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就任後5年で売上が3倍に!? コンサドーレ野々村芳和社長が語るメディア戦略

博報堂と提携したことで各メディアが「忖度」するようになった

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経営コンサルタントとサッカーライター、ふたつの顔を併せ持つ村上アシシ氏が著名人と対談する連載企画「村上アシシのJにアシスト!」。今回のゲストは第1回でお招きした株式会社コンサドーレの代表取締役社長、野々村芳和氏。1年半前に伺った内容を振り返りながら、主にメディア戦略について語ってもらった。

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▼芝の張替えで札幌ドームの開催試合が減ることが懸念点

アシシ:今日はコンサドーレの中長期的な計画や展望について、お話を伺いに来ました。

野々村:何でも聞いて。

アシシ:1年半前に同じくこの社長室で行ったインタビュー内容、覚えてます?

野々村:あんまり覚えていないね。

アシシ:あの時にお話し頂いた内容がこの1年半でことごとく実現しているんですよ。

野々村:そうなの? だいたいその場で思ったことをそのまま喋ってるから、だんだん話す内容が変わっていったりするんだけどね。

アシシ:あの時はまだ次の放映権をDAZNが取る件は表に出ていなかったですし、タイのメッシことチャナティップ・ソングラシンの獲得もまだの状態だったんですが、社長は放映権ビジネスやアジア戦略の展望について、熱く語ってくれたんです。

野々村:たしかにそういった内容を話したような気がする。

アシシ:将来100億円規模のクラブを目指すという中長期的な話もして頂いて、実際、2013年に就任された時の規模が10億円ちょっとで、来季の予算規模は30億円という報道も出ています。実にこの5年間で会社を3倍にしたわけです。

野々村:来季はそれぐらいの予算でいきたいけど、札幌ドームでの試合が芝の張替えをする影響で減るんだよね。それで観客数が伸び悩む可能性がある。

アシシ:その分、興行収入が減ると。

野々村:その可能性は十分ある。そういう不確定要素がある中でやっていかないといけないから、そういうのも含めてしっかり資本政策をしようということで、増資した。別に毎年、黒字で行く必要はないしね。

アシシ:2017シーズンは黒字にめどが立ちました?

野々村:ギリギリぐらいだと思う。

アシシ:前回お話を聞いた時は、100億円クラブを目指す上で、放映権が一番の肝になるという話をしていました。その後チャナティップを獲得して、Jリーグの放映権がアジアでも売れ始めた。今後、東南アジアで売れた放映権料に傾斜がかかって、札幌に多めに支払われることになるんですか?

野々村:まだわからない。2017年はスカパー!が東南アジアの放映権を持っているでしょ。そこのかじ取りはJリーグだからわからないけど、率先して圧倒的な何かをやってたら結果が付いてくるでしょうというスタンスでやっているから。

アシシ:来季の予算にはまだ組み込まれないってことですね。これからは増えていくかもしれないと。

野々村:何年か先かなと思うんだよね。

▼博報堂と提携したことで各メディアが「忖度」するようになった

アシシ:さっき増資の話がありましたけど。新たに増資する8億円は、具体的に何に投資するんですか?

野々村:いろんなことをやっていかないといけないなと思って。

アシシ:多角化の部分で、たとえば1年半前に幼稚園を作りたいって言ってたんですけど、子供向けの施策とか。

野々村:子供向けって今あるかというとないけど、幼稚園設立とかはもっと先の話だよ。現実的にはeコマースの分野。ダイアモンドヘッドさんがけっこうな投資をしてくれているから。グッズ収入って今2億円ぐらいなの。その額を今後4億、6億、8億にしていくためにお金を使ったり、広告の価値を高めるためにLEDの看板を入れたり、そういったところにお金を使おうと思っている。

アシシ:広告の観点でいくと、最近、インターネット上で公開するPR映像がすごい洗練されてきたなと思っていて。最終節の煽り動画なんて、サポーターの声がBGMになっているのは斬新だなと。

