「アジアで勝てない時代」で、Jリーグが勝ちに行くということ
Jリーグ勢に戴冠のチャンスはあるだろうか。あらためて、ACLにおけるJリーグの現在地を考えてみた。
▼追う立場から追われる立場へ
「アジアで勝てない時代になった」
特に昨年から、人によってはもう少し以前から、そんな言葉がサッカー関係者の間で交わされるようになった。
日本のU-16、U-19、U-21、そしてA代表がアジアの公式戦において、いずれも「アジアのベスト8」にて敗退。負け方も、負けた相手もそれぞれ違うのだが、それはかえってアジア全体に対する日本サッカーの地力が相対的に低下していることを印象付けてしまった。
その傾向はナショナルチームだけのものではない。
アジア各国のリーグ上位チームやカップ戦覇者が集うAFCチャンピオンズリーグ。AFC(アジアサッカー連盟)の主催するアジアナンバーワンクラブを決めるこの大会でも、Jリーグ勢は苦戦を余儀なくされている。
2002年に始まったこの大会においては、2007年に浦和レッズが、翌08年にガンバ大阪が優勝を飾っているのだが、今やこの2大会は例外的なケースとして記憶されつつある。09年以降の6大会で、日本のチームが4強に残ったのはわずかに2回。昨年は8強に残ったチームすら一つもなかったが、これも特段に例外的なケースではない。なにせ、09年以降の6大会中3大会は、8強に1チームも勝ち残っていないのだ。
列強に追い付け!追い越せ!と走ってきた日本サッカー界だが、その列強との距離感が縮まらなくなってきた一方で、いつの間にか「アジアからの追撃」を受ける立場となった。その姿は日本という国そのものの現在地とも重なるものがある。
▼勝てなくなった理由
Jリーグ勢がアジアで勝てなくなった理由は、いくつかある。まずは単純にJリーグの資金力が相対的に落ちてしまったことが挙げられるだろう。Jリーグのメインスポンサーは自動車や電機など、かつての日本の花形輸出産業がほとんどを占めている。その凋落の余波は、当然ながらJクラブの懐事情に影響を及ぼし、強力な外国人助っ人の「購入」、あるいは「維持」などにマイナスの作用を及ぼした。
日本の最もメジャーな「助っ人生産国」だったブラジルの経済発展も、こうした現象を加速させている。国内リーグのサラリーが高騰したことは、Jクラブにとってある種の難しさを生んだ。思えば、07年の浦和にしても、08年のG大阪にしても、強力無比なブラジル代表に準じるクラスの選手を抱えていた。だが、そうしたトッププレーヤーはもはや、「高くて買えない」存在になっている。その一方で、若い選手たちの「海外進出」は目覚ましく、Jリーグ各クラブの「戦力」が全体に落ち気味なのは否めない。
そして、近年はオイルマネーを持つ湾岸諸国に加え、中国がその経済発展を背景に、かつての日本のように世界クラスの助っ人選手を集めてアジアのタイトルを獲りに来ている。また東南アジア勢も着実に力をつけてきた。今大会の出場権を懸けたプレーオフで、タイのチョンブリFCがアウェイの不利をものともせずに柏レイソルを土俵際まで追い詰めた姿は、新時代の予兆とも言える光景だった。
▼今季こそ……
だが、「そんな時代」になっているからこそ、Jリーグはこのタイトルを獲りに行く。
かつてのようにスペシャルな助っ人の力に頼ることは、もはやできない。アジアのクラブシーンのクオリティは確実にワンランク上がっている。だが、絶対に勝てないような差が生まれてしまったわけでもない。広大なアジア特有の難しさは当然あるが、その克服のためのノウハウもJクラブは蓄積してきている。
今季、Jリーグによるアジアタイトル奪還へ挑むのは、柏レイソル、ガンバ大阪、浦和レッズ、鹿島アントラーズの4チーム。それぞれがそれぞれの方法論で、このタイトル奪取へ邁進してくれることを期待したいし、その可能性がないとも思わない。
「アジアで勝てない時代」に終止符を打つ。願いと覚悟を込めたJリーグの戦いは、2月24日からアジア各地で幕を上げる。
川端暁彦(かわばた あきひこ)
1979年、大分県生まれ。2002年から育成年代を 中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画し、2010年からは3年にわたって編集長を 務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴ ラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『月刊ローソンチケット』『フットボールチャンネル』『サッカーマガジンZONE』 『Footballista』などに寄稿。近著『Jの新人』(東邦出版)。