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古井戸の水に生まれた新鮮さ。今野泰幸が語る「4試合の空白」が持つ意味と価値

ミスター観戦力・清水英斗が、古井戸を掘り返す意義を語る。

11月14、18日に行われる二つの国際Aマッチ(vsホンジュラス、vsオーストラリア)に向けてハビエル・アギーレ監督は日本代表に3人のベテラン選手を呼び戻した。34歳の遠藤保仁、31歳の今野泰幸、そして30歳の長谷部誠だ。この選考は、これまで若手に限らず実績のない選手を大量招集して起用してきただけに大きな驚きをもって迎えられた。果たして、ここに来てのベテラン大量招集は是か非か。あらためて問い直してみたい。今回はミスター観戦力・清水英斗が、古井戸を掘り返す意義を語る。

▼楽しみになったアジアカップ
 是か非かと言われれば、もちろん是かな。

 というより、少しホッとしたのが正直な気持ち。アギーレは4年後のこと、「ロシアW杯を見据えて」という発言が目立っていたし、アジアカップについては具体的な目標も定めていないから、この大会をどう捉えているのか、つかみづらいところがあった。もしかすると、ブラジル戦のように若手のテストの場にしちゃうのかなと、わずかに思うところもあったけど、今回のベテラン招集を見て、「ああ、やっぱりアジアカップを本気で獲りに行くんだな」と、姿勢が見えた。大会がすごく楽しみになった。

 そもそも「ベテラン大量招集」とキャッチが付いているけど、そんな気持ちでこのチームを見るのは、もったいない。

 公開トレーニング後のミックスゾーンで、「ベテランとしてこのチームを引っ張っていきたい?」と聞かれた今野泰幸は、「そんなつもりはまったくないです」と、食い気味に答えを返してきた。

「良い緊張感のなかで出来ているし、新しい選手とやるのも楽しいし、そういう気持ちでやっています。(W杯のころはプレーを楽しむ余裕がないと言っていたけど、今は違う?)そうですね。今はボランチをやっていますし、違うポジションで、また新しいチャレンジをしたいという気持ちがわいています」

「(ベテランとして来たつもりではない?)いや、ぜんぜん違いますね。サッカーって別に年齢でやるわけじゃないし、いつまでも僕は成長できると信じているし、フレッシュな新入生みたいな気持ちで来ていますけど」

「(中盤のほうがやりやすい?)100パーセント中盤です。クラブでもボランチをやっているし、世界でも、W杯で対戦して、正直、限界も感じたので。W杯という大きな大会で、相手の前線に強力な選手がいて、引き分けも許されない、勝たなきゃいけないってときに、どうしても前掛かりになるじゃないですか。サイドバックもけっこう上がって、中のセンターバックがFWと2対2になったときの怖さといったら、とんでもなかった。世界のセンターバックは2対2でも抑えられる能力があるかもしれないけど、僕にはその力がないと感じたので。中盤だと、より僕のボール奪取能力が生きると思うし、もしかわされたとしても、センターバックがいてくれるので、全力で戻れば奪い返すチャンスも出てくる。失敗しても、まだ大丈夫なところがあるので、よりチャレンジできる。自分はボールをたくさん獲りたいなと思うし、攻撃でも展開の面で、いいパスを出していきたいと思います」

▼空気は確かに変わった
 このコメントの中に、僕は「4試合の空白」がもたらした意味を感じた。

 アジアカップがW杯の半年後にある以上、やっぱり古井戸に残っている水は使わないといけない。だけどブラジルではショッキングな負け方をしてしまって、周りのファンも期待外れと落胆して、何よりも選手たち自身が気持ちを整理するのが大変だったと思う。

 だけどアギーレが最初の4試合で、数人の中心メンバーだけを前チームから引き継ぎつつ、ひたすら新しい選手を試したことで、新しいことが始まる感覚、フレッシュな空気がこのチームに吹き込まれた。この4試合の意味は、ただ若手を試しただけじゃない。ベテランに対しても、もう一度新鮮な気持ちでサッカー人生をスタートするための時間が与えられたと。そんな気がしている。

 長谷部誠にしても、ザックジャパンの頃にはキャプテンとして振舞って、ミックスゾーンでも中心的なスピーカーとしてメディアに長時間対応していたけど、少なくとも今は本当に一人の選手。変な話、トレーニング中の存在感が薄くなった。でもそれって長谷部自身にとって、すごく良いことなんじゃないかなと思う。

 4試合を経て、残るべき選手は残った。そして、フレッシュなベテランが戻ってくる。もちろん、彼らに定位置が約束されたわけではない。長谷部や今野にしても、おそらく今回は呼ばれていない細貝萌とポジションを争うことになるわけで、アジアカップの最終リストに誰が残るのかはわからない。

 楽しみでしょう、普通に。

清水 英斗(しみず・ひでと)

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。著書に『日本代表をディープに観戦する25のキーワード』『DF&GK練習メニュー100』(共に池田書店)、『あなたのサッカー観戦力がグンと高まる本』(東邦出版)など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。