J論 by タグマ!

G大阪大逆転優勝にまたも見えた「逃げ切れぬ日本人」という弱み

大ベテラン・後藤健生が、今年あらためて見えた「日本の弱点」を指摘する。

12月6日、2014年のJ1リーグは最後の一戦を終え、ガンバ大阪の優勝、大宮アルディージャの降格という結末をもって閉幕した。今週のJ論ではそんなJ1リーグを振り返りつつ、現状のJリーグをあらためて見つめ直す。来季からは2ステージ制が採用され、短期決戦の要素を強めるJ1リーグ。それだけに1シーズン制のラストイヤーで見えてきたものはあるはずだ。続いては大ベテラン・後藤健生が、今年あらためて見えた「日本の弱点」を指摘する。

▼これは浦和の問題にあらず
 優勝を逃した直後の記者会見。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督は最後の頃になって本音を漏らし始めていた。

 ヨーロッパのリーグとの比較について聞かれ、「ヨーロッパだったら、勝ち点5も離していれば、守り切ることができるはず。『レッドカードをもらってでも守って来い』と言いたいところだが、ここは日本だから……」と、愚痴とも言える趣旨の発言が飛び出した。

 第31節を終えた時点でガンバ大阪に勝点5の大差を付けていた浦和レッズが、その直接対決の終盤に2失点して敗れてしまい、さらにサガン鳥栖戦でも後半の追加タイムに追いつかれて首位の座から転落。そして、最終戦では首位に立ったG大阪が最下位の徳島ヴォルティス相手にまさかのゴールレスドローという大失態を犯した。

 つまり、浦和は名古屋グランパスに勝ちさえすれば、再逆転で優勝が転がり込んでくるところだったのだ。そして、実際、浦和はリードして後半を迎えていた。後は、このリードを守り切ればよかったのだ。ところが、そのリードを守り切れずに逆転負けを喫し、浦和は2位に終わった。

 しかし、これは何も浦和レッズに、あるいはペトロヴィッチ監督に限ったことではない。日本のサッカー全体の問題ということになる。

▼20年前から変わらぬ日本の課題
 最終節を前にG大阪は勝ち点で浦和に並んでいたものの、得失点差では大きくリード。つまり、徳島相手にとにかく勝ちさえすれば優勝は確実だったのだ。だが、それなのに、結局勝ちきることはできず、優勝の行方は他力本願となってしまった。浦和が負けたから良かったものの、優勝を逃していたらG大阪は批判にさらされていたはずだ。

 さらに、こちらも優勝の目はあったはずの鹿島アントラーズもサガン鳥栖に敗れてしまう。G大阪が引き分けに終わり、浦和も敗れるという千載一遇のチャンスだったのに、である。つまり、優勝の可能性を残していた上位3チームのいずれも勝利できなかったのだ。

「これがサッカーだ」

 やはり、ペトロヴィッチ監督はこの言葉を口にした。そう、サッカーは番狂わせの多い予想不可能のスポーツだ。大逆転劇はサッカーの醍醐味である(ラグビーでは絶対にありえないことだ)。

 Jリーグはきわめて”民主的なリーグ”である。スペインだったらレアル・マドリードとバルセロナがタイトルを独占する。今季のプレミアリーグはどうやらチェルシーの独走になりそうだ。そして、ブンデスリーガではバイエルン・ミュンヘンの牙城を崩すチームが現われるとは思えない。

 毎年のように最終節まで勝負がもつれるJリーグは、世界の中でも珍しい面白いリーグということになる。

 しかし、こうも毎年のように、終盤のどんでん返しを見せられ続けると何か釈然としないものを感じるのは僕だけではないはずだ。

 どうして、すんなり勝ちきれないのだろう?

 要するに、首位に立ったチームが委縮してしまって自滅する。その繰り返しで首位が入れ替わり続け、たまたま34節目にトップにいたチームが優勝する。それがJリーグなのだ。

 メンタル的に弱すぎる。聞くところによると、浦和のある選手が「同点となったところでベンチからG大阪の試合の途中経過を聞かされ、それで慌ててしまった」と語ったそうである。ベンチとしては、「もう1点取れば優勝だ」と激励の意味で情報を流したはずなのに、逆効果だったということになる。

 まるで高校生である。とても、プロ選手が言う言葉とは思えない。

 ペトロヴィッチ監督は、会見でこんなことも言った。

「リードした後、レッズの選手は怖がってしまった」

 この言葉、僕は随分昔に聞いたことがある。Jリーグの初期の頃にサンフレッチェ広島やヴィッセル神戸で監督を務めたスコットランド人のスチュアート・バクスターという監督が、よく言っていた言葉だ。

「うちの選手は、リードすると普通にプレーできなくなってしまうんだ」

 Jリーグが発足して、もう20年以上が経過した。選手の技術は格段に進歩し、今ではヨーロッパのクラブで活躍する選手がいくらでもいる。戦術のレベルも、20年前とは比べものにならないほど進歩した。試合は、本当に面白くなった。

 だが、「リードするとおかしくなってしまう」メンタルの弱さだけは、20年前とまったく変わっていないようなのである。

 なんとか、早く解決しないといけない……。

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続けており、74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授。