『大木ロマンサッカー』が直面する『産みの苦しみ』とは?【大木武監督・FC岐阜/J2個性派監督の現在地】

まとまった中断期間がなく進行するJ2リーグも一巡目の対戦を終え、リーグの趨勢も見えてきた。その一方で、個性を放つ指揮官の冒険も半分が過ぎた。全42試合の長丁場で異彩を放つ個性派監督の今を追う短期シリーズ【J2個性派監督の現在地】。第1回はFC岐阜を率いる大木武監督のチーム作りにおける"現在地"をライターの後藤勝氏がレポートする。

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▼夏、試練の3連戦

 FC岐阜が迎えた夏の試練は、7日間で3試合をこなす強行日程。7月9日のJ2第22節・京都サンガF.C.戦、12日の天皇杯3回戦・サンフレッチェ広島戦、15日のJ2第23節・横浜FC戦と、中2日が2回続く。そして3連戦の結果は1勝2敗だった。進歩しながら課題が浮かぶ。手ごたえと悔やむ気持ちが交錯する、なんとももどかしい1週間だった。

 始まりは歓喜だった。10試合続いた無勝利を脱し、第22節・京都戦で11試合ぶりの勝利を手にした。シーソーゲームの末、スコアは3-2だった。

「(過去10試合)自信を失い、雰囲気が悪くなることはなかった。今年のFC岐阜は下を向くチームではない」

 同点ゴールをマークし、逆転のオウンゴールを誘った大本祐槻は試合後にこう言って胸を張った。

 強気にボールを奪い、強気に攻める。難波宏明が高い位置でカット、シシーニョが運び、最後は難波に戻して決めた。このショートカウンターの先制点も見事なら、古橋亨梧が左から崩し、複数人がつないで右で大本祐槻が決めた2点目も見事だった。大本の言葉からも、あのゴールが良質のものだったと分かる。

「サイドから亨梧とか、オレ(大本)がよくカットインするんですけど、やっぱりカットインからのシュートだけだと、このレベルではスーパーなシュートでないとなかなか入らない。カットインしてからのひと工夫が必要ということで、あの崩しは練習からよくやっていた。左サイドで(古橋)亨梧がうまいことやってくれて、そこから(小野)悠斗くんがスルーし、ナンさん(難波)が落としてと、みんなが連動していて良いゴールだった」

 この試合のフィニッシュはほとんどが難波と大本によるもの。3点目の相手のオウンゴールも、難波が大本からのクロスを狙っていたからこそだ。トップの位置で踏ん張れる、あるいはクロスに対してニアに入っていけるのが難波の特長。加えて前線からボールを追うこともいとわず、センターFWのファーストチョイスとなることは納得できる。

 前節まではシシーニョがトップに入っていた。だが京都から期限付き移籍中の永島悠史が契約によって出場できず、シシーニョは中盤へ。難波がトップに配置されたのは結果的な出来事だが、この試合であらためて適任であることが証明され、この3連戦は彼が常にその位置で先発を果たすことになる。

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▼J1クラブとの挑戦で得たもの

 問題は失点だった。1失点目は長身の田中マルクス闘莉王に小兵の古橋がついたミスマッチが失点の原因として指摘されるが、大木監督は遡ってその起点を指し、そもそもスローインからの流れでクロスを上げさせてはいけないと戒めた。

 2失点目もスローインから。完全に裏を取られ、CBの2枚が置き去りにされた。フィニッシャーの小屋松知哉に付いて行ったのは右SBの野澤だけ。スローインへの対処のみならず、後方のカヴァーリングやマークの受け渡しなど、守備全般の改善が必要なことは明らかだった。

 失点以外に気になったのは試合運びだ。前半28分に先制点を奪ったものの、前半25分までの押し込んでいた時間帯にも、テンポを速くすれば得点できそうな気配があった。なぜそうしなかったのか。

