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2015年の再現なるか。福岡はこの1年間で積み上げてきたもの、すべてをぶつける【J1昇格プレーオフ決勝プレビュー特集/アビスパ福岡の場合】

プレーオフを勝ち抜いた2015年を彷彿とさせる空気感

2017シーズンのJリーグで最後を飾るビッグゲームが、J1昇格プレーオフ決勝だ。J2・3位の名古屋グランパスと4位・アビスパ福岡が1年でのJ1復帰を目指して、12月3日に豊田スタジアムで激突する。今回、J論ではJ2天下分け目の決戦のプレビューを両チーム同時掲載。勝たなければJ1復帰がない福岡は、番記者・中倉一志氏(football fukuoka)が現在のチーム状況について触れた。

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▼プレーオフを勝ち抜いた2015年を彷彿とさせる空気感

 J1昇格プレーオフ準決勝のミックスゾーンは、これまでのリーグ戦とは幾分違った空気が流れていた。勝利の喜びにあふれるわけではなく、決勝戦に向けての熱い思いを声高に口にするわけでもなく、淡々と、それでいてしっかりと正面を見つめる選手の表情は、2015シーズンのアビスパの姿を思い出させるものだった。

 どんな結果になっても一喜一憂せず、どんな状況になっても置かれた状況を真摯に受け止める。常に頭の中にあるのは目の前の試合。相手の実力を認め、自分たちの力を客観的に把握し、自分たちがやるべきことを整理して日々の準備を重ねる。勝敗はその結果。未来の結果に惑わされることなく、怖がることも、気負うこともなく、ただ自分たちのやるべきことをやり抜くことだけに集中する。そのどこか突き抜けたような精神的な強さこそが2015シーズンを駆け抜けたアビスパの原動力。その時と同じ空気が、えがお健康スタジアムのミックスゾーンにあった。

 勝負事には、時として「マジック」や「秘訣」という言葉が使われる。しかし、それは単なる見かけ上のことで、すべては日々の積み重ねの結果。勝敗を分けるのは、ただそれしかない。もちろん、置かれた状況や対戦相手によって戦い方は変わってくる。その試合のためだけの戦術を用いることもある。すべてが決まる決勝戦ならなおさらのこと。見ている側からすれば驚かされるような采配もあれば、スーパーヒーローのような存在の選手が現れることもある。実際、過去のJ1プレーオフ決勝では、伏兵と呼ばれる選手が決勝ゴールを決めてきた。だが、それも日々の積み重ねがあったからこそ。あの日の中村北斗のゴールは、彼が13年間積み重ねてきた結果だ。

サッカーの神様にJ1の資格があるか問われたシーズン

 ここまでの戦いをあらためて振り返れば、2017シーズンは、苦しく厳しい戦いだった。開幕戦に敗れ、その後も思うように勝ち点を重ねられない日々が続いた。前半戦の勝負どころと見られた第10節・東京ヴェルディから始まったJ1昇格候補との直接対決5連戦を4勝1敗で乗り切った時には、ベテランを中心とした懐の深いサッカーに、J1自動昇格の手ごたえを感じられたが、後半戦は勝ち切れない試合が続いた。

 大事な試合で、けが人や累積警告などで主力選手を欠いたこともあれば、台風による順延などにも見舞われた。スタジアムの改修工事のため、J1昇格プレーオフ準決勝はレベルファイブスタジアムでの開催を断念せざるを得なかった。事あるごとに、サッカーの神様からJ1昇格の資格があるのかどうかを問われ続けたシーズンだった。だが、その中でアビスパは一つひとつ積み重ねてきた。

 そして12月3日、アビスパは、この1年間で積み重ねてきたものが何だったかを問われる試合を戦う。それは、チームとしての蓄積だけではなく、クラブフロント、クラブ職員、ファン、サポーター、スポンサー各社、メディア、そしてアビスパに関わるすべての人たちが積み重ねてきたものをぶつける戦いだ。リーグ戦の最終順位4位という成績は、思い描いていたものとは少し違うものだったかもしれない。けれど、アビスパとアビスパに関わる人たちは、それぞれの立場、それぞれの方法でさまざまなものを積み重ねてきた。その積み重ねが持つ大きなパワーは、ともに戦った仲間が一番よく知っている。あとは、そのパワーを豊田スタジアムのピッチにぶつけるだけだ。

 今季、最後の一戦に向けて井原正巳監督は次のように話す。

「1年間、この試合のためにやって来た。われわれが1年でJ1に復帰するチャンスが、この一戦にある。戦術うんぬんよりも最後は気持ちの強いほうに勝利の女神が微笑む。最後の瞬間までJ1に昇格するという強い気持ちを持って試合に臨めば、結果は必ず付いてくる」

 何事も恐れず、アビスパに関わるすべての人たちが積み重ねてきたものを信じ、そのすべてを目の前の相手にぶつける戦い。この仲間と戦う最後の90分間を最高の喜びで締め括るために、アビスパは豊田スタジアムでの戦いに臨む。