J論 by タグマ!

北朝鮮戦は「内容どおりの正当な結果」。されど、遠藤航と武藤雄樹は確かな収穫だ

今回の特集では北朝鮮、韓国、中国という東アジア列強国との各試合を識者が独自の視点で斬る。第1回は1-2の逆転負けを喫した北朝鮮戦に大ベテランジャーナリスト・後藤健生が迫った。

国内組で臨んでいる東アジアカップが、2日の北朝鮮戦から開幕した。海外組が不在の中、新戦力の発掘にはもってこいの大会で、”ハリル・ジャパン”はいかなる足跡を残すのか。今回の特集では北朝鮮、韓国、中国という東アジア列強国との各試合を識者が独自の視点で斬る。第1回は1-2の逆転負けを喫した北朝鮮戦に大ベテランジャーナリスト・後藤健生が迫った。

▼試合内容を反映したスコア
 開始わずか3分に武藤雄樹が決めて日本代表がリードを奪う。そして、その後も軽快にパスを回す日本が北朝鮮陣内で試合を進める。日本のパス回しに北朝鮮はまったく付いていけない状況だった。

 しかし、こうした状況はわずか25分ほどしか続かなかった。24分に森重真人のパスから武藤がはたいて川又堅碁がフリーになるチャンスがあったが、川又が無用な切り返しをしてシュートが遅れたために、相手GKにブロックされて絶好のチャンスを逃してしまう。

 だが、その後は中盤での北朝鮮の激しい寄せに日本代表が次第に後手に回り始める。ボールを奪われてはカウンターを浴び、森重真人と槙野智章の守備力でなんとかはね返すだけの時間帯が続いた。さらに、前半終了間際に左からのボールで永井謙佑がフリーで受けるビッグチャンスがあったものの、ここでも永井謙佑のシュートのタイミングが遅れて、チャンスを生かせない。

 2点目が取れない日本代表。サッカー界で言われる”罰”を受けるのは当然のこととだった。

 後半も、北朝鮮の激しいチャージにボールを失い、遠めから放り込んでくる北朝鮮の攻撃をなんとかしのいでいたが、疲れの影響もあって集中力を欠き、最後は集中を欠いたプレーで失点を重ねて逆転負けを喫してしまった。

 メンバー的にも、コンディション的にも、日本代表は万全ではない。コンビネーションが悪く、フィジカル勝負でも準備万全の北朝鮮を下回ってしまった。結果は、試合内容を反映した正当なものと言わざるを得ないだろう。

▼最大の意義は個の力の評価
「言い訳ではない」と前置きをしたものの、試合後の会見でハリルホジッチ監督も、そうした事情を述べて協会に対して苦言を呈する場面があった。事情はよく分かるし、この敗戦は決して監督の責任ではない。大会直前の水曜日までJリーグの日程が入っていたため、3日前に中国・武漢入りというスケジュールでは準備もできるはずがない。だが、それはメディアの側がしっかりと評価すべきことであって、当事者の監督がそうした事情について触れるのは見苦しいような気もする。

 こうした状況で参加しなければならないとすれば、メンバー編成の選択肢としては二つあったはずだ。

 一つは、勝負にこだわってベテラン勢の力を借りて”国内組最強チーム”を編成することだ。北朝鮮戦の最大の敗因は決定機に追加点を取れなかったこと。それなら、例えば大久保嘉人や佐藤寿人を入れておけば良かっただけではないのか。あるいは、リードを奪った後に押し込まれてバタバタしている状況なら、遠藤保仁を入れて落ち着きを取り戻すことができただろう。

 だが、監督は(協会は)そういうチーム作りを選択しなかった。チーム作りの今後を考え、将来性のある若手中心のチームを作ったのである。

 とすれば、結果は重要ではない。北朝鮮との試合に出場した選手たちの”個の力”を評価すること。それが、今回の東アジアカップの目的であり、最大の意義なのだ。

▼及第点は遠藤と武藤のみ
 新戦力候補の中で、力を発揮したのは、右SBというこれまでそれほど経験のないポジションで起用されたU-22代表候補の遠藤航。そして、セカンドトップのポジションでボールによく絡み、そして、先制ゴールも決めた武藤雄樹の二人だろう。

 遠藤は、SBとしての守備でも北朝鮮の激しさにも一歩も引かずに戦えたし、武藤の先制ゴールをアシストするなど攻撃でも躍動。この試合の日本代表の最優秀選手を選ぶとすれば有力な候補と言える。

 武藤も、粘り強いプレーで北朝鮮の激しさを前にしっかりと体を張って闘えた選手の一人。ゴールだけでなく、日本の攻撃の場面ではパス回しによく絡んで大きな貢献ができた。武藤などは、いまの日本代表の中ではそれほど「うまい選手」ではない。だが、国際試合では彼のように戦える選手が必要なのだ。

 つまり、武藤や遠藤は、今後も日本代表に定着しても不思議ではない。

 しかし、武藤と遠藤を除く新戦力候補の選手たちはボールの奪い合いで体を張ることもできず、攻撃面でも思い切った長いボールを入れることができなかったり、せっかくのチャンスでシュートとためらったりと、力を発揮することはできなかった。

 大会はまだ1試合が終ったばかり。厳しいスケジュールと厳しい気象条件を考えれば、今後も苦しい試合が続くことは間違いない。だが、そういう環境だからこそ、「闘える選手」とそうでない選手の見極めもつくはずだ。

 もちろん、これから2連勝すれば優勝も可能だろうが、今回の大会で最も大切なことは日本代表入りを目指す新戦力候補たちの競争なのである。

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続けており、74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授。