J論 by タグマ!

Jリーグが弱いと言う人は本当に試合を観たのか?

「Jの結果自体は残念だったけれど、Jのチームにはそれぞれの色があると思う。そういうところの評価をしっかりしてほしい」と語気を強めた。

AFCチャンピオンズリーグ。2002年に欧州のUEFAチャンピオンズリーグを模倣する形で創始されたこの大会で、日本勢が苦しんでいる。07年大会を浦和が、08年大会をG大阪がそれぞれ制して以降、Jリーグクラブのファイナル進出は皆無である。「なぜ勝てないのか、どうすれば勝てるのか」。『J論』では、このテーマを掘り下げてみたい。今回は川崎Fを追うライターの江藤高志氏が”フロンターレ目線”でACLの現状に切り込んだ。

▼川崎Fの敗因は「ACLならでは」のものなのか?
 今季のACLでは、グループリーグ敗退の横浜FMに続き、残る日本勢3クラブもラウンド16で敗退となった。代表チームはアジア最強を自負する日本だが、JクラブのACLにおける低迷は、どう説明するべきなのだろうか。

 川崎FはACLのラウンド16・FCソウル(韓国)戦において、ホームで2-3と敗れ、アウェイで2-1と勝利したものの、アウェイゴールルール(2試合のスコア合計が同点の場合、アウェイでより多く得点していたチームが勝ち抜けとなる)によって敗退が決まった。このラウンド16での対戦を振り返った川崎Fの風間八宏監督は「残念というか、ちょっとした取りこぼしだよ」と強調する。

「勝った負けたに評価はすごく左右されてしまうけど、それよりもどういうスタイルのサッカーをしているのかを見てほしい。これだけはっきりスタイルを打ち出しているチームはないと思う」とも言う。

 つまり「ACL負けましたね、勝ちましたね。ということではなくて、あのソウルのサッカーを見たいのかという話」であり「俺たちはそれ(今の川崎Fのスタイル)を誇りにしている」と続けた。

 結果的にラウンド16で敗退した他のJクラブについても、「Jの結果自体は残念だったけれど、Jのチームにはそれぞれの色があると思う。そういうところの評価をしっかりしてほしい」と語気を強めた。

 もちろん、プロである以上、勝ち負けは重要な要素だ。

 ただ、プロであるからこそ「どんなサッカーをするのかにこだわりたい」とも述べているわけだ。

 それほどまでに内容に対する自信を口にするには理由がある。

 ソウルが5バックの守備陣形で対抗しようとしたように、相手チームは”風間流サッカー”を認め、守備的布陣を強いてきた。結果として川崎Fはソウルを相手にホームで3失点して敗れてしまうのだが、この敗戦やJリーグ勢のラウンド16での敗退を単純に「勝負弱さ」と結論付ける論調には「待った」をかけたいと思う。少なくとも川崎Fの負けは、力の差を痛感するような、どうにもならない負けではなかったからだ。

 たとえばDF田中裕介は「なんて言うんだろう。この(川崎Fの)サッカーは『誰かのせい』とかじゃないんですよね」と話を切り出し、ソウル戦については「相手が良くて負けたというよりも、自分たちが崩せなくて負けたという気持ちをみんなが持っている。相手が強く歯がたたないよ、という試合はたぶん今年は1試合もないと思うんですよね」と話す。

 同じく川崎Fのサッカー自体への自信を口にするのはFW小林悠だ。

「ウチの場合は(ソウル戦における)ホームでの負けが一番痛かったし、それに尽きますね。あれが最悪引き分けていれば……。別に負けた感じは全然ないですし、そこはもどかしいですね」

 アジアでの戦いについては、一般にフィジカルな”戦い”での弱さを原因とする論説も多い。だが、当事者である選手はそうした見方を一蹴する

 小林が「そんなに大きな差は無いですかね。球際はもっと来るかなと思っていたイメージよりは全然来なかったので、そんなに差があると思わなかった」と述べれば、MF森谷賢太郎も「Jとアジアの一番の違いは球際とか、イーブンボールでもしっかり奪いに来るところ。でもそれはウチみたいにパスを回して崩していくやり方と合っているんですよ」と言う。また「アジアにはないサッカーだと思うので、そういう意味ではすごくやりやすかったというのはあります」(森谷)と至って前向きだった。

 これらの意見にMF中村憲剛も同調する。「Jとの違いはありました。だけど、その厳しさ・激しさはやれる範囲。サッカーの内容的にも、全然オレらに落ち度があるとは思わない。もちろん負けてはいますが、『内容が悪いから負けた』とは思っていません。『韓国、中国に劣っているから負けた』とも思わない」。守備について言えば、田中裕介は「アウェイでやったときのソウルこそ緻密に守ってきましたが、ACLを全部通して言えば、スペースはあるなと感じていましたし、ディフェンスの距離感とかは日本のチームのほうがやりにくい」と話す。中村憲も「(アジアはJと比べて)ざっくりしていた」と述べて肯定もしていた。

