J論 by タグマ!

代表を崇めても仕方ない。ブレなくJで積み上げる男、つまり権田修一を推したい

一番手に登場となった後藤勝は、この企画そのものにクエスチョンをぶつけてきた。

3月12日、日本代表にハリルホジッチ新監督が誕生した。選ぶ人が替われば、選ばれる人の傾向が変わっていくのも必然というもの。今週の『J論』では、Jリーグでの「選手探し」を公言している新監督に推薦したくなるタレントを各記者が選考。「勇将の下に弱卒なし。ハリルホジッチ新監督に薦めたい”Jの変人”」と題してお送りする。しかし、一番手に登場となった後藤勝は、この企画そのものにクエスチョンをぶつけてきた。

▼人があふれた味スタで
 3月14日土曜日、味の素スタジアムは大勢のメディアで賑わっていた。FC東京には直近の日本代表選手がいるし、横浜F・マリノスにはシティフットボールグループの肝いりで獲得したと伝えられるFWアデミウソンがいるが、それらの要素だけではミックスゾーンがぎゅうぎゅう詰めになることはなかっただろう。

 なぜ、人があふれたのか。

 言うまでもない。ヴァイッド・ハリルホジッチ日本代表監督が視察に訪れたからである。

 ハリルホジッチ監督が残した言葉――注目する選手がいたとか、もう少しやる気がほしい――をソースに、記事が組み立てられていく。アジアカップのリストになかった名前を挙げて新戦力を期待する書き方にもできるし、Jリーグはつまらないというネガティブなトーンで書くこともできるだろう。

 ただいずれにしろ、ぜひお話を拝聴いたしたく、という低姿勢から生まれる記事であることに変わりはない。

 日本においては日本代表チームこそが至高の存在であり、日本代表監督は法王の威厳を持つ。ハリルホジッチ氏は欧州の基準をもたらすためにやってきた伝道師だ。彼に何かを教わり、強くなれるのではないかと、人々は期待している。

 試合の前日、練習を終えたFC東京のマッシモ・フィッカデンティ監督を記者が囲む。その際、こういう一幕があった。

――新しく日本代表監督となったハリルホジッチ氏に対してどのような印象を持っているか?

マッシモ・フィッカデンティ監督「いまはまだ(情報がなく)よくわかっていないので、何も言うことはできません。――正直に言えば、いまこの時期は、試合に集中し、自分たちのチームのことだけを考えています。もちろん、日本では代表が非常に人気があり、サポーターがたくさんいます。彼を選んだ人たちはしっかりと判断材料があって選んだことですから、そこはリスペクトしています。このお話に関しては、いまの立場では、代表がプレーするときに応援することしかできません。もちろん、日本の代表ですよ。うまくいくことを願っていますし、わたしたちもいい仕事をして結果が出るように祈っています。いまはわたしのチームのことについて話しましょう」

 クッションとなる言葉が挟まっているが、まだ具体化していない日本代表の雲を掴むようなイメージについて語るより、22時間後に迫った公式戦を戦うFC東京についての話をしたい、というフィッカデンティ監督の気持ちが伝わってくるやりとりだった。

 そして違和感も。

「日本では代表が非常に人気があり」の一節には、クラブの地位を低く見て代表を祀り上げる空気は、自分がイタリアで吸ってきたものとは違うという意味が込められている。

 ヨーロッパであれば、注目される監督はジョゼップ・グアルディオラであり、ジョゼ・モウリーニョであろう。彼らが指揮するのは、バルセロナ、バイエルン・ミュンヘン、チェルシー、レアル・マドリーといった、UEFAチャンピオンズリーグの覇権を争うクラブチームである。

 対して日本では、監督人事に対する反応が大きくざわつき殺伐とするJクラブは浦和レッズくらいのものだ。おおかたのJクラブには「代表選手牧場」程度の意味合いしか与えられていない。Jクラブの監督も「新しい日本代表監督をどう思いますか?」という質問に対する回答箱でしかなく、Jリーグの公式戦は、あたかも「代表メンバーセレクション」であるかのようだ。

▼この試合から推挙するのは一人しかいない
 J論から、日本代表に推挙する選手について書いてほしいとの依頼を受け、はたと困ってしまった。

 明治安田生命J1リーグ第2節、FC東京対横浜FM戦は、とてもフィールドプレーヤーの能力を計測するような試合ではなかったからだ。味の素スタジアムで繰り広げられていたのは、エンタテインメントの見地からは、ただ退屈なフットボールだった。選手のプレーはリスクを嫌い、制限されていた。

 予定では米本拓司について書くことになっていた。なるほど、ハリルホジッチ氏が求める基準に近いものは持っている。ハードワークをいとわず、ボール奪取能力が高く――この日は「日本もそんなに甘くないんだぞ、ということを伝えるために」アデミウソンをなぎ倒してボールを奪った――、奪ったあと手数をかけずにカウンターで運び、ペナルティボックスの攻撃参加人数を増やすことができる。課題であったボールを奪ったあとのパスや攻撃の組み立ても以前より幅が拡がり、プレーメーカー然としたところも出てきた。

