Jリーグ勢がACLで勝てない9つの理由
そこまでJリーグ勢は弱いのか?よく言われる(あるいは私自身も書いてきた)ACLでJリーグ勢が勝てない(と言われる)理由をまずは列挙してみようと思う。
AFCチャンピオンズリーグ。2002年に欧州のUEFAチャンピオンズリーグを模倣する形で創始されたこの大会で、日本勢が苦しんでいる。07年大会を浦和が、08年大会をG大阪がそれぞれ制して以降、Jリーグクラブのファイナル進出は皆無である。「なぜ勝てないのか、どうすれば勝てるのか」。『J論』では、このテーマを掘り下げてみたい。まずは序論として、現状を紐解くことから始めたい。
▼ファイナリストにすらなれない現実
ACLで日本勢が勝てない。近年、そんな話がことさら強調されるようになっている。実際、勝ててはいない。決勝に残ったのは2008年のG大阪が最後。4強進出もわずかに2009年の名古屋と2013年の柏のみと数えるほど。「惜しくも優勝を逃した」と言えるような状況でないことは確かだろう。
では、そこまでJリーグ勢は弱いのか?
よく言われる(あるいは私自身も書いてきた)ACLでJリーグ勢が勝てない(と言われる)理由をまずは列挙してみようと思う。
その1:金がない
いきなり身も蓋もない話であるが、日本という国自体の経済が低空飛行を続けたこともあって、総じてJリーグクラブの強化費が絞られてきている傾向にあるのは確かである。一例として浦和がACLを制した2007年の予算(営業費用)は約77億円だったのに対し、2013年度は約56億円となっている。お金がないので大きな補強ができないというのは、確かに身も蓋もない話なのだけれど、一面の事実として存在する。アジアを制した当時の浦和がワシントンとポンテという超アジア級の助っ人を並べられたのも、この潤沢な資金あってこそである。
その2:中国には金がある
国としての経済発展という意味で、ACLが発足した2002年から現在までの12年で長足の進歩を遂げているのが、海を挟んだ隣国・中国である。サッカー人気のベースはもともとあったこの国で、リッチになった人々がサッカーへの投資を始めたのは当然と言えば当然のこと。典型がJリーグクラブを食いまくっている広州恒大であり、イタリア代表のディアマンティをヒョイッと連れてこられてしまうような資金力は驚異的だ。浦和がやってみせたことの逆パターンをやられてしまっていると言えなくもない。
その3:ブラジル人が取れない
Jリーグの資金力が衰えていく一方で、中東や中国、ロシアといった新興国の資金力は増加。グローバルな”ブラジル人助っ人獲得競争”においてJリーグクラブが後れを取るようになったのも見逃せない。ブラジル自体が大きな経済発展を遂げて国内リーグに富が集積されるようになったことで、国外へ出稼ぎに行くメリットが減じているという面もある。2007年、2008年のアジア制覇は強力なブラジル人助っ人あってこそのものだった。あのレベルの選手をそろえるのは、内外の事情によって許されなくなってきている。
その4:日本人選手の海外進出
国際移籍市場という意味では、出ていくほうの視点で観ても現状は厳しい。たとえば広州の助っ人は質が高いが、中国人選手も相当にハイレベルな代表選手たちが集められている。代表選手の多くが欧州進出を図る状況にあって、日本人トップクラスの選手で国内に残っている選手が僅少になっているのは否めない事実。新しいタレントが出てきても、それが出て行ってしまう難しさは、チーム力を高めていく意味でもネガティブな影響があるだろう。
その5:勝負弱い……のか?
広州の助っ人選手に木っ端微塵にされたようなゲームも確かにあるが、その一方で「内容では勝っていたのに……」というゲームが多いのもACL。Jクラブがラウンド16で敗退することが非常に多いことからも分かるように、一発勝負でのギリギリの競り合いに苦戦している傾向は確かにある。韓国勢がこういった戦いに強いのもまた確かだろう。
その6:ジャッジ
今回のACLでは広島が奇禍に遭遇したとしか言いようがない不思議なジャッジに直面していたが、ACLのレフェリーのクオリティーは必ずしも高くない(Jリーグのレフェリーの質がいかに高いかを思い知らされる舞台でもあるのだが)。コンタクトプレーへの寛容さもJリーグと異なるという指摘が多くなされてきたが、これについては日本の審判たちも積極的に取り組み、「フットボールコンタクトの容認」という形で、以前よりもずっとJリーグでも激しい当たりが許容されるようになってきている。
その7:過密日程である
確かに過密である。ただでさえ移動の負荷が大きいACLにおいて、週2回のペースで激闘をこなしていく難しさはいかんともし難い。地方チームの場合は国際空港までの国内移動まで重なるので、さらにしんどい旅路である。ACLのラウンド16がJリーグにとっての稼ぎ時となるゴールデンウィークにバッティングしていることも大きく、この肝心なタイミングが特に過密日程になるのも問題だ。「最大限の努力はしてもらっている」と日本サッカー協会・原博実専務理事が語ったように、さまざまな形で出場チームへの配慮はあるのだが、それでも苦しいのは苦しい。助っ人を取る予算がなく、日本人選手は欧州へ出ていってしまう現状の中で、ターンオーバー可能な戦力的余裕を、各クラブそろって欠いているという現実もある。
その8:Jリーグが幸せなリーグである
過密日程ともリンクする問題だが、Jリーグが非常に幸せなリーグであることも、ACLを戦う上では不利に働いている。J1に属するクラブの戦力は総じて拮抗しており、予算規模の比較的大きいクラブが定期的に降格していく、そんなタフでハードなリーグである。エンターテインメントとしては最高で、「幸せなこと」と形容したいのだが、リーグ戦で一切の手抜きが許されないという現実を生んでもいる。ACLに注力した結果、うっかり降格してしまった。そんなことが十分に起こり得るリーグだからこその難しさは、確実にある。
その9:ACLのプライオリティー
JリーグよりもACLを獲りに行く。そこまでのプライオリティーが見出せないのも確かだ。国内リーグの価値が薄い国ほど国際タイトルに執着心を持てるのは当然の理で、良くも悪くも国内リーグの価値が高いJリーグは、国内リーグを捨ててACLに注力することは難しい。他国が実際にやっているようにACLの勝ち残り状況次第で日程を順次動かしていく国内リーグとそこに来るお客さんをないがしろにするような判断が正道とも思えない。
以上、9つの理由を列記してみた。
もちろん敗れたクラブにはそれぞれ個別の事情があるし、年度による違いもあるだろう。ただ、ファイナリストにすらなれていない現実を思えば、やはり何らかの改革は必要だ。特に「その7:過密日程」については、踏み込んだ議論があっていい。
何しろ、ポストシーズン制が導入される来季以降は、Jリーグの日程がさらに厳しいものとなることが確実だからだ。先日のJFA理事会記者会見において、原専務理事は天皇杯の日程問題についての質問に対して、「冗談ではないような状況」と表情を曇らせていた。2月開幕が当然のように語られているが、どこまで選手のオフを削り取ることになるのか。J1のクラブ数を削らないならば、国内カップ戦の統廃合や出場資格変更を含めた、大きな決断も必要になってくるかもしれない。
川端暁彦(かわばた あきひこ)
1979年、大分県生まれ。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴ ラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『月刊ローソンチケット』『フットボールチャンネル』『サッカーマガジンZONE』『Footballista』などに寄稿。近著『Jの新人』(東邦出版)。