 大木監督は「これは言い方はすごく悪いけど、無理して仕掛けなくてもいい。ああいう(支配した)状況だと、チャンスは必ず来ると。そこを見れるか見れないか、そこまでがまんできるかできないか、それもひとつの力」と言い、選手の判断だと説いた。

 これは実際にそのとおりで、大本は次のように意図を語っている。

「点を取りに行くと前傾姿勢になってカウンターを受けるリスクもある。ミスが生まれるくらいなら判断を変えてボールをもう一回廻しながらタイミングをうかがい直すというのが、自分たちのプラン」

 ただそれが停滞につながるきらいはないのだろうか。福村貴幸は「前半に先制してゆっくりしてしまうから同点に追いつかれたり逆転されたりする。1点差のときに2点差にするという気持ちを持っておかないと」と言っていた。これがその後の2敗への布石になっていたのではないか?

 天皇杯を前に、大木監督は「考慮はするけれども、基本的には変わらない」と言った。J1のサンフレッチェ広島相手にもアグレッシヴに襲いかかるという宣戦布告だった。

 好調の大本は攻める気持ちをみなぎらせていた。

「勝つつもりです。広島さんのほうがやりにくいと思う。チャレンジャー精神で、いつもどおり自分たちでボールを持って主導権を握り、相手にボールを持たせない中でしっかりとフィニッシュまで行くことをサンフレ相手にもできたら自信になる。格上なので相手に申し分はないし、自分たちは思い切ってやるだけだなと思っています」

 元J1王者とはいえリーグ戦では降格圏に沈む状況。長島裕明ヘッドコーチは「いまの広島なら倒したかった」と言っていたが地力の差はいかんともしがたく、岐阜は1-2で逆転負けを喫した。

「(失点した)そこの10分間だね。15分かな。20分はなかったと思う」

 大木監督は広島に2点を奪われ一気に逆転された問題の時間帯をこう振り返った。広島は遅くとも後半9分頃にはペースを掴み始め、後半16分のPKによる2点目まで継続して試合を支配し、チャンスを作り出している。岐阜が再び攻勢に転じたのは後半22分以降。だとすると、大木監督が言う15分間前後の時間帯に広島はギアを上げ、そこにフルパワーの攻撃を集中させたことになる。

 私は「広島はこの2点を使って残りの時間をまとめようという狙いだったはず。その画を変えようと風間宏矢を右ウイングに入れた狙いを教えていただきたい」と訊ねた。大木監督の答えは次のようなものだった。

「ウチはワイドに張らせてプレーする。そこの画というか風景を変えてやろうという気持ちはありましたね。だから野澤をアウトにして大本をうしろ(右サイドバック)に下げた。宏矢が(前で)中に入ることでよりいっそう大本が前に出ていけるような状況を作ろう、と。フリーに動き中に入って良いという話をしましたが、やっぱり残り時間が少なかったかな」

 先制点を挙げた福村貴幸は敗戦に辛辣だった。

「自分たちは結局失点してしまうので、後半の立ち上がりに得点できなかったことがすべてだと思います」

「守備で耐えられるチームではないので、追加点を挙げ、1-0ではなく2-0でゆっくり廻すことができれば、もっと楽な試合にできた」

 福村には言う権利があるだろう。体力が枯渇したのか、それを支える意識が途切れたのか、推進力が欠けたチームの中で、唯一と言っていいほど、福村はダイナミックな攻め上がりを見せていた。

 疲労があっても点を取る意識を持って走らなければ勝てない。そして修正能力も必要だが、それが現在の岐阜には不足している。福村は言う。

「練習は練習。試合は相手がいて、またちがうやり方でやってくるので、それを攻略しないと点は獲れない。今日の試合に対してどう攻略するかと、もっと試合中に考えることが必要だと思います」

 野澤英之は「ディフェンスとしてはあの時間、しっかり耐えなければいけなかった」と悔やんだ。

「後半、広島は守備のところでもギアを上げてきて前半より(プレッシャーをかけに)来るようになって、そこでショートカウンターを喰らう場面が増えた。そうやって相手が来たところでも、つないでいなして、相手の気力を削げればよかったんですけど。やっぱりそこはまだまだだと思います」