 ただ、それでも川崎Fはソウルに敗れたという事実はある。その原因はなんなのか。その最大要因は、ミスを逃さない対戦チームの決定力の高さが挙げられる。

 ACLに限らず、Jリーグでも川崎Fは決めるべきところで決めきれず試合を落としてきた。つまり、サッカーとしての敗因は、アジア勢との対戦に固有の問題が出たというより、川崎F自体が抱えている問題が出たというだけのことだ。

▼日程と集客という問題
 その上で、このクラブを取材してきた一人の記者として、日程の問題については指摘せざるを得ない。

 2月26日のACL第1節・貴州人和(中国)戦を皮切りに今季の戦いを始めた川崎Fは5月18日のJリーグ第14節・横浜FM戦までにJリーグの13試合とACLの8試合を戦ってきた。

 その間、コンディション維持を優先させた武田信平社長の英断もあり、試合日を金曜日にずらすなど中2日での試合を極力減らすべく努力を重ねた。名古屋や柏の協力を得て、観客動員数の減少による収益悪化も覚悟しながらのものである。それでも気温が上がり始めた4月中旬以降になると、試合中に足が止まる傾向は見え隠れするようになっていた。

 そして、ラウンド16進出決定後、ソウルはKリーグの試合日程を変更する。具体的には、5月11日に予定されていた城南戦を5月18日にずらしているのだ。川崎Fの例で言えば、Jリーグ第13節の5月10日の鹿島戦がそれに当たる。

「ソウルは飛ばしているんですよ。うちが鹿島とやっている時です。だからラウンド16に関してソウルは”中1週間”あったんですよ。ウチらは中2日で鹿島と戦って、その後アウェイでソウルと戦った時ですね。それで『勝とう』と言われても、そんなに簡単じゃないですよね」

 そう話してくれたのは中村憲剛だ。その口調は抑え気味だったが、それでも疲労が蓄積した中での連戦の影響について否定することもなかった。

 またある主力選手は日程について、「あそこ(鹿島戦)をもう一つ飛ばせていたらまた違った結果になっていたかもしれません。ウチは今季、日程をやりくりしてラウンド16に進めたのですが、それをもう一度、一番大事なところでやってほしかったですね」と述べる。「フレッシュな状態でやっていれば負けるわけがなかった」とも述べるこの選手が主張するように、疲労がパフォーマンスに影響を及ぼしていたのは確実だ。

 ここで「疲労の影響は確実だ」と言い切るのには理由がある。

 5月18日の0-3で完敗した横浜FM戦後、風間監督が会見の冒頭「やっぱり選手の足は重く、(疲労が)来ていたんだなという感じの試合でしたが、選手はよく戦ってくれました」と述べているからだ。

 強気な指揮官は「この連戦は普通であれば体験しなくてもすむ連戦だった」とも述べている。もちろんW杯開催による8週間の中断は仕方のないものではあるが、それにしてもこれだけの連戦について改善の余地はあったはず。そんな主張だ。

 風間監督はそうした日程への不満を、21連戦中には極力言ってこなかったとも述べている。もしそれを言ってしまった場合、「心が折れてしまう」からだ。監督が言う「疲労」には、肉体的なものだけでなく精神的なものも含まれている。「体だけではないからね、消耗するのは」と話し、心の消耗も連戦を戦う上で重要な要素だったとの認識を示している。

 最後に日程問題に加えて、AFCがACLにて強引な収益化を図っている弊害にも言及しておきたい。放送権料が収益の柱になりうるものであることは理解しているが、高騰する放送権料の影響で試合映像が大会の告知にすら使えなくなり、その結果としてスタジアムから観客の足が遠のいているという現状がある。

 まるで欧州CLかと錯覚するような価値をACLに設定し、何とか放送権料を日本から搾り取ろうとする姿はいかがなものか。たとえばAFCにあるACL公式ページがYoutubeにて公開しているAFCのダイジェスト動画は、日本国内での視聴が禁止されてしまっている。他国では視聴できるにもかかわらず、だ。ACL敗退を嘆く協会関係者の声も聞こえてくるが、日程の改善に加え、集客にメリットをもたらす試合映像の使用に関して、その条件の緩和をAFCに働きかけていくことも必要ではないだろうか。

 基本的にミッドウィーク、平日に行われるACLは、リーグ戦以上に集客に力を入れなければ収益を望めないコンテンツになっている。その収益増を図る必要がある。クラブライセンス制度によって野放図な経営が戒められているJリーグだからこそ、 ACLに出ることについての金銭的なメリットが生じるような「構造」を作り出す必要があるように思う。

 こういった問題は、クラブや選手個人の努力で変えられるものではない。Jリーグ勢の早期敗退について安易にクラブへ責任を負わせるべきではない。これは、日本サッカー界全体で考えるべき問題だ。


江藤高志(えとう・たかし)

1972年12月生まれ。大分県中津市出身。99年にコパ・アメリカ観戦を機にライター業に転身し、04年シーズンからJ’sGOAL川崎F担当として取材を開始する。プロサッカー選手について書く以上サッカーを知るべきだと考え2007年にはJFA公認C級ライセンスを取得する。また、川崎F U-12を率いダノンカップ4連覇などの成績を残した髙﨑康嗣元監督の「『自ら考える』子どもの育て方」(東邦出版)の構成を担当した。