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FC岐阜・公式マスコット『ギッフィー』誕生秘話とその近未来【短期シリーズ・Jマスコット】

『ギッフィー』誕生の秘話をライターの後藤勝氏が追った。

Jリーグ開幕前に実施されているJリーグマスコット総選挙が春の”風物詩”として定着しつつあるように、近年はJ各クラブのマスコットたちが存在感を増してきた。そうした風潮に即した形でこれまでマスコットを有していなかったJクラブがマスコットを誕生させる傾向にある。最近の例ではFC岐阜の『ギッフィー』がそれに該当する。果たして、クラブ期待のマスコット『ギッフィー』は、いかにして誕生したのか。『ギッフィー』誕生の秘話をライターの後藤勝氏が追った。

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 7月22日にFC岐阜が発表したクラブ公式マスコットキャラクター『ギッフィー』は、岐阜のファン、サポーターのみならず、全国のJクラブサポーターに衝撃を与えた。いわゆるジョジョ立ちポーズで佇むメインイラストへの反応は概ね「かわいくない」。動きのある別ポーズの図柄にはそれなりの愛嬌を見て取れるが、やはり「ギャギャーン」という擬音が聞こえてきそうなポーズのインパクトが強かったのだろうか。

 まだ”実物”がお目見えしていないこともあり、「そっとしておこう」とばかりに、この話題はいったん鎮静化した。しかしFC岐阜はギッフィーを浸透させようと、粘り強く活動を続けていた。

▼プロに委ねなかったデザイン

 長良川競技場を訪れ、FC岐阜のスタッフにあらためて話を聞いた。クラブを代表し、ギッフィーに込められた思いを説いてくれたのは広報担当の渡邊亮さんだった。

 8月20日のJ2第29節・カマタマーレ讃岐戦で選手たちが着用した赤い10周年記念ユニフォームもそうだが、ANNIVERSARYの文字が入った10周年記念ロゴ、ゴール裏自由席を1,000円で販売する10周年記念特別企画チケットとともに、クラブマスコットデザインの公募もまた、FC岐阜のJリーグ加盟10周年を記念する特別企画として実施されたもの。「マスコットを通じてよりFC岐阜を知っていただきたい」というクラブの思いに応えた応募作品は200点。この中から会社員の山岡怜二さんによる県花レンゲをモチーフとしたキャラクターが最優秀賞に選ばれ、クラブの公式マスコットが誕生した。名前は県名の「岐阜」を盛り込んだ上で呼びやすい語感があるものを複数考案、最終的に「ギッフィー」に決定したという。

「岐阜県のみなさんに生み出していただき、県民のみなさん、ファン、サポーターのみなさんに親しまれるマスコットになってもらいたいと、公募に踏み切りました」

 デザインをプロに委ねなかったのは、人々とのつながりを持ちたいという願いからだった。

 岐阜県から期限付き移籍中のミナモの活躍により、マスコットの力はクラブの誰もが実感するところとなっていた。そしてミナモとは別に、クラブの公式マスコットが生まれてほしいという思いが高まっていた頃、Jリーグ加盟10周年のタイミングが訪れた。この企画に賛同してくれた200作品に、スタッフは恩義を感じている。まだギッフィーは浸透していないが、クラブとして推していこうとの意思は強い。

「保育園、幼稚園でのミナモの認知度を考えると、マスコットの持つ親和力は大きいと実感しています。まだギッフィーが顔を見せていないのでイメージしにくいかもしれませんが、親しみやすい姿で登場してくれると思います。サッカー教室やお祭りといった現場に赴くギッフィーに岐阜県という土地とFC岐阜のつながりを感じていただき、ゆくゆくはスタジアムに足を運んでいただける方を増やしていきたい。マスコットはそうしたきっかけになり得ると信じています」と、期待を寄せる。

 現在はメインイラスト1種類の図柄を用いたグッズしかなく、商品、ツイッター、立て看板、のぼりを含めても展開は限定的。本格的な活躍はこの秋からだ。

「発表と同時にグッズ展開を始めました。今後はサッカーをしているようなポーズのイラストも用い、幅広くグッズを開発、お送りしていく予定です。ギッフィー本人も10月に登場しますので、以降はイベントでフル稼働することになると思います。今までは各地のイベントに選手が出かけていましたが、チームスケジュールの都合でどうしてもファンサービスが行き届かない現場が出てくる。ギッフィーならそうしたときにも出演できますし、イベントを盛り上げることができる。華やかな舞台になると思います」

 気になるのはミナモの行く末だが、ここで朗報。なんと来シーズンもミナモを残留させるべく、交渉に入っているという。

「ミナモには今後も応援キャラクターとして応援してもらえるよう、お願いしていく予定です。来シーズンも期限付き移籍を継続できれば、2019年1月31日までホームゲームやイベントに登場します。今後はギッフィーとの掛け合いもあるかもしれませんね」

 かつてFC岐阜のクラブスタッフが研修に赴いた川崎フロンターレには、奇しくもふろん太とカブレラという名コンビがいる。ギッフィーとミナモがそうしたコンビネーションを築くことになるのではと、夢は膨らむ。

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▼ファン・サポーターの反応は?