 この反省もあったのだろう。三日後、J2第23節の岐阜は最終ラインに下がってくるアンカーの庄司悦大とディフェンスラインが連携して相手の攻撃を阻止。よく守っていたが、ロングボールからの一撃に沈み、横浜FCに0-1で敗れた。

 試合後の大木監督は「なかなかうまくいかないな、というところですかね」。元気はあるが笑いを苦笑いにせざるをえない、そういう表情だった。

 野澤に替えて風間という、天皇杯と同じパターンの交替策を採った。風間は中央に入ってきて強烈なシュートを放ったが、これは惜しくもクロスバーを叩いた。

「相手は下がりますのでね、なかなか背中が取れない。背中が取れないときに相手の前でプレーする、そこで相手の隙間というかですね、小さなスペースを見付けてプレーできるのは風間宏矢だと。そこで彼の良さを生かそうというところは考えました」

 失点以外の場面はよく守れていたものの、CBの青木翼は敗戦を率直に反省した。

「よくできていても、結果的に1点取られて負けている。ウノ・ゼロの試合でしたけれども、自分はディフェンスなので反省しないといけないと思います。後半の最初も相手に押し込まれてという展開が続いた中で、やっぱりどうしても我慢し切れない。福岡戦もそうですけど、ディフェンスはどうしても我慢しないといけない時間帯があると思う。僕と阿部くん中心に耐えないといけないところかなと思います」

 野澤は相手のFWに対応するべく、攻撃参加を躊躇した。

「今日は相手の2トップが結構残っていたので、上がるタイミングが難しかったですね。2対2の状況になるとカウンターが危ないので、そこを気にしながらチャンスがあればという感じでやっていました」

 確かに攻め残りを警戒して安全重視の布陣、庄司もだいぶ後ろ目に位置する機会が多かった。それが逆に攻撃のときの推進力を減らしてしまったのだろうか。

「そうですね。もうちょっと自分も高い位置を取れれば良かったし、いま行けるのか行けないのか、状況判断も試合中にちょっとずつ変えていかないといけない」

 多く得点できる代わりに失点も多くなる。さりとて失点を減らそうとすると得点も少なくなる。改善に着手するやいなや攻守が噛み合い解消というように、一足飛びにはいかないのだろうか。

 天皇杯を前にした囲み取材のとき、大木監督が語っていた言葉が思い出される。

「監督が代わって何か魔法にでもかかったかのように連戦連勝で行くと思われる方もいらっしゃると思うんですけど、そう簡単にはいかない。もちろん始めは少しうまくいった。でも一歩進んで二歩下がるときもあるし。順調には行かない――それが順調だと思ってるんだけど。大本にしても(古橋)亨梧にしても大卒1年目で、これだけゲームやっているわけだから。1シーズンフルに出たことがある選手はほとんどいない」

「このあとは京都で指揮を執った1年目の後半のようになるのか?」と訊ねると、大木監督は「なればいいね(笑)」と答えた。

「なる前提?」と問いを重ねると「それはもちろんそうさ(笑)、弱くなる前提なんか絶対ないから。サッカーってやっぱり分からん、オレだってもう少し勝星を挙げられたつもりでいるもの。でもなかなかそういうわけにはいかない。昨日(京都戦)だって簡単にひっくり返された。想定外だよ。はっきり言ってあのゲームだったら楽勝だよ。楽勝のパターン。でも思ってもみないところから簡単に入れられた」。

 問題点を潰しては長所の精度を高める地道な練習の繰り返し。すぐに成果が出なくとも、キャリアの浅い若者を鍛える以外に、地力を高める路はない。

 敗れれば大木監督とて足取りは重くなる。だが、すぐ笑顔に切り換えるのも大木監督だ。それが過去、ヴァンフォーレ甲府のJ1昇格と京都の天皇杯準優勝につながってきた。すべてが噛み合い、爆発的な戦闘力を得られるまで、FC岐阜は決して屈しない。


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