無限の可能性と危うさのアンバランス。それでも『宇佐美貴史』を推さずにはいられない
青黒の大阪の名門を取材する下薗昌記が選んだのは、同クラブが生み出した一人の怪物。日本人離れした決定力と明らかな弱みを抱える男を、どう評価するべきなのか。
▼最強の長所と長年の課題と
「この試合から次のW杯への道が始まる」(宇佐美貴史)
W杯ブラジル大会で惨敗を喫した日本のサッカー界は、中断していたJリーグの再開と共に、ロシア大会に向けた長いカウントダウンを開始した。
十代から脚光を浴び続けたガンバ大阪の至宝にとっては、むしろ遅すぎる世界デビューを目指すロシア大会ではあるが、再開初戦のヴァンフォーレ甲府戦では、ワールドクラスのシュート力と同時に、長年指摘され続けている課題も露呈していた。
自らの1得点1アシストで試合の流れを引き寄せていながら、後半から宇佐美の運動量はガックリと落ち、前線からの守備も皆無に近い状態に。「ああいう苦しい展開の中で、守備をすることはもっと要求しないといけない」と長谷川健太監督も、途中交代させた背番号39の課題を口にしたが、他ならぬ宇佐美自身はアッサリとしたものだった。
「今日の自己採点は20点ぐらい」。自らの出来をこう切って捨てた宇佐美だったが、不満を感じたのは守備面での貢献度の少なさではなく「ボールを取られたら、取り返せとよく言われるけど、ボールを取られなければ取り返しに行く必要もない。究極を言えば、後ろから相手のGKまで全員抜いて点を決められればこんなに楽しいことはない」という自らの攻撃力だったという。
あたかも守備放棄を宣言しているような現状認識に、思わず筆者も危うさを感じた。
だが、それは単なる杞憂だった。
▼その長所に感じる圧倒的魅力
メッシ化宣言か?――そういぶかしむ番記者たちに対し、後日宇佐美はその真意をこう明かしてくれたのだ。
「6、7人抜いて点を取れればいいなんて言いましたけど、そんな選手は世の中に一人もいないと思う。でもその理想を突き詰めないと1、2人もかわせない選手になってしまう。それに僕ぐらい攻撃で中途半端だと、守備は必要だから」
「20点」どまりだったヴァンフォーレ甲府戦で見つめ直した自らの足元は、アギーレ新体制が正式に決定した直後のヴィッセル神戸戦におけるパフォーマンスにしかと反映されていた。この日も背番号39の最大の持ち味である振りの鋭いミドルシュートを相手ゴールに突き刺して先制点を叩き出すと、自陣での守備にも積極的に顔を出していく。
それにしても驚異的なのは、そのシュート精度の高さである。再開後のリーグ戦3試合で3得点という数字もさることながら、とにかく背番号39の両足から放たれるフィニッシュは、ほぼ枠を外すことがない。
昨年7月にレンタル移籍から復帰した当初、実は長谷川健太監督はその適性ポジションを計り兼ねていた。「中盤をやらせるとポジショニングと守備面で物足りなさがあった。その反面、シュートが日本人離れしているので前線で使おうかと」。
なまじ攻撃面で万能であるがゆえに、デビュー当時から中盤で起用され「貴史の課題はオフ・ザ・ボールの質」と当時の西野朗監督にその弱点を指摘されていた宇佐美だったが、ドイツでもその欠点は改善しきれずに、中盤ではそのマイナス面だけがひたすらに目立つ恰好となってしまっていた。
だが、前線起用となると、長所がより際立つ。
この先、メキシコ人指揮官とともに再起を期す日本代表がいかなるスタイルを志向しようとも、不可欠になるのが相手ゴール前での個の力だ。「堅守速攻」という肩書きが早くも一人歩きしているのがナンセンスとしか言いようもないが、ボールを支配しようとカウンターで相手のスキを突く展開になろうと、ゴールを決め切る個の力は間違いなく必要なもの。新しい日本代表において、宇佐美のシュート力は不可欠になっていくのではないか。
▼純粋なる求道者として
昨年J2リーグとはいえ、18試合で19得点を叩き出したことで、自らの生きる道をストライカーに見出すことになったガンバ大阪の至宝。「新監督にアピールしたいというよりも、自分の良さを出していれば、呼ばれるはず。監督がどんなスタイルを目指すかは関係なく、圧倒的な存在なら、呼んでみたくなるはず」。
時に自信過剰にさえ聞こえる言葉が一人歩きしがちだが、宇佐美貴史はエゴイストではなく、純粋なる求道者である。目指すは一度否定したはずの究極の個。「6、7人を抜いて点を決められる選手になりたい。理想に近づこうとする精神や努力がないと何の個性もない選手で終わってしまう」。
無限の可能性と、危うさが相半ばする天才をいかに活用するのか――。試される立場にいるのは、実のところ世界を知るメキシコ人指揮官なのかもしれない。