 しかし奪ったあとの質については、この日の内容にかぎっては、自信を持って代表に推薦できるレベルであるとは断言できない。

 それにそもそも、この試合はフィールドプレーヤーの能力が代表にふさわしいかどうかを計測するには不適格な試合だから、この選手を代表にどうぞと断言すること自体が難しい。

 もしこの試合からFC東京の選手をひとり推挙するとするなら、権田修一をおいてほかにはありえないだろう。とある関係者も「今日は修一」と言っていたがその言葉を借りるまでもなく、二回あった1対1の場面でシュートを二度とも阻んだ権田のセービングがFC東京の危機を救い、勝点1をもたらしたことは明らかだった。

 殊勲の権田は試合後にこう言っていた。

「ぼくらはJリーグのFC東京でやっているので、FC東京で結果を出すことが代表チームにつながるのではないかと思います。 ぼくは海外組ではないですし、Jリーグでプレーしている選手です。Jリーグでプレーしている選手は代表のためにやるのではなく、まずは自分が所属するチームで最高のパフォーマンスをすることが、結局、代表にもつながる。 ふだん、適当にやっていて、代表のときだけがんばります、だと、絶対にいいパフォーマンスはできない。ふだんから、毎日の練習から、しっかり高いところを見ながら集中してできれば、どこの環境に行ってもうまくできるのではないかと思います。去年、武藤選手にしても太田選手にしても森重選手にしても、FC東京で結果を残しているから代表に入ったわけで、チームでの活躍が(代表入りには)いちばん大事ですし、アジアカップにしても、去年のリーグ戦上位2チーム(ガンバ大阪と浦和レッズ)のゴールキーパーが入っている。やはりゴールキーパーのパフォーマンスはチームの成績に直結するところだと思うので、まずは今日みたいにしっかり(失点を)ゼロで抑えて、順位を上に上げて。リーグ戦で1位になったチームのゴールキーパーが日本で一番のゴールキーパーだと評価されるべきだと思うので、そこをめざしてやりたいなと思います」

 もしかしたら、スターをつくろうという視線のなかに、権田修一は入っていなかったのかもしれない。しかし出場したすべての選手のうち、最高のパフォーマンスを発揮したのは権田だ。彼を認めずに、ほかの選手を日本代表に推挙したら嘘になる。

 前節の開幕戦でFC東京は2失点、横浜FMは3失点している。両チームとも、スペクタクルあふれる、リスクを負ったプレーで得点を狙うよりも、失点をゼロに抑えて負けないことのほうが重要な状況に置かれていた。わかりやすくアンチフットボールと呼びたければ呼ぶがいい、理想のフットボールで勝点を失ったらそれを要求するおまえは責任をとれるのか?という状況だったのだ。失点を少なく抑えようという意識の、もともとの強さもあり、退屈な試合になることは必然だった。

 クラブチームに代表の都合を考えて遠慮する義理はない。もし真にJリーグを、Jクラブを、日本代表選手を供給する牧場にしたいのであれば、まずJリーグとJクラブの質と格を高め、試合に緊張感をもたらさないといけない。Jリーグは独立したひとつのカテゴリーだ。代表に左右されることなく独りで立つことができなければ、自信を持って代表選手を送り出す舞台として機能することもできない。

 セレクションとしてではなく、素直に試合を観ればいい。先入観を排除して、活躍した選手の能力に着目し、評価していけばいい。

 スターはつくるものではなく、生まれてくるものだ。

 3月14日のスターはまぎれもなく、権田修一だった。

 さて、設定されたテーマは「勇将の下に弱卒なし。ハリルホジッチに薦める”Jの変人”」だ。権田はその要素を十分に充たしているだろう。青赤軍団全体を見渡しても、彼ほど勇猛な兵(つわもの)はいない。

 彼は相手の肩書や年齢に関係なく言うべきことを言える人物で、日本代表をこよなく愛し、尊重しながら、FC東京というクラブへの愛が深く、下部組織に誇りを持っている。もちろんJリーグにも、対戦するクラブチームにもリスペクトがある。クラブはクラブ、代表は代表と、きちんと分けて混同せず、代表代表と過熱するメディアを必要に応じてたしなめる。まずその根本が健全すぎて、かえって変人だ。

 もちろんプレーも。ノイアーが騒がれる以前から彼の守備範囲はゴールキーパーの標準を超越した広さであったし、1対1の反応、ブレない態勢もすばらしい。

 ゴールキーパーが川島永嗣、西川周作、東口順昭の三人で決まったかのような雰囲気を吹き飛ばし、日本代表チームに活力をもたらしてほしいと思う。

後藤 勝(ごとう・まさる)

サッカーを中心に取材執筆を継続するフリーライター。FC東京を対象とするWebマガジン『トーキョーワッショイ!プレミアム』を随時更新。著書に小説『エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』(カンゼン刊)がある。