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俊輔復活で4連勝のトリコロール、その真贋は「数字」が物語る

セカンドステージの順位は6位ながら、目下4連勝で好調な横浜F・マリノスにフォーカス。チームを追い続ける藤井雅彦が好調の要因に迫った。

明治安田生命J1リーグ・セカンドステージは17試合中9試合を消化したところで、日本代表のW杯予選による中断期間に突入した。順位表に目を移すとファーストステージでは低迷していたチームが上位に名を連ねるなど、2ステージ制特有の現象も起きている。反攻の要因は何か。第2回はセカンドステージの順位は6位ながら、目下4連勝で好調な横浜F・マリノスにフォーカス。チームを追い続ける藤井雅彦が好調の要因に迫った。

▼選手Aと選手Bの稼働率
 今季の横浜FMを語る上で切っても切り離せないのが『数字』だ。昨今のJリーグではトラッキングシステムが特に注目を集めているが、実際のところは一つの目安でしかない。走行距離やスプリント回数は物差しになっても、それがすべてを物語るわけではないからだ。

 その点で、以下に記す数字はより「実」のあるものと言えるのではないか。この数字だけで選手名を言い当てることができたら、相当に熱狂的な横浜FMサポーターだ。ファーストステージの出場記録である。

・選手A:出場3試合48分0得点(途中出場のみ)
・選手B:出場5試合185分0得点(うち先発2試合)

 ちなみに計17試合の総時間は1530分で、チームでフルタイム出場を果たしているのは、中澤佑二と下平匠の2名のみ。両選手はセカンドステージ第9節終了時点でもフルタイム出場を続けている。前者は37歳のベテランだが、誰もが認める守備の要。後者は左利きの左SBとして確固たる地位を築いており、負傷や警告が少ないという長所もある。いずれもDFのため、アクシデントを除いて試合途中でベンチに下がる可能性は低い。

 対して選手Aと選手Bはいずれも攻撃的な選手だ。正解は、選手Aが中村俊輔、選手Bはラフィーニャである。

 中村は2月の宮崎キャンプ中に左足首痛を訴え、手術に踏み切った。昨季以前にも痛みがあった関節内遊離体、通称=ねずみが原因で、これ以上の我慢は難しかった。4月下旬に復帰したものの、その後に右太もも裏肉離れで再び離脱。残念ながらファーストステージはチームの力になれなかった。

 もう一人のラフィーニャは、さまざまな箇所のアクシデントで離脱と復帰を繰り返した。一時はエリク・モンバエルツ監督が「ラフィーニャはまた離脱しました」と自らメディアに切り出し、笑って首を傾げるような状態。昨夏に加入したストライカーも、ほとんど稼働できずに期待を裏切ってしまった。

▼ファーストステージ低迷の原因
 本来、彼らは攻撃の核になるべき存在だった。中村はプレシーズンの段階でトップ下として指揮官の信頼を勝ち取り、ラフィーニャも1トップの有力候補として起用する方針でいた。しかし、実際には両者の同時先発は8月12日のセカンドステージ第6節・名古屋戦まで待たなければならなかった。開幕から5カ月以上、実にリーグ戦23試合目での”初共演”である。

 その名古屋戦から先日の浦和戦まで今季2度目の4連勝に成功したのは決して偶然ではない。ラフィーニャは名古屋戦で1アシストを記録すると、続く甲府戦で1ゴール1アシストと本領発揮する。甲府戦後の練習で左太もも前を痛めて無念の再離脱となったが、次節の新潟戦に照準を合わせて調整している。

 中村は名古屋戦と甲府戦に2連勝してからの鳥栖戦と浦和戦でポテンシャルを爆発させた。セカンドステージ開幕直後はボランチで起用されていたが、この2試合は「自分の家」と語るトップ下でチャンスを得る。すると鳥栖戦では左CKからファビオの決勝ゴールをアシストし、浦和戦ではあの見事な直接FKを決めた。

 数字についてもう一つ補足すると、今季の横浜FMはセットプレーからの得点がほとんどない。中澤をはじめファビオや栗原勇蔵といったターゲットがいるにもかかわらず、CKやFKを合わせてのゴールは鳥栖戦のファビオが初めてだった。それは中村不在の影響と断言してもいい。”伝家の宝刀”とも形容される唯一無二の武器を持たずに戦っていたようなものなのだ。

▼チーム作りの成否の見極めはまだ早い
 もちろんチームとしての上積みがないわけではない。モンバエルツ監督は攻守の切り替えや強度の高いプレーを選手に求め、そうして台頭したのが運動量に定評のある三門雄大やU-22日本代表に名を連ねる喜田拓也である。彼らは汗をかくことをいとわず、犠牲心を持ってプレーできる。

「自分が走ったことがチームのためになるなら喜んで走る」とは三門の口癖だ。テクニックよりもハードワークに優れた選手たちが重用されているのはフランス人指揮官の特色と言えるだろう。チーム全体にもそういった共通理解が生まれつつあり、ボールを奪ってからの手数をかけない攻撃は精度を高めている。

 その一方で、試合を決める選手が中村やラフィーニャのような寿司ネタで言うところの”大トロ”であることも事実。勝敗を決めるようなスペシャリティーを持った選手は、Jリーグ全体を見渡してもそう多くはない。横浜FMの中でそれを持っているのが中村でありラフィーニャなのだ。誤解を恐れずに言えば、高い年俸を受け取っている選手が当然の活躍を見せた結果の4連勝と言えなくもない。

 チーム作りの正否は残り8試合の結果と、チャンピオンシップ出場やタイトル獲得といった成果次第となる。仮に4連勝が一過性の勢いでしかなければ、トリコロールは今季も中位にとどまってしまうだろう。

藤井雅彦

1983年生まれの横浜市出身。日本ジャーナリスト専門学校を卒業し、2004年からフリーとして活動を開始し、同年10月に創刊されたサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』でプロデビューを飾る。2006年ドイツW杯を現地取材し、帰国後の8月から現在に至るまで横浜FM担当を続けている。WEBマガジン『ヨコハマ・エクスプレス』の責任編集や、『サッカーダイジェスト』で中澤佑二選手の連載を取材・構成するほか、東京スクールオブビジネスの講師として教壇にも立っている。