J論 by タグマ!

帝王・南野拓実。U-19不動のエースが狙うは、アジアを越えて「世界一」

A代表候補の経験も持つ桜の麒麟児、南野拓実を高校時代から丹念に取材を重ねてきたゲキサカの現場記者・吉田太郎氏が語り尽くす。

週替わりのテーマを決めて日本サッカーについて語り合う『J論』。今回は4大会ぶりの世界切符を狙うU-19日本代表の若きサムライたちを取り上げる。Jリーグで育った彼らの戦いは、そのまま日本サッカーの未来を占う場ともなるだろう。まずはチームの看板選手であり、A代表候補の経験も持つ桜の麒麟児、南野拓実を高校時代から丹念に取材を重ねてきたゲキサカの現場記者・吉田太郎氏が語り尽くす。

20141007minamino.JPG

<写真>2011年U-17W杯のリベンジなるか。 (C)川端暁彦

▼「切り替え」という帝王の美点
「若き天才」、「8番の後継者」、そして人気映画『難波金融伝ミナミの帝王』とその苗字が見事にリンクした「帝王」――。

 少し突き抜けている程度では、名付けてもらえそうもないような代名詞をいくつも背負い、昨年までセレッソ大阪の監督を務め、MF香川真司やFW柿谷曜一朗らを育てたレヴィー・クルピ氏からは「日本のサッカーを背負って立つ選手」とも評されていた。その才能にほれ込んだファン、関係者は19歳の南野拓実に数多の賛辞を浴びせている。

 昨夏、当時セレッソ大阪のエースナンバー8番を背負い、その圧倒的な技巧と得点力でチームをけん引していた柿谷曜一朗もインタビューで”南野の脅威”について語っていた。「アイツの技術の高さなんて、ボクが言うまでもない」と認めた柿谷はその日、南野がU-18日本代表の練習試合で4点取ったことを聞かされると、苦笑しながら「そんなニュース聞きたくないですけどね。焦ってしまう。ポジション獲られるんやないかと」と当時18歳だった南野の台頭、そしてそのポテンシャルの高さに危機感をあらわにした。リップサービスもあったかもしれないが、そのコメントに違和感を覚えないほどの才能は、確かに持った選手だ。

 南野は高校3年だった12年11月にJ1デビューを果たし、昨年はJ1で5得点をマークしてベストヤングプレーヤー賞を受賞。今年は日本代表候補、W杯予備登録メンバー入りと階段を上ってきた。後方からのロングボールをワンタッチで自分のドリブルコースへ収めてしまうハイセンスなトラップ、Jの経験豊富なDFたちを震え上がらせてきた高速ドリブル、そしてスルーパスにミドルシュートと、その武器は多彩だ。

 また献身的な守備ができることも、この男の価値を高めている。セレッソ大阪の育成組織で攻守の切り替え、ハードワークを徹底して叩き込まれてきたからである。

「世界のサッカーを見ていたら、切り替えの速さとか、守から攻へのダッシュのダイナミックさとか、全然違うなと感じて。(当時U-18チーム監督で現トップチーム監督の)大熊(裕司)さんからそういうところをすごく指摘されて、『今後のサッカーで切り替えのところがすごく大事になってくる』ということを凄く言われ、自分でも『そうだな』と思った。こだわってやってきたのが、いま自分のプレースタイルにつながっている」。

 柿谷に次いでセレッソの出世番号「13」を背負っている南野はゴールという結果こそまだ追いついていないものの、「こだわってきた」というダイナミックさとハードワーク、推進力という点に関しては前任者をも上回るパフォーマンスをJで見せている。

▼「世界一」への第一歩
南野には「理想の自分を書いています」と自分の”未来予想図”、目標を書き記してきたサッカーノートがある。そこに加えられていた「ブラジルに行く」という夢。19歳は今夏「本気で」W杯出場を狙っていたわけだが、その夢はかなわなかった。同じく昨年サッカーノートに書き記していた「優勝する」は今年もかなえられず、現在17位(第27節終了時点)。個人としても26試合に出場して2得点と、「帝王」の笑顔が輝いた回数は決して多くない。

 それでも南野は、今年出場できなかったW杯の代わりにサッカーノートへ「世界一」という新たな目標を書き記した。それは10月9日に開幕するAFC U-19選手権ミャンマー2014から始まる戦いだ。

