、それもあってバランスというのは常に毎回苦労しています。

アシシ:あと1つ思ったのは、各Jクラブのマスコットの企画を増やしたら面白いかなと思います。マスコットのインタビューとかやらないんですか?

宇都宮:昔やっていた有料メルマガ「徹マガ」で2013年に一平くんのインタビューをしたですけどね。あれは本邦初の試みであり、けっこう評判良かったんですよ。マスコットに関しては、もっとやりたいんだけど、けっこうクラブ側のガードが固いんですよね。例えば、デザインの経緯が知りたいとかは駄目だし、ましてや中の人がどうこうなんて、トップシークレットだから。「中の人情報」は結構持っているんですけれど、どれも飲み会の席でしか出せない(笑)。だから意外とマスコットを取り上げるのって難しいんですよ。

アシシ:ゼロックス杯でマスコットが集結した時に、宇都宮さんはNHKのスポーツ番組に出て解説していましたよね。マスコットと言えば宇都宮さんみたいなのが出来上がれば、全クラブのマスコットインタビュー敢行とか面白そうです。全国行脚みたいな感じで。

宇都宮: ウェブ版「サッカーダイジェスト」のマスコットを批評する連載があったんですが、この間終わっちゃったんですよね。ただマスコットについては、もうちょっとアプローチの仕方を考えたいとは思っています。

▼Yahoo!個人をうまく使いこなそう

アシシ:「宇都宮徹壱ウェブマガジン」で1つ提案なんですけど、この前掲載された僕へのミニインタビュー「なぜプロサポーターは炎上するのか」という無料公開記事がかなり拡散されましたよね。

宇都宮:あれはすごかったですね。

アシシ:タイトルが良かったと思います。僕は数カ月前にプロサポーター宣言しましたが、そんなの知らない人からすると、プロのサポーターってなんだよ! とフックがかかって、賛否両論のリアクションが多数出てきました。あれをもっと掘り下げて、今度ウェブマガジンで僕に炎上対策などのノウハウを聞くインタビューをすると、更にバズるかもしれません。

宇都宮:正直、アシシさんにはいずれちゃんとお話をお聞きしたいなと思っているんですよ。でもやっぱり、タイミングじゃないですか。今考えているのは、年内のワールドカップ最終予選が終わった時かなとは思っているんですが。

アシシ:あと思うのは、「宇都宮徹壱ウェブマガジン」の有料記事はやはり敷居が高いというか、一番の難点がバズらない点ですよね。どんなに良い記事でも拡散ができない。そこで提案したいのが、宇都宮さんってYahoo!個人のオーサーですよね。ウェブマガジンの良記事をYahoo!個人に転載すると、ものによってはバズりますよ。

宇都宮:転載って、逆に現在の読者に対して不誠実さに映るんじゃないのかなって躊躇しているところがあって。

アシシ:無料公開の記事でやればいいんです。Yahoo!個人は転載がOKな媒体です。実際に僕はこのJ論で永里優季のインタビュー記事を前編後編に分けてあげたんですけど、そのうち後編の方が「ぶっちゃけサッカーやめようと思った」という発言とか、離婚の理由にも言及してもらったので、それをタイトルにぶっこんでYahoo!個人に転載したら、めっちゃバズりました。

宇都宮:どれくらいバズったんですか?

アシシ:正確なPV数はYahoo!のルールで言えないんですが、J論の元記事の何十倍ですね。特に検索流入が桁違いです。Yahoo!はインターネット界で言うと、銀座の大通りなんですよ。そこに置くだけでたくさんの人に読んでもらえる。そして、記事の最後に前編読みたい人はこちら、と書いて元のJ論のリンクを貼る。そうすると、オリジナルの記事に対する流入も見込めます。

宇都宮:そこは今日一番参考になりましたね。転載とか、使い分けというところが。リソースに限りがある中で、それをどう上手く回していくか、どう拡散していくか、どう新たな読者をつかんでいくかというのはずっと課題でしたから。

