「地元で生きるという選択。その覚悟と役割とは?」中倉一志/後編【オレたちのライター道】

"ライターの数だけ、それぞれの人生がある"。ライターが魂を込めて執筆する原稿にはそれぞれの個性・生き様が反映されるとも言われている。J論では各ライター陣の半生を振り返りつつ、日頃どんな思いで取材対象者に接して、それを記事に反映しているのか。本人への直撃インタビューを試み、のちに続く後輩たちへのメッセージも聞く前後編のシリーズ企画がスタートした。第5回は『football fukuoka』の中倉一志氏に話を聞いた。
(前編「出身地・福岡で生きていくことを決断した最大の理由とは?」)

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▼歴史を積み重ねているからこそ生まれる悩み

ーー『football fukuoka』を展開する上で大事にしていることは何でしょうか?

中倉 コンテンツとしてはゲームレポートとプレビュー、選手のコメントを掲載しています。その中で大事にしていることは、現場で聞いた話は全部伝えることです。もちろん取材した内容をきちんと文章化することは大事という考えもありますが、やはり選手がどういう思いで話しているのか。それをいかに伝えるか。紹介する時間やスペースがある限りはすべてを載せる。それは最初に携わったWebサイトをやっている頃からの考えです。

こう言ってしまっては語弊がありますが、戦術的な側面からチームや、試合を分析することには強い関心はありません。アビスパがどう変わっていくのか。選手のメンタリティーがいかにして強くなり、どういうときにメンタリティーが弱くなっていくのか。そういったことを伝えたいという思いと、読んだ方がアビスパをもっと好きになってもらえるお手伝いができればなと思っています。

以前、年齢が一回り下の若いカメラマンの方と話した一言が今でも心に突き刺さっています。「カメラマンはスタジアムにいるからこその写真を撮れないと、そこにいる意味はない」と。スタジアムに来た人はすでに試合を見ているわけで、なぜそういう人たちが私の書いた試合の原稿をわざわざ読むのか。戦術的なことに関心のある方もいると思いますが、私はそのスタジアムの空気感を伝えたいと思っています。試合を見たのに、そういう方がわざわざ私の原稿を読んでくださって、「そうだアレ、頭にきた」とか、最終的には良い意味でも悪い意味でもその試合がよみがえってくるようなことを書ければ最高だと思っています。もちろん、それが今できているとは思っていません。

ーー現状の課題に感じていることは何でしょうか?

中倉 悩みどころは比較的新しい観戦者が増えているため、約半数のお客さんが観戦歴の浅い人たちだということです。古くからのサポーターであれば、「やっぱりよく見ているねー」で通用するような文章であっても、観戦歴が2、3年ほどの方だと、場合によっては原稿に込められた思いの意味が分からないこともあります。これまではアビスパをよく知っている方との関係性でしたが、約半数が観戦歴の浅い人となると、それでは通用しないですからね。

▼ボランティア制度の存在意義

ーー最近の取材の中で、何かこれを伝えたいと思ったことはありますか?

中倉 アビスパのオフィシャルマガジンでボランティアスタッフを取材させていただく機会が多いのですが、ボランティアは決して無償の労働力なのではなく、彼らもまたスポーツに参加しているということです。サッカーとの関わり方の手段が違うだけで、ボランティアという形で自分の街にあるサッカークラブとつながっているんだと思います。あるボランティアスタッフのおばあちゃんに話を聞くと、これまで友人が集まった場所で話してきたことは、体のどこが痛いとか、嫁の何が悪いとかそんな話ばかり。でも、アビスパの現場に来ると、普段は会わないような人とも友人になれるし、年齢が全然違う人とも話す機会が増えたということでした。

それこそボランティアをやっていると、帰り際に「今日負けちゃったね。頭きたね」と来場者が話かけてくれることもあると聞きます。そうやって交流が広がることで、そのおばあちゃんは外へ出る機会も増えたため、健康になって、自分が前向きになれたと言うんです。「ああ、勝ち負けだけを見にアビスパの試合に来るわけではないだな。そういう力がスポーツにはあるんだな」。そう思います。

クラブの経営資金が潤沢であれば、ボランティアスタッフの仕事は会社の人間がやることなるかもしれませんが、ボランティア制度はクラブがどんなに裕福になっても、なくしてはいけないものです。そのクラブに参加する機会を奪う必要はないと思います。ボランティアも地域スポーツとの関わり方の手段の一つなんですよね。スポーツの意義や価値などと言葉にしてしまうと、どうも安っぽくなってしまうのですが、スポーツには街を変える力があるんです。そういったことも読者には伝えていきたいですね。

ーー街にJクラブがあることで生活にハリが生まれる。それもJクラブが生み出す価値ですよね。

中倉 この街で住民のみんなと何かを分かち合いたい。その手段がたまたま私の場合はサッカーでした。もちろん、アビスパにJ1で優勝してほしい。強くあってほしい。そう思いますが、自分の街のクラブが好きという感情や感覚は、それとはまた違う次元の話だと思います。それこそが今、Jクラブが『54』に増えている理由でしょう。

街にJクラブが存在する。そのことに価値を見い出している方たちは、メディアで携わっている私たちやJリーグ、そしてクラブの人たちが思っている以上にいるのかもしれません。そもそも地元の選手は地域の誇りです。海外の選手がうまいのは当たり前の話で、彼らとマイクラブの選手を比較することはまた違う次元の話だと思います。

もちろん、勝負は勝ちたいですよ。アウェイゲームは礼儀がありますから、決してそんなことはしませんが、ホームゲームではガッツポーズもしますし、机も叩きます。時には負けると物を投げたくなることも(苦笑)。同じライターという立場でも、"中央目線"で物事を見るのも大事ですが、一方で地元目線で地元を応援する方たちがいる。そういう方々がバランス良くいることが良いのかなと思います。

地元に残って、地元目線でどう伝えるか。私はそれを選びましたので、今後も続けていきたいですし、勘違いせずにいたいですね。人にはそれぞれ役割がありますから。

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【EXTRA TALK】
アビスパ推しが高じて......

中倉 私のこだわりは、アビスパカラーであるネイビー色のものを持つこと。最近は物を買うと、ネイビーしか手が出なくなっているんです。だからタンスの中は暗いですよ(笑)。バッグもシャツもボールペンもネイビー。靴はネイビーとシルバーです。ネイビーを買わなくてはいけないという感覚に陥っています。最初はシャツだけだったのですが......。「タンスがどんどん暗くなっていく」。そういうアビスパサポーターも多いようですよ。

【プロフィール】
中倉 一志(なかくら・ひとし)
1957年2月18日生まれ。小学校6年生の時、たまたまつけたテレビに『ダイヤモンドサッカー』が映し出されたのがサッカーとの出会い。長髪で左サイドを疾走するジョージベストに痺れた。座湯の銘は「お天道さまは見ている」。

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