 2年に一度開催されるAFC U-19選手権は、参加16カ国・地域がアジアの頂点と20歳以下の世界一決定戦であるU-20W杯(旧ワールドユース)の出場権アジア4枠を懸けて争う場だ。1994年大会から7大会連続でアジア突破を果たした日本は、小野伸二や高原直泰らを擁した99年のワールドユースでは準優勝という快挙を成し遂げた。だが、内田篤人や香川真司らを擁した2005年のU-20W杯出場を最後に、3大会連続でアジア予選敗退中。今回、南野が参加するAFC U-19選手権には実に4大会ぶりとなる世界切符がかかっている。加えて、日本はU-16世代が1994、2006年にアジア王者となっているが、U-19世代は一度もアジアのタイトルを獲ったことがない。その歴史を南野ら1995年生まれ以降の世代が変えることができるのかも注目点となる。

 日本サッカー協会もU-20W杯出場への「本気」を感じさせている。南野は9月にアジア競技大会へ出場したU-21日本代表でも有力なエース候補だったが、あえてU-19日本代表の活動に専念させた。そして、南野自身も「世界」へ懸ける思いは熱い。

 南野は11年にメキシコで開催されたU-17W杯に出場している。前年のAFC U-16選手権で得点王を獲得。U-17W杯メンバーには岩波拓也や植田直通、鈴木武蔵といった今後の日本代表入りが期待されるタレントが名を連ねていたが、それでも”南野世代”と呼ばれるほど、南野の存在感は抜きんでていた。

 だが、U-17W杯では不調に陥っており、チームが18年ぶりの8強進出に沸く中、先発は2試合のみ。得点も6-0で圧勝したニュージーランド戦の1得点のみという散々な内容に終わってしまう。だからこそ、”帝王”は世界でのリベンジへ意欲を燃やしている。

「自分のターニングポイントと言えるくらいの経験をしたと思っているので、メキシコでは。すごく悔しい思いをした大会なので、だからこそU-20で『世界』に行きたいという気持ちがあります」

▼重いエースの責務
 実際、U-19日本代表は南野がピッチにいるかいないかで驚くほどにそのパフォーマンスは変わってくる。Jリーグでの出場機会が少ない選手たちが大半という理由もあるが、南野が攻撃面はもちろん、チームメートが「高い位置でいくというタイミングをつくってくれる」という守備面での貢献度も実は大きいからだ。

 J1の中断期間を利用してスポット的に参加した6月のUAE遠征では、U-19UAE代表との2連戦で2試合連続ゴールも決めてみせた。鈴木政一監督はそんなエースに期待することについて「得点ですよ」と一言。この代表は他の世代の日本代表同様、チャンスを多く作りながらも、ゴール前での精度を欠くシーンが少なくない。それだけに1点を争う展開になるであろうアジアの戦いで、「エース」の存在は重い。

 今回のグループリーグは中国、ベトナム、韓国と難敵揃いとなった。前回大会で世界への行進を止められたイラクとも、準々決勝で対戦する可能性もある厳しい組み合わせだ。だが、例え劣勢になっても守り切ることさえできれば、「南野の一発」を待てるというのは大きい。今春、U-21日本代表候補とU-19日本代表候補が対戦した練習試合で、南野は劣勢の展開の中で先制ゴールを決め、ラストパスで相手のオウンゴールをもたらした。U-21日本代表の手倉森誠監督が「(南野が)点を取ったときは『やっぱり取ったか』という、そんな気持ちにさせますよ。あれだけ中盤で劣勢になっても彼は虎視眈々とチャンスを狙っている。その姿勢について、『怖い選手だな』と思いながら見ていた」と語っていたのは印象的だった。

 日本の次世代を代表する「怖い選手」がアジアでもライバルたちを震え上がらせる。そして来年は「世界一」と記された目標とともに、「帝王」が世界相手にリベンジする。


吉田 太郎(よしだ・たろう)

千葉県千葉市生まれ。幼少時に九州へ渡り、約20年を小倉で過ごす。アルバイトと放浪を繰り返した大学生活後にスポーツライター・金子達仁氏主催の「金子塾」へ入塾し、上京。04年からスポーツ紙の静岡支局でサッカー王国の高校サッカーを学び、07年より、主に講談社『ゲキサカ』記者として活動。取材量と仕事量の多さが生命線。14年9月発売の『最後のロッカールーム 完全燃焼』(講談社・高校サッカー年鑑編集部)執筆。