J論 by タグマ!

仮想シミュレーション『浦和レッズvsギリシャ代表』

Jリーグの前半戦を首位で終えた浦和は戦いの場をブラジルに移し、堅守速攻で知られるギリシャと対峙することになった。試合前日の公式会見では「相手がどこであろうが我々のスタイルが変わることはない」と豪語したミハイロ・ペトロヴィッチ監督(隣に杉浦通訳がいないため寂しそうだったが)。

日本代表のW杯は、第1戦を終えて早くも危機的状況にある。毎週、週替わりのテーマで議論を交わす『J論』では、「初戦敗北。ギリシャ戦に向けた日本の採るべき術策は何か?」と題してお送りしてきた。最後は、Jリーグの単独チームがW杯に出ていたら、果たしてどんな戦いになるのか。そんな”妄想”を膨らませることで、対戦相手の特長を浮き彫りにしていく企画の第2弾。今回登場するのは、J1首位クラブである浦和レッズ。強烈かつ独特なポゼッションサッカーは、欧州の勇士たちに通用するのであろうか。(なお、浦和のメンバーはJ1最終節時点のものをベースとした。つまり原口元気がまだ浦和にいる前提である)


▼原口にブンデスの洗礼
 Jリーグの前半戦を首位で終えた浦和は戦いの場をブラジルに移し、堅守速攻で知られるギリシャと対峙することになった。試合前日の公式会見では「相手がどこであろうが我々のスタイルが変わることはない」と豪語したミハイロ・ペトロヴィッチ監督(隣に杉浦通訳がいないため寂しそうだったが)。当然、自慢の[3-4-2-1]をW杯の舞台でも貫く。ワイドな3バックとボランチでボールを動かし、攻撃時は[4-3-3]ながら、守備時には[4-1-4-1]となるギリシャを崩しにかかった。

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 右の梅崎司と左の宇賀神友弥が縦を突いてクロスを上げ、そこに1トップの興梠慎三とシャドーの原口が合わせようとするが、彼らが見上げるほどの体格を持つディフェンスラインにことごとく跳ね返されてしまう。

「前半からわれわれが多くのチャンスを作っていた」とペトロヴィッチ監督は強調したが、クロスの数こそ前半だけで10本を数えたものの、そこからシュートにつながったのは興梠がスライディング気味に合わせた1本のみ。前半32分には柏木のスルーパスに興梠が飛び出してゴールネットを揺らしたが、これもわずかにオフサイドだった。

 そんな中でこの大会を最後にヘルタ・ベルリンへの移籍が決まっている原口は守備的MFのツィオリスの厳しいマークにあい、ほとんど存在を消されてしまっていた。青木からタイミング良くパスを受けて仕掛けた場面でも、強豪ドルトムントの主力を担うCBパパスタソプーロスに止められ、早くもブンデスリーガの洗礼を受ける格好となった。

▼浦和スタイルにギリシャ苦しむ
 一方のギリシャも、浦和が見せる攻撃から守備への素早いトランジションに戸惑いを見せていた。守備→攻撃は極めてゆっくりなのに、攻撃→守備はやたらと素早い。サントス監督が「あれだけトランジションに差があるチームは欧州でも見たことがない」と振り返ったのも無理はない。特に両ボランチ、阿部勇樹と青木拓矢のリスク管理は絶妙であり、コネとカツラニスの出足を完璧に封じ、ギリシャの速攻の芽を摘みとっていた。

 さらに左ワイドで起点となるサマラスは、森脇良太の形振り構わぬ執拗なチェックを前に予想外に封じられていた。効果的な攻め手がないまま、流れの中ではトロシディスが放ったクロスにセンターFWのミトログルが合わせたヘディングシュートと、右ウイングのサルピンギディスの強引なカットインからのシュートぐらいしかチャンスらしいチャンスは生まれなかった。浦和が戦前から警戒していたCKも、前半はたったの1本しか奪うことができなかった。そのCKも、ホレバスの左足にマノラスが森脇に競り勝って合わせたボールはGK西川周作の正面。事なきを得た。

▼槙野一喝!! しかしPK!?
 前半の終了間際、停滞感の漂う流れにカツを入れたのがDF槙野智章だった。阿部を起点に宇賀神がボールを持つと、その内側を豪快に駆け上がって縦パスを引き出し、左足でシュート。マノラスのブロックを破った弾道はカルネジスの反応を破りゴールネットに突き刺さった……かに思われたが、左ポストを直撃した。

 彼らしく大袈裟に天を仰いだ槙野だったが、型破りのプレーは確実にチームに勢いをもたらした。槙野をはじめ森脇や青木が攻め上がる形でギリシャの守備ブロックに圧力をかけ、「正直、最初は緊張していた」という梅崎も流動的に2シャドーと絡むことで、バイタルエリアでフリーの状態ができる。

 そして迎えた後半、その立ち上がりだった。梅崎を起点に柏木がワンタッチで横に流すと、原口が右足で放ったシュートは惜しくもGKカルネジスにセーブされたが、こぼれ球を興梠が押し込み待望の先制点が生まれる。興梠は全速力でベンチに駆け寄り、選手たちと抱擁を交わした。

 しかし、その1分後。キックオフから一発で出たロングパスに反応したミトログルがディフェンスラインを破りにかかる。那須が懸命のカバーリングで止めにかかったが、ボールを狙ったタックルは足にかかり、ミトログルは転倒。エルサルバドル人のアギラール主審は無情にもペナルティスポットを指差した。

 キャプテンの阿部が主審に詰め寄るも、判定が覆ることはなくPKに。「今大会は普段取られない様な場合でも取られることは分かっていた。スキを見せたのがいけない」と那須は語る。しかし、ゴール左を狙ったミトログルのキックは、守護神・西川がドンピシャの反応で止め、チームを救った。

 終盤になり、ギリシャはフェトファツィディスとカラグニスを投入し、攻撃の活性化を図る。浦和は3バックと両翼に阿部を加えたディフェンスで何とかしのぐ。ギリシャがさらに長身ゲカスの投入でFWの枚数を増やしロングボールを多用してくると、ペトロヴィッチ監督は興梠を下げて濱田水輝を入れる緊急布陣で対応した。

 迎えた後半ロスタイム、セカンドボールからカラグニスが放ったミドルシュートが鋭くゴールを襲うが、素早く反応した西川がキャッチし、すかさず前方にパントキック。これに反応していたのは、一人前線に残っていた原口。自慢のスピーディなドリブルで一気に抜け出してパパスタソプーロスを破ると、飛び出してきたGKカルネジスの鼻先をかすめるようなシュートで鮮やかにゴールを陥れた。

「あの形は練習から狙っていました」と西川が興奮気味に語るロスタイム弾で、苦しみながら浦和が2-0で勝利。ペトロヴィッチ監督は「我々のサッカーが世界で通用することを証明できた。次はJリーグでそれを証明したい」と語りながら目頭を熱くさせていた。