捲土重来。”チームになった”遅咲きの桜が、3位・福岡に挑む雪辱の舞台
大熊監督がもたらした変化と決勝の勝算についてC大阪の番記者・小田尚史氏が迫った。
▼大熊清新監督によるテコ入れ
毎年話題には事欠かないC大阪。2015年もいろいろなことがあった。希望にあふれた南野拓実を関西国際空港で見送った1月から始まった2015年は、アジアカップで韓国代表の正守護神として戦うキム・ジンヒョンに感慨を覚え、宮崎キャンプではカカウ”強制送還”事件もあった。
シーズンが始まればフォルランが得点を量産。夏にはそのフォルランとサラゴサ移籍が決定した長谷川アーリアジャスールを2週連続で送り出した。チームの根幹を担っていた二人が離れたことでチームを構築し直すことにはなるが、玉田圭司と田代有三が得点を重ねた夏場は強かった。
7月はジュビロ磐田を敵地で下し、8月から9月にかけては首位の大宮アルディージャ撃破を含む4連勝。一時は自動昇格圏の2位と勝ち点1差まで迫った。ところが一転して10月以降は急失速。最終節を前に監督交代の劇薬を投入せざるを得ない状況まで追い込まれた上に、最終的には2位の磐田、3位の福岡と勝ち点15差の4位でシーズンを終えた。
この波の大きさはC大阪の歴史そのものでもあるが、紆余曲折がありながらもたどり着いたJ1昇格プレーオフの舞台。C大阪としては初出場となるこの大会を勝ち抜けば、”1年でのJ1復帰”という目標を達成することができる。
準決勝の愛媛戦は、ちょうど1年前、鹿島に敗れてJ2降格の憂き目にあった11月29日。「ここで負けたら、またしばらく立ち直れないな」との思いも抱きつつ、愛媛戦を迎えるまでの1週間の練習場の空気からは、そんなネガティブな気持ちを上回る期待感に満ちていたことも事実だ。
熱血漢の大熊清新監督は、褒めるときは褒め、締めるところは締める。パウロ・アウトゥオリ前体制下での終盤は思うように取れていなかった意思疎通がスムーズに図られ、目に見えて活気も生まれてきた。「球際と走力」を第一に訴える新指揮官の下、愛媛戦では、「一人が抜かれても、もう一人がカバーする」(橋本英郎)粘り強い守備で失点もまぬがれた。「おかしな話ですけど、ここに来てようやく”チーム”になった感覚がある」。愛媛との試合後、橋本はそう語った。
▼福岡に借りを返す絶好機
レギュレーションにより準決勝を0-0で”勝ち抜け”ると、決勝の相手は福岡に決まった。現在J2で最も強いこの難敵を打ち破ることは容易ではないが、対戦相手としては、願ったりかなったりでもある。というのも、福岡には大きな借りがあるからだ。今季2敗している事実はもちろん、特に2戦目となった第35節の一戦(0●1)は、今季の分岐点となった。
この試合を迎えるまで、C大阪は福岡を勝ち点1上回っていたのだが、この試合に勝利した福岡が最終的に8連勝でシーズンを終えた一方、C大阪は一気に突き放された。両チームの運命が交錯した一戦。人生に「if」はないが、今季やり直せるとしたらこの試合。バヒド・ハリルホジッチ日本代表監督は、ホームで戦いスコアレスドローに終わったW杯アジア2次予選のシンガポール戦について、「ずっと胸につかえていた」とアウェイでの再戦を前に語っていたようだが、C大阪に関わる人々にとっての「モヤモヤ」はこの福岡戦だ。試合を迎える準備期間に、アウトゥオリ前監督の判断で関口訓充が紅白戦のサブ組からも外れ、けがから復帰した玉田もベンチに入らなかった。試合自体はそこまで悪い内容ではなかったが、”決戦”に挑む準備に消化不良の感は否めなかった。
決勝の舞台はヤンマースタジアム長居。シーズン3位チームが大阪まで遠征し、4位チームが普段使用しているスタジアムで決戦を迎えることに対する議論はこの場では割愛するが、C大阪側の視点に立てば、同じ場所、同じ相手に、今季の分岐点となった試合をやり直すことができる。
今こそ、リベンジの時。敗れて同一シーズン3連敗となれば、そのときはキッパリとあきらめもつく。泣いても笑っても今季最後の試合。J1昇格プレーオフ決勝に向けた1週間。C大阪は、謙虚に熱く、抜かりなく準備するのみだ。
小田尚史
1980年生まれ。関西大学社会学部卒。番組制作会社勤務などを経て、09年よりサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』のC大阪、徳島ヴォルティスの担当記者としてサッカーライター業を始める。14年よりC大阪専属となる。