J論 by タグマ!

物足りなかった反町節は後半戦への布石。松本山雅の策士は必ず動く

あえて注目したのは昇格組の松本山雅。やけに静かだったあの男の後半戦に期待する。

7月11日からいよいよJリーグ・セカンドステージが開幕を迎える。今回はこのステージ開幕に焦点を合わせ、「セカンドステージ、私はあえて○○に注目する」ということでお送りする。第1回は大ベテラン・後藤健生。あえて注目したのは昇格組の松本山雅。やけに静かだったあの男の後半戦に期待する。

▼際立った昇格組の健闘
 Jリーグ・ファーストステージで目立ったのは昇格組の健闘だった。

 もちろん、Jリーグでは昨シーズンのガンバ大阪のように昇格したばかりのチームが優勝争いをすることも珍しいことではない。だが、今シーズン昇格の3クラブはいずれも大型スポンサーを持たない、いわゆる「プロヴィンチャ」。財政規模も小さく、当然、戦力的にもかなり厳しい状況にある。そんな中で、昨シーズンはJ2で圧倒的な強さを発揮した湘南ベルマーレが10位と中位を確保。また、モンテディオ山形も16位。昇格プレーオフ制度が始まって以来、プレーオフ組は惨敗が続いていたが、今シーズンの山形は、まだまだ残留の可能性を色濃く残している。

 そして、松本山雅FCは15位と残留圏内にいる。開幕前、反町康治監督が公言していた「日本のベスト15」である。財政力もなく、初昇格の松本としては大健闘と言っていい。いや、6年前には北信越リーグにいた松本山雅がJFLを2シーズン、J2を3シーズンで通過して、今年J1にいることだけでも驚きに値する。

 J1昇格が反町監督の手腕によるものであることは、論をまたないであろう。

 戦力的に劣る部分を攻守にわたるハードワークを貫き、組織を崩さずに戦うことで補う……。言葉で言うことは簡単だ。だが、自分たちより強い相手に対して、その姿勢を貫き続けることは容易ではない。

 選手たちに、そういうプレーが自然にできるような意識づけをすることが必要となる。目の前の試合で勝点を一つひとつ拾いながらチームを育てていく。そして、乏しい戦力の中でも戦いを繰り返すことによって個々の力も上げていく。そういう作業が結実したのが、J1昇格であり、今シーズンの健闘である。

▼反町監督が前半戦を「使って」やったこと
 だが、それだけではちょっと物足りなさを感じてしまうのである。

 というのは、松本山雅の反町監督は選手を育て、チームを成長させるすばらしいモチベーターであると同時に、日本サッカー界を代表する「策士」だったはずだからだ。しかし、ファーストステージの反町監督からは「策士」の表情があまり窺い知れないのだ。

 たとえば、ファーストステージ第3節の浦和レッズ戦。松本山雅はシュート23本を打たれたものの耐えに耐えたていたが、85分に森脇にスーパーショットを決められて0-1で惜敗を喫した。だが、その森脇の決勝ゴールが生まれる少し前の時間帯、浦和の運動量が落ち、組織やバランスを崩し始めていた。そこで、僕は反町監督が何かを仕掛けるのを期待したのだが、結局、松本山雅はそのままの戦いを貫いた。かつて、湘南を率いて浦和に挑戦した時には、数々の策を弄して見せた反町監督だっただけにちょっと意外だった。

 その後の試合でも、基本的に反町監督の姿勢は変わらなかった。「策士」よりも、「愚直さ」が最近のウリになっているようだ。記者会見での軽妙洒脱なやり取りも、以前ほどの切れ味を欠いている。

 ううん、50歳を超えて、反町康治も芸風を変えたのだろうか……。

 そんなことを思っていたら、最近、かつて反町監督がアルビレックス新潟を率いて最初にJ1に挑んだ頃のことを良く知る人物から、こんな話を聴いた。

 そのシーズン、反町監督が動いたのは後半戦に入ってからだったというのだ。前半戦のうちはあまり策は用いずに、自分のチームと相手チームを観察し、その分析の結果を後半の試合に落とし込んだのだという。

 なにしろ、反町監督といえば「分析好き」で知られる人物だ。分析をした後で実際に対戦し知ってみる。そこで、映像での分析では分からない細部にわたる情報が得られるのだ。相手のストロングポイント、ウィークポイント。自分たちのチームの通用するところ、しないところ。それを見極めた上で、後半の2度目の戦いでは策を仕掛けるために動いたというのだ。

 なるほど。

 とすれば、セカンドステージの松本山雅の試合では、反町監督が動く可能性が大きい。

 セカンドステージの第1節では、松本山雅はホームにファーストステージを無敗で優勝した浦和レッズを迎え撃つ。浦和の多くのサポーターも迎えて、ホームのアルウィンは熱気に包まれるだろう。ファーストステージでは敵地で最後まで粘った松本山雅。セカンドのホームでの戦いでは、反町監督はきっと何かを仕掛けてくるに違いない。新加入のブラジル人エリック・デ・オリヴェイラという「飛び道具」も、相手に情報がないだけに飛び道具として期待していい。

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続けており、74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授。