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【東京V】【トピックス】検証ルポ『2017シーズン 緑の轍』序章

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【無料記事】【トピックス】検証ルポ『2017シーズン 緑の轍』序章(17.12.20)スタンド・バイ・グリーン

今季、太田岳志は10試合ベンチ入りも出場はなかった。

今季、太田岳志は10試合ベンチ入りも出場はなかった。

2017シーズン、東京ヴェルディは5位に躍進し、初のJ1昇格プレーオフに出場した。20勝10分12敗で、勝点70に到達。得点64、失点49。得失点+15。スペインの風を運んできたロティーナ監督は、就任初年度から目覚ましい結果を出した。
今回のシリーズでは監督や選手の証言をもとに重要なポイントを整理しつつ、シーズンを総括したい。歴史の縦糸を通すことで、見えてくるものもあるだろう。J1を現実的な目標と捉える来季、ロティーナ監督は今年のチームをベースに、また新たな一面を示してくれるに違いない。

序章 知らなくてもいい話

■サポーターから必要だと言われる選手に

11月19日、J2最終節、東京ヴェルディは徳島ヴォルティスを2‐1で下し、5位でJ1昇格プレーオフ進出を決めた。

僕は最後の週にピークを持っていこうと計画しており、「炎の全選手、全コーチングスタッフコメント」という前例のない目玉企画を用意。プレーオフ決勝のキャストは18人の選手と一部のスタッフだが、それ以外の人々も胸に秘める思いはあるはずで、すべて余すことなく読者に届けたいと企てた。

結果、どうなったか。東京Vは決戦の地まで辿り着けず、盛大なお蔵入りである。取材に協力してもらった選手やスタッフには時間を取らせるだけで終わってしまい申し訳なかったが、何より行き場をなくした言葉の数々を残念に思う。

シーズン中は、目の前の試合に向けて注目選手のピックアップ、チーム状態の把握が僕の主な仕事だ。主力からサブまでできるだけ幅広く選手を取り上げたいが、その試みにも限りがある。試合に絡まない選手はこういう機会でもなければ、じっくり話を聞けない。ゴールキーパーの太田岳志はそのひとりだった。

今季、太田の個人成績は10試合のベンチ入りのみ。柴崎貴広の牙城を崩せず、一度もピッチに立てなかった。

「1年を振り返って、納得はしてないです。出場はおろか、ベンチ入りも継続的にできなかった自分の立ち位置には納得のしようがない。ですけど、チームはこうしてプレーオフ進出を決め、結果を出していますからね。監督も全体の支えがあっての成果だと強調してくれるので、ここで個人の感情を出すべきではないと思います。残り試合、シバさんがよりいい状態で試合に入れるようにサポートしていきたい」

太田は、最終節の試合後、歓喜に沸くスタンドに上がってサポーターと触れ合った時間をこう振り返る。

「あの試合、出場停止だったイバ(井林章)には『待ってるからな』、『次は頼むぞ』という声が盛んに飛んでいました。本気の声や表情が目の前にあった。一方、自分には何もない。気持ちを向けてくれる人が誰もいない。試合に出ていないんで、当たり前っちゃ当たり前なんですけど、まざまざと差を感じました。もっとチームに直接的に貢献し、サポーターから『おまえが必要なんだ』と言ってもらえる選手になりたい」

サポーターの存在が、こんなふうに選手の心を駆り立てることもあるのだと僕は知る。今季、プロ17年目で初の全試合フルタイム出場を果たした柴崎の例は太田の励みだ。「バックアップする側の立ち居振る舞いは、シバさんからたっぷり学びました。いつか自分もきっと」と笑った。

大半の人にとっては、知らなくてもいい話だ。プロの世界ではごくありふれた光景で、チームが躍進した要因との結びつきも薄い。だが、ここにもサッカーに生きる人のたしかな手触りと温度がある。起こった事実をブラインドサイドから照射し、別の何かを浮かび上がらせることも可能だろう。そのあたりも今回のシリーズに盛り込んでいければと思う。

(検証ルポ『2017シーズン 緑の轍』序章、了)

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