 現実へ戻ると、屋台村の外れで出会ったファン、サポーターは一様に微妙な表情をしていた。ギッフィーに対する反応も、奥歯にものが挟まったようなものが多かった。

「『飛騨弁』だったり『岐阜弁』だったり、最初のツイートが消されたり(笑)、微妙だな~と思うことは多々あります」

「でもクラブが一生懸命に出してきたマスコットだから、なんとか推してあげたい気持ちはある」

「ミナモちゃんとダンスを一緒にし始めたら、またイメージが変わるかも!」

「等身大のパネルだけだとフェードアウトしてしまうのでは……」

「某クラブのあの子みたいに忘れられるかも……」

「キャラクター設定をちゃんとやってほしい」

「微妙な」

「どう三次元化されるのか」

「動ける感じになってほしい」

 しかし、中にはポジティブな声もあった。

「浸透するまで時間はかかるだろうけど、最初はヘンだって言われていても、みんな慣れる」

 ゆるキャラの「せんとくん」のようなものですかと、このポジティブ回答の主に訊ねると、彼はうなずいた。

「せんとくんはキモかわいいという言葉を生み出すくらいの存在だった。自然と慣れていく。それも新しい歴史です」

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▼ギッフィーへの期待値

 グッズ売り場を預かるFC岐阜ホームタウンチーム担当の富田弘紀さんは、さらに前向きだった。

「どこのクラブも最初にキャラクターを出したときは苦戦すると聞きます。そこはある程度時間をかけ、ぼくらもギッフィーのことを後押ししながら、いろいろなところで露出していきたい。目につく機会が増えれば見慣れて浸透する。もし気持ち悪いと言われても(笑)、スタッフ、クラブとしてはあきらめずに推していってあげるのが良いと思います」

 FC岐阜のグッズ販売自体は非常に好調だ。たくさん売れる大ヒット商品を一種だけつくるのではなく、少量多品種で次々に新しい商品を出し、毎試合グッズ売店にお客さんが来てもらえるようにと心がけ、商品開発を行っているからだ。女性ファン向けにはベティちゃんグッズ各種が大ブレイク中で、限定赤ユニに連動した50枚限定の赤シャツも瞬く間にさばけた。それらに比べればまだまだだが、富田さんは「イケる」という確信を持っている。

「エムブレムなどがワンポイントで入ったものが売れている商品になります。それらに比べるとまだ浸透し切れていない。でもギッフィーを見て『ああ、あれはFC岐阜だな』とひと目でわかるような存在になれば受け入れられていくと思っています」

 課題はキャラクターのポテンシャルを生かす、開発の熱意と推しの努力。富田さんの口調は熱かった。

「デフォルメしたものやポージングを変えたものも製作中ですし、いろいろな人に受け入れられるキャラクターになっていってほしい。せっかく10周年の企画としてやっているわけですから、いろいろなイベントや企画に混ざっていけるようなマスコットにしていけたら。かわいらしいキャラクター、各地域に特化したキャラクターが多い中で、岐阜県全体を象徴するキャラクターとして選んだのがギッフィー。10月までにもう一つ、盛り上がりを作っていきたい」

 大木武監督もそうだが、県外からやってきたスタッフや関係者は、一様に「岐阜に頑張ってほしい」という気持ちを述べることが多い。岐阜には「白川郷しかないから」と自虐的な人々が多いが、県外者にしてみれば、岐阜県ならではの魅力は十分にあると感じられる。その良さを引き出し、県全体を盛り上げていきたいという情熱がある。

 「県内全42市町村を回り、オール岐阜でやっている以上、岐阜県すべてをFC岐阜で盛り上げていくという気持ちが強い」と、富田さんは言う。ギッフィーにもその一翼を担ってほしいのだ。

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▼ギッフィーのポテンシャル

 FC岐阜のホームゲームに於ける家族連れの全来場者に占める割合は61.5パーセント(※2016年の調査)。これは長崎(68.2)、新潟(64.7)、松本(64.4)、山口(63.1)、甲府(61.9)に次ぐ数字で、いかにファミリー層が占める比率が高いかが分かる。今季は大木武監督率いるトップチームの「倒れる演技をしない」「フェアな」そして「ひたむきに戦う」サッカーがファミリー層にフィットするせいか、観客動員も安定しているという。確かに、親子連れを見かける機会が多い。

 8月20日の長良川競技場にはこの日、女性のみに無料配布された「オリジナルギッフィーTシャツ」着用の母娘と父という組み合わせの親子連れがいた。

 ピンク色のシャツに、女の子は「かわいいと思う」「眼のへんがかっこいい」と感想を述べ、ハニかんだ。

 確かに1色で輪郭線のみを残したデザインだと、発表されたフルカラーのイラストよりもリアルなディテールが後退し、かわいさが増している。アレンジ次第でキュートにもワイルドにもなるベースが、ギッフィーにはあるのではないか。

 二人に眼を細めるお父さんは「格好いいやつとか、いろいろなバージョンが欲しいね」と言いつつ、ギッフィーのルックスではなく運動に適した体型に着目し、アクティブな活躍に期待を寄せた。

「野球ではないけれども、それこそスタンドで応援を盛り上げるとか、できたらいいですね。バク転しろとは言わないけど」

 もがきながらのスタートとなったギッフィーだが、この家族には好意的に受け入れられていた。

 そう、ギッフィーはファミリー客をはじめとするファン、サポーターの心に入り込む可能性を持っている。そしてその可能性を大きくできるか否かは、ギッフィーを取り巻く人々の熱意に懸かっているに違いない。