アシシ:ひとりでも多くの人に読んでもらいたいというのは当然あるわけですよね。そういう意味で売り方とか露出方法の向上というのは、有料記事だからこそ手間をかけてやるべきです。いちコンサルタントとしての提言です(笑)。

▼自分の取材費は自分で稼ぐ時代へ

アシシ:最後になりますが、今後のサッカーメディア、インターネットメディアはこうなっていく、自分でこうしていきたい、といったような抱負があれば。

宇都宮:ここ5、6年ぐらい考えていることですが、フリーのライターなりジャーナリストなり写真家がもっと自立できるような環境にしていく必要があるなと思っています。自立というのは、フリーランスとしてもそうだし、インタビューの前半で述べた「代表がワールドカップに出場できなくなる時代」という外的環境も含めて、自分の食い扶持と取材費を稼げていくような環境の仕組み作りというのを目指していきたいというのが、まずあります。僕がフリーになりたての頃の90年代の終わりくらいは、雑誌社が取材費を持ってくれて海外に行けたわけです。「NumberPLUS」でもイタリアに行かせてもらったし、今はなき「SPORTS Yeah!」でオランダのアヤックスで育成を取材に行ったのが2002年。その時のアヤックスには、20歳のスラタン・イブラヒモビッチがいたりしたわけですよ。そういう経費が出る海外取材ができた時代なんて、今ではほとんど聞かなくなりましたよね。

アシシ:そんなバブリーな時代があったんですね。

宇都宮:今は個人メディアで、経費が多くかかる取材も個人で対応できるような環境づくりというものを、ここ5年くらい模索しているわけです。ただし道は険しい。実際、ひとりで何本もメルマガやウェブマガジンを登録できないですからね。でも現実問題として、紙メディアが取材費を出してくれる時代ではなくなったし、ネットメディアにそれが可能になるかと言えばまだまだ厳しいと思う。そうした中で、これだけ増えたサッカーライターが生きていくにはどうしたらいいかなと。私自身、20年もこの業界で食べさせてもらっているので、自分がやってきたことが少しでも若い同業者の皆さんの参考になるようなものにしていきたいという思いはあります。

アシシ:サッカー界のライターの中で、個人の有料ウェブ媒体を立ち上げて、それを軸に食ってきている人は宇都宮さんがある意味パイオニアなわけですよね。その界隈の第一人者としてそのノウハウを有料記事にすると面白そうです。

宇都宮:それを軸に食えてはいけませんけどね(笑)。他にいろんなビジネスをするような、アシシさんのような才覚があればいいけれども、僕はもっぱら表現者だと思っているので、ここからますます覚悟を持ってやらないといけないなと思っています。だから良くも悪くも、まだまだ走り続けないといけないなと感じますね。

アシシ:その長年の取材体験を元に、何かさらに価値が見い出せるビジネスに展開できれば面白そうですけどね。

宇都宮:個人メディアを続けてきて感じるのは、取材で人に会う機会が格段に増えて、人的ネットワークがかなり広がったことですよね。サッカー界って、狭いようでいろんな仕事をしている人がいて、人的資源はすごく豊富だと思うんです。そうしたものを上手くつなげることで、はなはだ微力ではあるけれどサッカー界に何かしら貢献できたらなとは思っています。

アシシ:これからも「宇都宮徹壱ウェブマガジン」の記事、期待しています。あと、僕のインタビュー記事も(笑)。

宇都宮:アシシさんが海外遠征から帰国したら連絡しますね。

アシシ:よろしくお願いします。今日はありがとうございました。

村上アシシ

1977 年札幌生まれ。職業は経営コンサルタント・著述家。外資系コンサルティング企業・アクセンチュアを2006年に退職し、個人コンサルタントとして独立して 以降、『半年仕事・半年旅人』のライフスタイルを継続中。南アW杯出場32カ国を歴訪した世界一蹴の旅を2010年に完遂。Jリーグでは北海道コンサドー レ札幌のサポーター兼個人スポンサー。

ウェブサイト:http://atsushi2010.com/
ツイッター:https://twitter.com/4JPN
近著:海外旅行のノウハウ本『ロジ旅