【東京V】【フットボール・ブレス・ユー】第30回 終わりと始まり ~東京ヴェルディユース2017極月~
【無料記事】【フットボール・ブレス・ユー】第30回 終わりと始まり ~東京ヴェルディユース2017極月~(17.12.16)(スタンド・バイ・グリーン)
第30回 終わりと始まり ~東京ヴェルディユース 2017極月~
12月、日本サッカーの暦ではさよならの季節。ひとつの区切りを迎えたサッカー少年、少女たちが、ランドに別れを告げ、旅立ってゆく。彼らにとってこの場所は産湯のようなものであり、時期を経て帰ってくる者がいれば、振り返ろうとしない者もいるが、生涯その胸に生き続けることに変わりはない。
12月10日、高円宮杯U-18サッカーリーグ2017 プリンスリーグ関東最終節、東京ヴェルディユース vs ジェフユナイテッド市原・千葉U‐18。チームの中核を成す藤本寛也、田中颯は出場停止で、ラストマッチをピッチの外から見守った。結果は、1‐1のドロー。今季の東京Vユースは、プリンス関東6位に終わった。
左利きのサイドアタッカーである大森渚生は、ランドで過ごした日々をこう回顧する。
「小3の終わり頃、ジュニアに入り、9年間お世話になりました。ジュニアユースまではずっと一番上のグループでやらせてもらったんですが、ユースに上がってから壁にぶつかりました。1年、2年とあまり試合に出られず、どうやったらレギュラーになれるのか地道に自主練を積む日々。試行錯誤を経て最後の1年はスタメンで出られるようになり、そのあたりの精神的な強さは身についたと思います」
大森は関東の大学にスポーツ推薦で進学することが決まっている。
「できるだけ早く試合に出られるように、練習からしっかり取り組んでいきたい。高校と比べて自由の多い大学生活では、自分でやることが大事。力をつけて、4年後のプロを目指します」
東京Vユースの名は全国区だから、周囲からは特別な目で見られることになる。だが、聞いたこともないような無名の高校から逸材が集うのが大学サッカーだ。競争は予想より厳しいものになるだろう。
キャプテンでU‐18日本代表にも名を連ねる谷口栄斗は、トップ昇格が見送られることになった。
谷口は言う。
「上がれないと聞かされたときは悔しかったです。ただ、トップの畠中(槙之輔)くんを見ても、センターバックは若いうちから試合経験を積むのが一番重要なのはわかります。大学でもっといい選手になり、ヴェルディでまたプレーできるように、あるいはより上のチームから声をかけられるようにがんばっていきたい」
永井秀樹監督は、失意を露わにする谷口に対し、「相手からお願いしますと頭を下げられ、応じるかどうかを決めてこそプロだよ。こっちから頭を下げるのは筋が通らない」と諭したそうだ。
クラブの外から聞こえる谷口の評価は高く、4年後、東京Vが現状のままでは手の届かない選手に成長している可能性はある。その際はかつて与えた過小評価を、手元に置いて育てる余裕がなかったことを悔やむほかない。
キャプテンの谷口栄斗(右)と大森渚生。ともに大学に進学し、プロを目指す。
11月18日、ブリオベッカ浦安とのトレーニングマッチ。来季、チームの中心として10番を背負うだろう森田晃樹が、かつて10番を付けたユースの先輩、清水康也を軽やかにかわす。
藤本がトップに昇格し、そのほかのメンバーは大学へ。99年組がランドを巣立ったあとを受け、チームの中心は森田晃樹の世代が担う。森田は、いかにもヴェルディっぽいと形容されそうな中盤のテクニシャンだ。ボールを持ったときの雰囲気があり、駆け引き上手。キープ力、中盤で自在にパスをさばけるのはすでに証明済みである。
ひと足先にトップで主力として活躍する渡辺皓太は、森田の印象を次のように語る。
「足元はめちゃくちゃ巧い。そのうえ、じつはディフェンスも上手。読みを利かせて、こっちの動きを先回りしてくる。自分の苦手なタイプです」
森田は今後のテーマについて「ゴールに絡むプレーを増やしたい。得点、アシストなど、直接的に関与する仕事を」と語っており、課題は明確だ。この才能がさばき屋で終わってしまえば、先はない。
もうひとり、チームを牽引していくだろうと目されるのが山本理仁である。誰が見ても、ひと目でスペシャルだとわかる才気煥発なレフティだ。
「ユースに上がって1年目、代表で離れる以外ほぼ試合に出られたのはよかったです。目標は、トップに上がって、今年J1に上がれるかわからないですけど(※話を聞いたのはJ2最終節の前だった)、もしJ2だったら自分の力で上に上げたい」
山本のプレーについて、大森がこんな話を聞かせてくれた。
「自分が逆サイドにいても、ちゃんと見えている。めっちゃ遠いのに目が合うんですよ。それで、いい動きをすればパスが出てきます。それも、こっちがほしいと思う質のボールが」
山本は、ヴェルディS.S.相模原出身で、小4からジュニアに加入。河野広貴(サガン鳥栖)や南秀仁(モンテディオ山形)の後輩にあたる。読売クラブの「こだわりドリブラー」と呼ばれた土持功の直接指導は受けていないそうだが、いずれ機会を見つけて話を聞きにいってみたい。
武器は左足のキック。同じく左足がセールスポイントの先輩、藤本寛也と比べて、得ている手応えはどうだろう。まだ見劣りするか、それとも。山本はしばらく考え、言った。
「負けたくないですね」
いい答えだ。あっさり白旗を上げるようでは見込みはない。かといって、尊大な態度を取るのも違う。
ジュニアユースで山本を指導したジョゼ・アントニオコーチ(12月9日、退任が発表された)は言った。
「理仁の長所は、学ぶ姿勢があること。吸収力があること。謙虚であること。彼はそれを持ち続けることのできる人間です。足りない部分はありますけど、長所を伸ばしていくことで目立たなくできる。バランスを整えることに一生懸命になりすぎるとダメね。平均的な選手にしかならない」
永井監督の見立てはこうだ。
「あいつは(中村)俊輔を超えるよ。言っとくけど、最高到達点がそこではないからね。最低でも、という意味」
来年の新チームの見どころは、これからまだまだ発見されるに違いない。彼らがどんな成長を見せてくれるのか、その日を楽しみに待つとしよう。
トップに昇格する藤本寛也(左)と、早くも将来が嘱望される山本理仁。
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