野々村:クリエイターも新しいところに発注したりして、だんだんとクオリティが上がってきた感はある。

アシシ:メディア戦略の領域だと、ちょっと細かい話ですけれども、SNS周りの使い方がもう少しうまくできないかなと思っていて。たとえば、ユニフォームの新デザイン発表しかり、選手の移籍情報しかり、なんでウェブサイトでのプレスリリース発表と同時に、ツイッターの公式アカウントでも呟かないのかなと。

野々村:SNSをやらないから、よくわかんない。

アシシ:たしかにこれは経営者レベルの課題ではないですが、今や自動化ツールもあるので、対応は簡単にできると思います。

野々村:アウトソーシングを含めて得意分野の人と一緒にどう組んでいくかみたいなことは経営者としては判断していきたいなと。

アシシ:アウトソーシングといえば、博報堂とパートナー契約を結んで2年が経ちました。博報堂が入ってどんなふうに変わりました?

野々村:各メディアが、いろんな忖度をするようになったんじゃないかなと、個人的には思っている。東京に本社がある博報堂とうまく付き合っておけば、今後ビジネスが広がるんじゃないかと各社が思ってくれてるように思う。

アシシ:博報堂の常駐の社員は具体的にどんな仕事をしているんですか?

野々村:なんでもだよ。メディアをどう使うかみたいなところは、彼らの得意分野だから。去年からホーム戦のほぼ全試合をローカル地上波のテレビ中継ができるようになったのは、まさに博報堂のおかげ。

アシシ:2017年は地上波何回やったんでしたっけ?

野々村:NHKのBS放送も入れると、リーグ戦でいうと16試合。アウェー入れたら22試合。

アシシ:ホーム戦は1試合できなかったんですね。

野々村:水曜ナイターのマリノス戦ができなかったけど、視聴率もだんだんと取れるようになってきたのよ。10月鹿島戦(NHK総合)が前半11.6%、後半13.7%。残留を決めた清水アウェー戦(UHB)が10.7%。こうやって数字が出てくるようになれば、広告としてのうちの価値も上がってくる。

アシシ:数年前までは、しょうがなく地上波でやっている感がありましたが、それが今やメジャーコンテンツになりつつあるということですね。

野々村:だいぶ営業しやすくなるよね。このレベルの視聴率なら、何十万人の道民が広告を見てる、といったような換算はこれからする予定。

▼最も良かった点はサポーターと目標を共有できたこと

アシシ:そういう意味ではテレビ露出を増やした効果は確実に出てきてて、今年のリーグ戦観客動員数、1試合平均は前年比26.5%増でした。

野々村:一番の盲点は、コアな人たちはわかっているけど、ちょっと外側にいる人たちに「J1残留」という目標が、今のコンサドーレにとってはとてつもなく大変なことなんだというのが、今まであまり浸透していなかった点。それが実際に残留を決めて、街を歩いているとおめでとうとか言われるようになって、ちょっとずつ伝わってきたなという感じはある。

アシシ:道新のコラムで、社長が今季の一番よかったポイントとして、サポーターと目標が共有できた点を挙げてました。

野々村:それはずっと一番大事だと思って、この5年間続けてきたことだからね。

アシシ:今や道内のスポーツ番組を見てても、常にアナウンサーが「J1残留に向けて」と話してて、メディアもうまく使ったなと感じます。

野々村:応援の仕方がわかんないと思うわけ、目標が決まっていないと。ライトな人たちにおいては、勝たないといけない、自分が応援しても勝たないとつまんないという思考回路だった人が多かったと思う。それが2017シーズンは、負けたって残留に向けて次なんとかしよう、また頑張ろうと前向きになる人が確実に増えたと思う。こういうポジティブなサイクルがなかったら、残留は厳しかった。

アシシ:J1で15位を目指すといったら、年間半分は負け試合なわけです。4回に1回勝てれば御の字くらいの心構えで、みんなが情報を共有してやってきたのは大きいかなと。

野々村:今これだけしか売り上げがなくて、相手とこれだけ差があるけど、それをホームゲームの空気でなんとか勝たせてよって、サポーターの前で何度も言ってきた。実際、2017年はその空気感を実現できたのが大きい。正直、出来過ぎだなって思うけどね。

(後編はこちら「コンサドーレ野々村芳和社長が語る壮大なビジョン『年間20億円の胸スポンサー』を獲得する秘策とは?」)